子どもの摂食障害「神経性やせ症」が増加し高止まりに。子どもに対してこんな発言はNG!【国立成育医療研究センター調査】
国立成育医療研究センターが行っている、子どもの心の診療ネットワーク事業では、新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)の流行による子どもの心の実態調査を実施。新型コロナ流行前の2019年度と比較したところ、子どもの摂食障害の「神経性やせ症」が増加したまま高止まり傾向であることがわかりました。調査に当たった、同センター副院長で、こころの診療部統括部長を務める小枝達也先生に話を聞きました。
子どもの神経性やせ症の初診外来患者数は、コロナ流行前と比べて約1.6倍に
国立成育医療研究センターが行った同調査は、全国30医療機関(31診療科)の協力を得て、新型コロナの流行が子どもの心にどのような影響を与えているか調べたものです。
その中で、とくに顕著だったのが「神経性やせ症」の増加です。調査対象の年齢は20歳未満ですが、神経性やせ症と診断されたなかには小学生も含まれています。
神経性やせ症とは、摂食障害の一つで、極端に食事制限をしたり、食事を過剰にとったあとに吐き出したりするなどして、正常体重より明らかに体重が少なくなる疾患です。
「神経性やせ症の初診外来患者数は、新型コロナ流行前の2019年度は203人でしたが、コロナ禍の2020年度は318人、2021年度は323人に増加。2019年度と比較すると、どちらも約1.6倍に増えていることが、今回の調査でわかりました(有効回答数 24医療機関、25診療科)。
また神経性やせ症による新入院患者数も、新型コロナ流行前の2019年度は120人でしたが、2020年度は180人に。2021年度も179人に増加。2019年度と比較すると、どちらも約1.5倍に増えています(有効回答数 19医療機関)。
また子どもの摂食障害を治療できる医療機関はもともと限られていますが、なかには300%を超える病床充足率の病院もありました。
新型コロナの流行初期、全国一斉臨時休校・休園が行われたり、園や学校の行事が軒並み中止になったりしました。また、幼稚園や学校ではマスクの着用が求められるなど、子どもたちの生活は急に変わり、窮屈なものになってしまいました。私たち心の専門医は、こうした状況が子どもの心にどのような影響を及ぼすか、新型コロナの流行初期はわからなかったのですが、食事の面に問題が出てきました」(小枝先生)
神経性やせ症の約90%は女児
神経性やせ症はとくに女児に多い傾向があります。
「前述のとおり初診外来患者数は、コロナ禍の2020年度は318人でしたが、そのうち女児は291人(約91%)。2021年度は323人でしたが、そのうち女児は286人(約88%)です。
新型コロナ流行前の2019年度は203人のうち、女児は185人(約91%)なので、もともと女児に多い傾向はあります。
女児に多い理由は明らかではありませんが、体形を気にしたり、食にこだわる傾向が、男児よりも強いのかもしれません。摂食障害は江戸時代の書物でも見られるので、文明病というわけでもありません」(小枝先生)
子どもの神経性やせ症は、黙食やコロナ太りへの警戒心などが原因
コロナ禍、子どもたちの間で神経性やせ症が増えた理由の一つには、給食の黙食が考えられると言います。
「2022年11月、文科省は給食の時間は適切な感染対策をとれば会話は可能と通知を出しました。
しかし実際は、今でも黙って静かに給食を食べている小学校が多いです。
子どもたちは真面目です。“自分が感染したら、家族にうつしてしまう。おじいちゃん、おばあちゃんにもうつしてしまうかもしれない”と考えている子もいるのでしょう。いくら文科省が通知を出しても、子どもたちの心はなかなか切り替わりません。
こうした状況の中では“食欲がわかない”“食べる気がしない”という子が増えるのは当然です」(小枝先生)
もう一つ、子どもの神経性やせ症の原因で考えられるのは、コロナ太りへの過度な警戒心です。
「なかには“コロナ太りになりたくない“という過度な思いから、神経性やせ症を発症した子もいます。
こうした傾向は、デリケートな子にとくに多いので、家庭でも“太ったね! コロナで運動していないからだよ!”などと言わないでほしいと思います。ママやパパからしたら冗談のつもりでも、なかにはすごく気にする子もいます。
また幼児の場合は“手をしっかり洗わないと、バイ菌(ウイルス)が口から入ってコロナになるよ!”などと言うと、怖くて食事ができなくなる子もいるので注意してください」(小枝先生)
「食事に時間がかかるようになった」など気になる様子があるときは小児科へ
子どもの神経性やせ症は、早期発見・早期治療が大切です。次のような様子があるときは、念のためかかりつけの小児科などで相談しましょう。
●以前よりも、食事に時間がかかるようになった
●以前よりも一口の量が少ない
●水分をあまりとらない
●やせてきた感じがする
「“おかしい”と思ったら、かかりつけの小児科または臨床心理士がいる小児科で相談してください。
なかには“ごはんが食べられないみたいだから病院で診てもらおう”と誘っても、受診を拒む子もいます。そうした場合は、無理強いは禁物です。ママ(パパ)だけで医療機関に行き、医師に相談してください」(小枝先生)
取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
小枝先生は「日本では2023年1月現在、新型コロナ流行による行動制限はありませんが、子どもたちは自由を謳歌(おうか)して過ごしているわけではありません。子どもたちを取り巻く窮屈な環境が、この先、どのような形で心の問題として表れるかわかりません。
そのため、せめて家庭ではのびのび楽しく過ごせるようにしてあげてほしい」と言います。
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