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小腸の大量切除による「短腸症候群」を知っていますか?小児患者の場合、学校生活で課題やストレスも【セミナー報告】

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母と、子供の手
●写真はイメージです
Nastco/gettyimages

「短腸症候群」という病気を知っていますか。「短腸症候群」とは生まれつき、または病気や事故などで小腸を大量に切除し、通常より短くなった人たちの総称です。
2022年12月中旬に開催された「短腸症候群を知っていますか?医療と周囲の理解で実現する患者さんが活躍する社会」(主催/武田薬品工業)というセミナーでは、この病気の専門医である昭和大学の千葉正博先生から病気の特徴についての解説、患者さんとして「短腸症候群の会」代表理事の高橋正志さん、同会員の毛上友加さん、高校生の谷川なおさんの体験が語られました。その内容をリポートします。

腸が短くなると必要な栄養素や水分が吸収できず補充が必要に

右から登壇した千葉正博医師、谷川なおさん、高橋正志さん、毛上友加さん。

「短腸症候群」とは腸が短くなることで腸管が十分に機能しなくなり、生きていくのに必要な栄養素や水分を吸収できなくなった状態のことです。学術的な定義はなく、短腸症候群に分類されるものは主に3点あります。

①小腸の75%以上を切除していること
②小腸の長さが、小児で75㎝未満、成人で1.5m未満であること
③静脈栄養から離脱が困難であること

「日本で多く用いられている基準は②ですが、海外で一般的なのは③であったり、と国際的に定まっていません。もともと小腸は新生児でも2m、成人で6mあるといわれますが、栄養素を体に取り入れる働きをしている小腸の長さが短いと通常の食事だけでは生活できなくなり、点滴などで必要な栄養素や水分を補う必要があります。また、消化吸収が十分にできないため排便量や回数が増え、日常生活に影響も。そのため食事を制限している患者さんがとても多いです」(千葉先生)

短腸症候群の原因となる疾患はさまざまです。小児の場合は先天性異常や壊死性腸炎などが挙げられます。

「私はヒルシュスプルング病という先天性疾患のため乳幼児期に大腸を約20㎝(伝聞)切除しました。中学1年生から腸捻転を繰り返し、中学2年生の14才の誕生日に小腸壊死のため切除手術を受け、残存小腸約150㎝(推定)の短腸症候群となりました」(高橋さん)

「僕の場合は生後3日目に腸がねじれる中腸軸捻転で緊急手術を受け、その後、壊死腸炎になって再手術。生後1カ月で残存小腸16㎝の短腸症候群となったと両親から聞いています」(谷川さん)

長期間の治療を根気よく行い、残った腸の機能回復をめざす

腸は短くなっても素晴らしい器官で、しっかりと栄養源を与えホルモン分泌を促せば自ら修復する能力があります。その機能回復を見ながら日々の栄養素や水分の補充方法を変えていくことが治療の流れになるそうです。

「小腸はいくつかの部位に分けられ、それぞれの部位で吸収する栄養素が異なります。そのため、切除した部位や長さにより摂取すべき栄養素や量も変わります。必要な栄養素を体に取り入れるには、消化された経腸栄養剤を口や胃などから取る、静脈から点滴(中心静脈栄養)で取る、特定の栄養素の薬を服用するといった栄養療法が行われます。最初は点滴から開始して、徐々に腸から栄養や水分を吸収できるように促し、最終的には点滴を外し、経腸栄養剤から取ることをめざします。ただ、腸に変化が見えるまでに非常に長い時間がかかる治療のため、忍耐強く見守っていく必要があります」(千葉先生)

点滴が長く外せないことによるさまざまな負担・ストレス

点滴生活が長く続くと身体的、心理的な負担が大きくなると千葉先生は問題点を指摘します。行動が制限されるため無力感から余暇活動を楽しめないなどに加え、日々の食事制限もあり、なかなか自由がままならないといった側面があるというのです。

「幼いころは制限なく食べられるまわりの子に憧れ、親や医師の目を盗んでつまみ食いしたこともありました。食べたいという欲求と戦うことが自分の中では大きい課題でした」(谷川さん)

「短腸症候群の会の交流で感じることですが、やはり通院や体調の不安を抱えている人が多いです。下痢が頻繁な人の場合、外出をためらうといった話も聞きます」(高橋さん)

「私は小学校の養護教員として働いていますが、いつも点滴が欠かせません。専用のかばんの中に点滴と器具を入れて持ち歩いています」(毛上さん)


切除をした腸の長さや部位にもよりますが、治療により日常生活が送れるようになっていきます。もちろん治療と病気とのつきあいは一生続きますが、学校生活や就業を諦める必要はありません。

学校の受け入れなど今後の社会に望むこと

短腸症候群の体験を交えながら社会の課題について語られました。

これまで短腸症候群の人たちは学校などの社会参加に大きな制約を受けてきました。しかし、治療の進展により少しずつ社会参加が可能に。とは言え、まだまだ学校への受け入れなど課題はたくさんあります。

「僕が小学校の普通学級に入るときは僕みたいな子は初めてで入学を認めてもらうまでが相当大変だったと母から聞いています。もう少しこの病気が広く認知され、入学がスムーズになるといいなと思います」(谷川さん)

「小学校で働く立場として、サポート体制などいろいろな面で不十分だと感じています。ただ、学校だけで解決できないこともあります。教育委員会へも積極的に働きかけていかないといけません」(毛上さん)

「子どもが短腸症候群になった親が私たちの交流会に参加して『元気になったお子さんを見てうちの子も元気になれるかもと励まされた』と言ったのがとても印象に残っています。1人じゃない、悲観する病気じゃないということをぜひ知ってほしいです」(高橋さん)

お話・監修/千葉正博先生、お話/高橋正志さん、毛上友加さん、谷川なおさん 取材協力/武田薬品工業 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部

短腸症候群の子どもの小学校への受け入れはまだ追いついていないのが実情です。子どもや両親が望むような形で学校生活を送れるようなやさしい社会での理解が早急に求められているのではないでしょうか。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

千葉正博先生(ちばまさひろ)

PROFILE
昭和大学医学部外科学講座小児外科学部門教授、同薬学部臨床薬学講座臨床栄養代謝学部門教授を兼任。専門は小児外科一般、新生児、小児泌尿器、短腸症候群。日本小児外科学会専門医・指導医、日本外科学会専門医・指導医、日本静脈経腸栄養学会指導医。

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