高学歴親・高学歴偏重の親にありがちな子どもへの干渉。過干渉がもたらす子どもへのデメリットとは?【小児脳科学者】
小児脳科学者の成田奈緒子先生は、「高学歴親のダブルバインドによって子どもが疲れている」と話します。高学歴親というのは高学歴な親はもちろん、「自分は望む大学に行けなかったけど、この子には頑張ってほしい」というリベンジ型のママ・パパも含まれるそうです。新刊『高学歴親という病』が話題になっている成田先生に、そんなママ・パパが陥りやすい、乳幼児期の子育てについて聞きました。
学歴主義の親に多いダブルメッセージ。しかし子どもは見抜いている
成田先生は、子育て支援事業「子育て科学アクシス」で、さまざまな親子とかかわっていますが、高学歴や学歴主義が強いママ・パパには、子育てに対して同じような傾向があると言います。
――新刊『高学歴親という病』を書いたきっかけを教えてください。
成田先生(以下敬称略) 私が代表を務める、子育て支援事業「子育て科学アクシス」には、子育てに悩みを抱えたママ・パパが訪れますが、高学歴や教育熱心なママ・パパも多いです。「自分は望む大学に行けなかったから、この子には頑張ってほしい」と、幼児期から過度な早期教育をしている家庭もあります。そうしたママ・パパには、子育てに対していくつかの共通点があります。
その一つが、子どもにダブルメッセージを送ることです。
難関の中高一貫校に入学して、不登校になってしまった子がいました。登校の時間が近づくと、毎日、吐きけや頭痛に襲われて、体が学校に行くことを拒否します。その子のママが「子どもが元気になってくれさえすればいいんです。学校を転校してもいいと思っています」と言うので、私が「家の近くにも公立中学はありますよね?」と聞くと、話が先に進みません。「でも・・・」と理由をつけて転校は避けたいようなことを言い始めます。
高学歴や学歴主義のママ・パパは、本音と建前を使い分けるので、こうしたダブルメッセージが多く、子どもは小さいうちから親のダブルメッセージを敏感に察して、ことあるごとに親の顔色をうかがうようになります。そしてしだいに「どうせ建前だ。私のことなんて何も考えてくれていない」と親を信頼しなくなります。
「子どもに失敗はさせたくない!」という強い思いから過干渉に
幼児期の子育てで、とくに注意が必要なのは親の過干渉です。過干渉が原因で、何かあったとき自分の力で立ち直れなくなる子もいます。
――高学歴や学歴主義のママ・パパの子育てには、ほかに傾向がありますか。
成田 人生なんて失敗がつきものですよね。しかし高学歴や学歴主義が強いと「子どもには失敗させたくない!」と思うママ・パパがいます。
習い事などで、幼いうちからまわりの子よりも上手にできたりすると「この子はすごい! 人生負けなし!」と勘違いするママ・パパもいます。
そうなるとママ・パパは「失敗させないように!」「負けないように!」と過干渉になって、手出し口出しがどんどん増えます。
ある日、イベントで子どもの木工教室を開いたとき「〇〇ちゃん、その三角の木は、ここにつけよう」とすべて指示するママがいました。そのママにとっては、子どもがワクワクしたり、自分で考えて試行錯誤しながら作る過程はどうでもいいんです。まわりの子よりも立派な作品を作らせたいということしか考えていないのだと思いました。
――幼児期から過干渉になって、手出し口出しを続けると、どのようなデメリットがありますか。
成田 自分で立ち直る力(レジリエンス)が育ちにくくなります。
たとえば公園で友だちが遊んでいて輪に入りたいとき、ママ・パパが先に「うちの子も入れてあげて」と言ったりすることがあります。ママ・パパからすると、友だちの輪に入れないわが子を見たくないし、わが子に寂しい思いをさせたくないのでしょう。
しかしそうした育て方を続けていると、小学生になっても自分から「入れて」と言えない子になってしまいます。
小学校から帰るとき友だちの輪に入れず、自分から「入れて」「一緒に帰ろう」と言えないために、孤立し不登校になってしまった子もいます。
人は1人では生きられません。困ったときは人を信頼して、自分から助けを求めていいということを、幼児期から教えてあげてほしいと思います。
――幼児期に立ち直る力が育っていないとわかる目安はありますか。
成田 子どもが泣いたり、機嫌が悪いとき、嫌なことがあったときに、抱っこしたり、ママ・パパがなぐさめたりすると、少し時間がかかっても大抵の子は気持ちが切り替わって、嫌なことを忘れます。
しかしなかには、ずっと引きずる子がいます。そうした子は立ち直る力が弱いので、かかわり方を見直しましょう。日ごろからスキンシップをとったりして、子どもの不安を取り除くことを心がけてください。同時に過干渉になって、手出し口出しが多くないかも見直してください。
立ち直る力(レジリエンス)はほうっておいて自然に身につくものではありません。0~5歳では、次のようなかかわり方を意識しましょう。
立ち直る力を養うための0~5歳のかかわり方
【0~1歳代】
泣いたらママ・パパが目を見てあやしてくれる、おむつが汚れたら替えてくれる――といった日々のかかわりが親子の信頼関係の土台を築きます。
【2~3歳代】
愛着形成を築き、ママ・パパとの信頼関係をしっかり築きましょう。また自我が芽生える時期なので、危険でない限りは、ママ・パパの手出し・口出しはできるだけ控えてください。
【4~5歳代】
自己中心的に考えて行動する時期ですが、親の都合だけで、いい子にしようとは思わないで。たとえば大人同士で話しているときに「静かにする」などのルールは教え込まないでOKです。またママ・パパ以外の大人とかかわることが大切な時期です。ママ・パパが近所の人に気持ちよくあいさつをする姿を子どもに見せるなどして、人間関係を広げていきましょう。そうした姿を見ることで、やがてママ・パパ以外の人にも信頼を寄せるようになります。
早期教育は、十分な睡眠をとるなど基本的な生活をしたうえでの残り時間で
0~5歳は、生きるための脳を作る大切な時期。生きるための脳がしっかり作れていないと、いくら早期教育に力を入れても、結果は伴わないそうです。
――著書の中では、間違った早期教育についても触れています。間違った早期教育とは、どういうことでしょうか。
成田 私は、早期教育自体は否定しません。しかし家でたとえるならば、早期教育などのおりこうな脳は2階にあたります。脳の1階部分をしっかり作らないと、どんなに早期教育に力を注いでも、ちょっとしたことで2階が崩れてしまいます。1階部分をしっかり作らなかったために、幼稚園や小学校で問題行動が増えて、先生から頻繁に連絡が来るようになる子もいます。
脳の1階部分というのは、体を作って、生きるために必要な脳です。0~5歳は、十分な睡眠時間と、早起き・早寝の習慣、規則正しく食事をとることが生きるために必要な脳を作ります。
子どもに必要な1日の標準睡眠時間の目安は、生後3カ月は15時間、9カ月は14時間、1歳半は13時間30分、3歳は12時間、5歳は11時間ぐらいです。
もし早期教育をするならば、子どもに必要な1日の標準睡眠時間をきちんととり、3食しっかり食べて、幼稚園などに通った上でなら、残りの時間を早期教育にあててもいいでしょう。幼いうちは、講師にお任せではなく、親子で一緒に学ぶほうが楽しく続けられますし、いい思い出になります。
――先生自身の経験についても教えてください。
成田 長女はすでに成人していますが、幼児期には私が働いていたこともあって、平日なかなか一緒に遊ぶことができませんでした。そのため土日こそ、しっかり親子で遊ぼうと思いました。
脳を育てる大切な時期に、貴重な時間を習いごとに使いすぎるのはもったいないと思います。
取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
『高学歴親という病』を出版してから、成田先生が代表を務める子育て支援事業「子育て科学アクシス」には新規の相談者が増えたそうです。ママ・パパは口々に「今からでも、子育てのやり直しはできますか? と言いますが、親自身が自分の間違えに気づくことが第一です。子育てのやり直しはできる!」と成田先生は言います。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
成田奈緒子先生
PROFILE:医学博士・小児科専門医・公認心理師。「子育て科学アクシス」代表・文教大学教育学部教授。発達脳科学の専門家。
『高学歴親という病』
高学歴な親はなぜ子育てに失敗しやすいのか? 高学歴家庭に引きこもりが多いのはなぜか? 具体的な事例を交えた高学歴親のための育児メソッド。
成田奈緒子著/990円(講談社+α新書)