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【専門医に聞く】小児がんの薬のドラッグ・ラグ問題。解決のために必要なことは?

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アジアの科学者使用顕微鏡
●写真はイメージです
RyanKing999/gettyimages

欧米では標準治療で使われている薬が、日本では承認されていないなど、日本の小児がんの薬はドラッグ・ラグが問題になっています。小児がんの薬の課題について、国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科診療部長の富澤大輔先生に聞きました。

子どもの薬は市場が小さく、新薬を開発してもメリットが少ないという現実が・・・

日本では年間2000~2500人の子どもが小児がんと診断されています。命の危機に直結する小児がんを治すには、効果的な薬の使用が欠かせません。しかし、小児がんの新薬の開発は、とくに固形がん(※)で進んでおらず、2010年~2018年に国内で承認された18品目はすでにある薬の適用拡大でした。一方、アメリカで承認された27品目はほとんど新薬だったそうです。

ーー日本とアメリカでこのような違いが出てしまうのはなぜでしょうか。

富澤先生(以下敬称略) 新薬の承認の前提となる小児がんに対する臨床試験の数が、企業主導、医師主導どちらの場合も、海外と比較して日本では圧倒的に少ないことが大きな理由です。その原因として、以下の4つが挙げられます。

(1) 企業にとっては市場規模が小さく、開発コストや法的義務(安定的供給・安全性監視活動)の負担が大きいこと
(2) 第I相臨床試験施設・小児治験に精通した施設、医師、治験コーディネーターの不足など、小児治験を実施する環境が不十分であること
(3) 医師主導治験で開発しようとしても、公的予算・研究費の確保が困難であること
(4) 対象患者が少なく被験者の確保も難しいため、臨床試験の実施が困難であること

ーーアメリカや欧州連合(EU)には、大人の薬と一緒に子どもの薬も開発することを義務づける法律があり、日本にはないとのこと。この差も大きいのでしょうか。

富澤 たしかに法律の有無は大きいですが、日本で同様の法律ができれば開発が進むかというと、そう単純ではありません。子どもの病気の中でも小児がんは稀少疾患ですから、薬を必要とする(購入する)子どもの数は少ないです。そのため、薬を開発しても採算性が低く、さらにたとえ売れたとしても、『市場拡大再算定』制度など日本独特の薬価引き下げ制度などがあるため利益が見込めず、企業の開発意欲をそいでしまうことになります。
そのため、法律で子どもの薬の開発を義務化するだけでは、成人も含めて日本での開発そのものをやめてしまう『ジャパン・パッシング』につながる恐れがあります。

※固形がん:血液のがん以外の、臓器や組織などでかたまりを作るがんの総称。脳腫瘍、神経芽腫、ウイルムス腫瘍などがある。

新薬が開発されないと助からない命があるのに、小児がんは新薬がほとんどない

ーー日本で2010年~2018年に国内で承認された18品目はすでにある薬の適用拡大で、新薬ではありませんでした。もともとある薬の適用を拡大する日本と、新薬を開発するアメリカで比べた場合、小児がんの治療成果に違いが出るのでしょうか。

富澤 標準治療が定まっている疾患の治療成績には、日本と海外とで基本的には差はありません。しかし、標準治療が定まっておらず、新しい治療薬や治療法を導入しないと治療成績の向上が見込めない再発・難治の小児がんなどは、差が出ているものもあります。

また『もともとある薬』は、国内では成人向けに錠剤で開発されたものが多く、錠剤が飲めない乳幼児には使えないことも問題です。錠剤を砕いて粉薬にするなど、子どもが飲める形状にして使われることもありますが、形を変えることで十分な効果が出なくなる可能性があります。

ーー日本で使える薬ではこれ以上の治療が見込めない小児がんの子どもは、新薬が開発されないと治療効果は得られない、ということになりますか。

富澤 その通りです。新しい作用機序(薬が治療効果を及ぼす仕組み)を持った新薬を用いなければ効果が見込めない患者さんには、治療の選択肢すらないのが現状です。もちろん、新薬を使ったら必ず治るわけではありませんが、試すチャンスすらない、つまり、参加できる臨床試験がないことが多いのが大問題なのです。

未承認の薬を個人輸入して使う場合、さまざまなリスクがある

ーー2021年に神経芽腫の新薬として「抗GD2」が承認され、話題になりました。ほぼ20年ぶりの新薬だったそうですが、子どもの薬の中でも、小児がんの薬はとくにドラッグ・ラグ(※)が大きいのでしょうか。

富澤 ドラッグ・ラグは小児がんだけの問題ではありませんが、小児がんは治療ができなければ即、命に関わる病気であること、また複数の薬を併用しないと治療効果が得られないものも多く、治験のハードルが一層高くなってしまうという面はあります。

たとえば、小児がんの一つ、神経芽腫の再発予防薬として、欧米では20年以上前から標準治療に使われている「レチノイン酸」は、日本では未だに未承認です。

レチノイン酸はニキビの治療薬なので、欧米でも神経芽腫の再発予防で使用する際の用法・用量は、薬の添付文書には書かれていません。ただ欧米では、臨床データが集まっていて有効性が認められる根拠がある場合は、適応外でも使用が認められます。そのため、神経芽腫の再発予防薬として広く使われているのです。

ーー日本でレチノイン酸の使用を希望する場合、多くは患者の家族が個人輸入しているようです。保険の適用にはならず高額の薬代がかかりますが、それ以外にも問題はありますか。

富澤 個人輸入できるといっても、海外のブランド品などを購入するように簡単にはできません。「薬監証明」という医師の署名が必要な書類が必要となるため、治療している病院が使用に否定的な場合は輸入すること自体が難しくなります。また、国内では保険診療と保険外診療との併用ができませんので、とくに入院中に未承認薬を使うことは通常困難です。

さらに、未承認薬の使用は安全性が担保されていないため、もし重篤な副作用が起こった場合には、医師や病院の責任が問われる可能性もあり、使ってあげたいけれど使えない・・・ということもあるのです。また、病院は承諾したけれど手続きに時間がかかり、薬が届く前に病状が悪化して亡くなってしまうケースもあります。
海外では使える効果のある薬が日本では使えないという事態は、一刻も早く改善しなければいけませんが、きちんと薬事承認という正式な手続きを経た形で使用できることが必要です。

(※)ドラッグ・ラグ:海外で使われている薬が、日本で承認されて使えるようになるまでの時間差のこと。

現状の枠組みで小児がんの新薬を開発するのは困難。国主導の改革が必須

――日本の薬剤開発の考え方は、薬を使う人のためになっていないのでしょうか。

富澤 必ずしもそうとはいえません。日本の考え方にもいい面はあります。日本国内の市場に出ている薬は、日本人による治験が必ず行われている上、国内で安定供給することを製薬会社に求めます。つまり、薬を必要とする人が、安全かつ確実に薬を使えるということなので、多くの人にとってはメリットがあるのです。

しかし、国が求めるこのような条件は、小児がんの薬の開発の面では足かせになっている側面もあるのです。小児がんは一つ一つが稀少疾患なので、治験に参加できる患者さんが少なく、治験が進まないからです。
現在多くの医師が希望しているのは、異なる種類の小児がんであっても、共通の遺伝子の変異で起こる小児がんを1つのまとまりとして考え、その遺伝子変異を標的とした分子標的薬の治験を行うことです。こうすれば治験参加者の人数が増え、治験が進みやすくなります。この方法を実現できる仕組みを、早急に作る必要があります。

また、できるだけ欧米と同時に新薬の開発を行うことや、どこかの国で効果を示すデータが得られた場合は、国内治験は最小限の規模で実施する、あるいは一旦承認した上で市販後の調査で日本人での効果や安全性を確認するような仕組みを導入できれば、新薬開発のスピードは格段に速くなるでしょう。

――新薬開発の治験は製薬会社が主導で行う場合と、医師が主導して行う場合があります。ドラッグ・ラグの解決ということで考えた場合、どちらが望ましいと思われますか。

富澤 本来、治験は製薬会社主導での実施が望ましく、医師主導治験は、企業治験ではどうしても効率の悪い超稀少疾患などを対象とした補完的なものであるべきです。実際、治験の実施には多くの労力や資金が必要であり、医師が通常の診療を行いながら治験を実施することは、時間的にも体力的も相当にハードであり、すべての新薬の治験を医師主導で実施することは非現実的です。

日本の子どもに少しでも早く新薬を届けるためには、労力・組織力・資金ともに潤沢な製薬会社主導の治験で進めるのがベストだと思います。
そして企業主導治験の数を増やすには、臨床試験を行いやすい環境を整えるとともに、子どもの薬を開発した製薬企業に対してその薬の特許期間を大幅に延長するなど、製薬企業が利益を見込めるような方策を国が考える必要があります。

しかし、10~20年前に比べたら子どもの薬を取り巻く環境はよくなっています。実際、小児がんを対象とした治験も随分増えてきました。子どもを守るのは私たち大人の責任です。子どもの薬の課題解決のために、医師もご両親も声を上げていくことが非常に重要になると思います。

お話・監修/富澤大輔先生

取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

薬がないから治療ができない。そんな子どもを1人でも減らすためには、私たち一人一人が子どもの薬の現状を理解し、国の政策をしっかり見ていく必要があるのではないでしょうか。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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