父親は育児をするとほめられて、妻は同じことをしてもほめられない違和感とモヤモヤ【小説家・白岩玄】

現代の男性の生きづらさなどについてエッセイを書いたり、小説に盛り込んだりしている小説家の白岩玄さん。自身は5歳の男の子と2歳の女の子のパパです。上の子が生まれたときは「育児は手伝うもの」というような考え方だったという白岩さんに、パパとしての思いの変化や、家庭での妻や子どもたちとのかかわりについて話を聞きました。
掃除は僕、料理は妻、そのほかはできるほうがやって自然に助け合う
――白岩さんは夫婦で家事も育児も分担されているそうです。その内容などは2人で話し合って決めたのでしょうか?
白岩さん(以下敬称略) それが実は今では、あんまり覚えていなくて・・・。僕はもともと掃除や片づけが好きで、妻と一緒に住むようになってからも、言われなくてもやっていました。それで「じゃあ私はごはんを作るわ」と妻が言ったのが最初だった気がします。はっきり分担を決めてるわけじゃないですが、なんとなく料理は妻、掃除は僕。妻はたぶん今でもトイレ掃除やおふろ掃除はほとんどしたことがないんじゃないかな・・・。逆に僕は料理関係は洗い物をするくらいで全然わかりません。洗濯はお互いに手が空いているときにやっています。
――5歳と2歳の子どもたちの保育園のお迎えなどの分担はどうですか?
白岩 お互いの仕事の予定によって調整しています。園の持ち物も手があいているほうが準備します。ただ、僕は保育園の先生と話すのがどうも苦手で・・・、緊張してしまうんです。妻は、先生に保育園での子どもの様子を聞きたい人なので、何か気になることがあるときなどは、妻が迎えに行くことが多いです。
――分担でもめることはないですか?
白岩 たまに片方の仕事がすごく忙しくて、負担がもう片方にかたよってしまったようなときには、「自分ばっかりやってるけど!しんどい!」って怒りますね(笑)。それはお互いにです。何かあったら伝え合うようにしています。
自分1人で子どもと向き合った経験で、初めて親の責任感を持てた
――白岩さんは上の子が生まれたころから、育児に主体的にかかわっていましたか?
白岩 実は上の子が生まれた当初は、妻が育休を取っていたこともあって“ママが育児するのが当たり前でパパは手伝う”って感覚がありました。ただ、僕が小学生くらいのときに幼いいとこの面倒をよく見ていたり、姉の子どもが生まれたときにもおむつ替えや沐浴(もくよく)を手伝ったりしたことがあったので、赤ちゃんのお世話はわりと慣れていたんです。妻は身近に乳幼児がいなかったようで、初めてのことばかりで不安がっていましたが、僕は子どもへの接し方には困りませんでした。だけどそれでも、“父親は手伝い”という意識があったように思います。
――その意識が変わったきっかけのようはものはありますか?
白岩 上の子が1歳になったころに妻が復職することになり、入園できる保育園を探したのですが見つからず、保育園が決まるまで僕が仕事を休んで子どもをみることになったんです。
平日の日中、妻の帰宅まで自分が1人で子どものお世話をする状況が3カ月くらい続きました。そのときに、「自分がちゃんとみていないと息子は死んでしまいかねない」と気づき、初めて父親の自覚というか親としての責任感を持てたと思います。
――それまでと比べてどんな変化がありましたか?
白岩 単純にこれまで妻がやっていたことの大変さがことごとくわかるようになりました。子どもをお散歩に連れていった先で紙おむつを替える場所がないことの苦労とか、その帰り道にずっと泣かれて抱っこをせがまれて、片手でベビーカーを押しながら帰ってくる大変さとか。実際にやってみないとわからないことでした。
それまでは「こんなことがあって大変だったんだよ」と妻から話を聞いても「そうだったんだ」くらいで聞き流していたのが、いざ自分が経験すると「それはすごく大変だったね」と心から共感できるし、妻の言葉の受け取り方も変わってきました。
――育児・介護休業法が改正され、男性育休が話題になっていますが、男性も育休をとって物理的に子どもに接する時間を増やすべきだと考えますか?
白岩 そうですね。やってみないと自分ごととして考えられないと思います。ただ、男性が育休を取りたいと思っても、職場の雰囲気が取りづらかったり、昇進にかかわるんじゃないかと心配だったり、まだまだ社会的に解決されていないところも多いので、全員が取れるわけじゃないとも思います。僕の場合は、ある程度自分で休みを決めたりできる仕事だからできた部分もあるとは思っています。
子どもの立場で一緒に考える親でいたい
――パパとして育児をしている中でモヤモヤを抱えることはありますか?
白岩 今回の作品『プリテンド・ファーザー』を書くきっかけでもあるんですが、父親って育児をすればするほどほめられますよね。それが最初の違和感でした。ほめられることに対して、自分がどうリアクションしていいかわからなかったんです。ほめられたら素直にうれしいな、という気持ちもありながら、妻も同じことをしているのにほめられないのはおかしい、とも思う。そのうちほめられるのもうっとうしくなってきたり・・・。
子どもを連れて妻と小児科に行ったとき、看護師さんが妻にだけ「お母さん頑張って」と声をかけることもありました。最初のころは「俺もいるよ!」と思ったけど、最近はなんとも思わなくなりました。そのことをすごく怒るのも変な話だな、と。でも社会の中でそういった小さな偏見はまだまだあるなと思います。育児だけでなく介護なども、女性がやるよりも男性がやるほうが目につく、という問題がありますよね。それは変だなと思っています。
――これから、2人の子どもたちとパパとしてどんなふうにかかわっていきたいと思いますか?
白岩 5歳と2歳なのでまだまだお世話することがメインですが、これから子どもを育てていく上では、何が正解かわからないことや、子ども自身もどう考えていいかわからないことがたくさん出てくるんじゃないかなと思います。それに対して、僕が答えを言ってしまったり、僕自身があまり答えを持ってると思いすぎず、子どもと一緒に考えるようにしたいな、と考えています。
先日、息子に「お友だちとあんまり戦いごっこをしたくない」と言われて、どう答えるべきだったのかと悩みました。そのとき僕は「嫌ならやらなきゃいいよ」って言ったんです。でも、果たして自分が5歳だったとして、男友だちに戦いごっこをやろうと言われて断れるか?と思ったんです。
今の自分だから断れるまでになったけど、5歳の弱さでキッパリ断れるだけの意思を持ってるのかって言ったら、持ってないと思うんですよね。自分の立場で「こうすればいいよ」とアドバイスしても、それを息子ができるとは限らない。だから子どもの立場で考えないといけないな、と思っています。
お話/白岩玄さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
共働き家庭が増えた今、白岩さんのパパとしてのモヤモヤに共感する人は少なくないのはないでしょうか。子どもたちが育つ未来を考えるとき、白岩さんのように、自分の中にもある小さな偏見に目を向けることが大切なのかもしれません。
白岩玄さん(しらいわげん)
PROFILE
1983 年、京都府京都市生まれ。2004 年『野ブタ。をプロデュース』で第 41 回文藝賞を受賞しデビュー。同作は第 132 回芥川賞候補作となり、テレビドラマ化される。ほかの著書に『空に唄う』 『愛について』『未婚 30』『R30 の欲望スイッチ――欲しがらない若者の、本当の欲望』『ヒーロ ー!』『たてがみを捨てたライオンたち』、共著に『ミルクとコロナ』がある。
●記事の内容は2023年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『プリテンド・ファーザー』
妻を亡くして4歳の娘を育てる36歳の恭平と、1人で1歳半の息子を育てる章吾。高校の同級生だった2人が、それぞれの娘と息子と一緒に4人暮らしを始めて・・・。シングルファーザー同士の暮らしを通して「親になること」と向き合う物語。