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日本はなぜ小児筋電義手が広まらないの?両手で子どもたちが得られるものがある【専門家】

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生まれつき片手のひじから先が欠損(先天性上肢欠損)した子どもが使える、自分の意思で動かせるロボットハンド「筋電義手(きんでんぎしゅ)」を知っていますか? 2000年に日本国内で初めて子どもの筋電義手の訓練を始めた兵庫県立リハビリテーション中央病院の陳隆明先生に、筋電義手について詳しく話を聞きました。

筋電義手ってどんなもの?

左上/筋電義手、右上/装飾義手、下/能動義手(写真はすべて大人用)

手足の形が、多くの人と違う形で生まれる子どもがいます。このような先天性や事故などで手が欠損した人が使う義手には、外観は人間の手に近いけれど動かせない「装飾義手」、体に巻きつけたハーネスから背中や反対の腕の動きをワイヤに伝えて操作する「能動義手」、特定の作業をするために特化した「作業用義手」などがあります。

これに加えて「筋電電動義手(以下、筋電義手)」は、訓練により自分の意思で動かすことができる義手です。

「筋電とは、脳の命令で筋肉を動かすときに生じる微弱な電流のことです。残った手や腕のどこかの部分から、義手の内側にある電極が筋電をひろって、モーターを動かすスイッチとして利用します。モーターが動くことでロボットハンドが開閉し、ものを“つかむ”“離す”という動作ができる。つまり、筋肉の信号によってハンドの開閉をコントロールするしくみです。小児用筋電義手は1才前から訓練をすることができます」(陳先生)

日本の小児筋電義手は欧米よりも30年くらい遅れている

筋電義手は1960年代にヨーロッパで開発され、1970年代には小児筋電義手の有効性が報告され北米や欧州では普及が進みました。一方日本では、1970年代後半に電動義手のプロジェクトがあったものの、症例が少ないなどの問題から継続されませんでした。それから2002年に陳先生が外来診療を開始するまで、子どもの筋電義手を扱う医療機関は国内になかったそうです。

「2000年ごろに国際学会に行ったとき、学会の発表の中で小さい子どもが筋電義手をつけて遊んだり運動したりする姿を目にして、衝撃を受けました。小児筋電義手は欧米では一般的だったのに、日本は30年以上の後れをとっていたのです。

すぐにカナダへ行って研修を受け、ノウハウを日本に持ち帰りました。同時期に、私たちの外来に“子どもに義手をつけてほしい”という要望が多かったこともあり、2002年から本格的に外来診療を開始しました。現在までに、生後数カ月の赤ちゃんから19才まで、卒業した子を含めると100人ほどの子どもを受け入れてきました」(陳先生)

日本ではなぜ小児筋電義手が広まらないのか?

日本で小児筋電義手を本格的に扱う医療機関は、兵庫県立リハビリテーション中央病院を含め3カ所のみだと陳先生は言います。普及しない要因として、公的補助金の支給制度に課題があります。小児用の筋電義手は1台約150〜160万円。国からの公的補助金の支給制度を使えば3万7200円ほどで購入できますが、申請するには筋電義手を使いこなせる証明が必要です。しかし、訓練用の筋電義手には公費負担の制度がありません。訓練期間は3〜5年ほどかかり、子どもの場合は成長によって新しい訓練用義手が必要になります。

「仮に訓練用義手を患者さん本人が購入した場合、混合診療(※)に抵触する可能性があるため、訓練だけを保険診療で行うことができず、すべて自己負担となってしまいます。そう考えると、子どもが訓練を保険診療で行うためには、筋電義手を病院側が用意する必要がありますよね。成長に合わせてパーツを作り替えるなど、3〜5年間でのメンテナンス費は1人あたり300〜400万円かかります。費用面の問題は大きいです。

また、医師や作業療法士、義肢装具士も筋電義手訓練を習得しなくてはなりません。人材育成の面もハードルはあります」(陳先生)

小児筋電義手バンクの設立

小児筋電義手の外来を開始してから数年で希望者は増え、年間で10人を超えるように。資金調達の都合上、筋電義手を用意できるまで訓練を受けられない子どもも出てきてしまいました。そこで陳先生は、訓練を希望する子どもたちに義手を貸し出せるよう、兵庫県の援助を受け2015年に『小児筋電義手バンク』を設立することに。

「バンクでは、県民や企業等に寄付を呼びかけ、集まった資金で訓練用義手の新品を購入します。また、筋電義手を使用している人に、成長に伴いサイズアウトして不要になった小児用筋電義手を寄付してもらいます。このように確保した筋電義手を、訓練が必要な子どもたちに無料で貸し出すしくみです」(陳先生)

これまでに総件数610件、総額1億4174万7910円の寄付を集め(2021年6月30日現在)、総計65名の子どもに筋電義手の貸与が実現しました。

筋電義手で子どもたちができるようになることは?

現在では全国から小児筋電義手のリハビリ希望者を受け入れ、遠方から飛行機で通院する子どももいるのだとか。

「私たちの希望としては、この20年間で国の制度が変わり、日本の各地方に拠点ができて患者さんが訓練に通えるようになればと思っていました。しかし、制度が変わらないことには普及も進みません。今の段階で私たちにできるのは、訓練を必要としている患者さんをできるだけ受け入れることだと考え、遠方で頻繁な通院が難しい人には通常とは違うメニューを組んで対応しています」(陳先生)

一方で、医療従事者にも今なお「片手があれば大抵のことはできる」という考えを持つ人もいたり、筋電義手に関して十分な知識がない地域も。

「工夫すれば片手だけでも生活ができるのは事実かもしれませんが、できることの質や、できるまでの過程が、片手か両手かではまったく異なります。たとえば、ペットボトルを持って空中でフタを開けることは、片手では絶対にできません。片手でペットボトルのフタを開けるには、テーブルに置くか、両足の間にはさむなど、何段階かの動作が必要です。
しかし筋電義手があれば、両手動作ができるようになります。これは大きな違いです。
いちばん怖いのは『できる』という言葉でくくられてしまうこと。できるまでの過程を重視してあげることが必要だと考えています」(陳先生)

(※)混合診療…病気に対する一連の治療過程で、保険診療と保険外診療(自由診療)を併せて行うことをいい、法律(健康保険法)で禁止されている。保険外診療を行った場合は、関連ある治療に対する費用が全額自己負担(健康保険適用外)となる。


写真提供/一般社団法人日本作業療法士協会、兵庫県立福祉のまちづくり研究所 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

お話・監修/陳隆明先生

医師でありながら、自ら寄付金を集め、厚生労働大臣への陳情や議員への働きかけも行ってきた陳先生。筋電義手を必要とする子どもが訓練できるよう、さまざまな取り組みを続けています。小児筋電義手バンクの寄付の問い合わせは以下へ。

【兵庫県立福祉のまちづくり研究所
ロボットリハビリテーションセンター課】
●電話/078・927・2727
(内線3810又は3811)

【兵庫県のふるさと納税の品目「小児筋電義手バンクへの応援プロジェクト」への寄付】
兵庫県健康福祉部障害福祉局ユニバーサル推進課
●電話/078・362・4090

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