4分の1の確率で下の子もSMAに。専門医と相談して2人目を妊娠。出生前診断を経て、最新の治療薬の投与を開始【医師監修・体験談】
脊髄性筋萎縮症(以下SMA・エスエムエー)は、出生2万人に対して1人前後の発症率といわれる難病です。遺伝子の病的変異によって起きるまれな病気で、しだいに筋力が低下していきます。数年前までは治療薬がなく、多くは生涯立つことも歩くこともできなくなる病気でした。またSMAは、遺伝子がかかわる病気で、ママ、パパの両方が病気の因子をもつ保因者の場合は、上の子がSMAだと、次の子も4分の1の確率でSMAの子が生まれる可能性があります。
長男桜佑くんがSMAと診断されていた西陽子さん(仮名)は、長女凛桜(りお)ちゃん(仮名)の出産に際しては、妊娠初期に絨毛(じゅうもう)検査を受けました。3回シリーズの3回目です。
妊娠初期に絨毛検査を受けて、下の子もSMAと判明
第2子の凛桜ちゃんが生まれたのは、2020年3月です。
「上の子は発達の遅れや発達の後退があり、遺伝子検査を受けて10カ月のときにSMAと診断されました。上の子がSMAの場合は、次もSMAをもつ子が生まれる可能性があるので、妊娠初期に絨毛検査を受けました。検査の結果、下の子もSMAでした。何の根拠も、何の理由はないのですが、『やっぱり・・・』と思いました」(陽子さん)
SMAは、ひと昔前は治療ができない病気でしたが、ここ数年で治療薬が開発されました。SMAと判明したら、症状が出る前に治療するのが最も効果的といわれています。
「下の子がSMAと判明したとき、できることはすべてしようと夫と話し合いました。もう上の子のときのような後悔はしたくないと、という強い思いからです」(陽子さん)
下の子は大学病院で出産。チーム医療で、生まれたらすぐにSMAの治療を開始
陽子さんは、下の子・凛桜ちゃんを九州の実家に里帰りして出産しました。上の子のときも里帰り出産でしたが、すべての状況が違います。
「上の子は低置胎盤と診断されるまでは、産科クリニックに通っていました。低置胎盤と診断されたあとは、総合病院に転院して予定帝王切開で出産しました。しかし下の子は、最初から大学病院です。上の子が帝王切開だったので、下の子も予定帝王切開で出産することになりました。なによりSMAとわかっているので、生まれたらすぐにSMAの治療ができるように産科、新生児科、神経内科、遺伝子の専門医などでチームが編成されました」(陽子さん)
また上の子のときは、2017年7月に製造・販売が承認された「スピンラザ®」しか治療薬はなかったのですが、下の子が生まれた2020年3月は、遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ®」の製造・販売が承認されることが目前でした。
生後9日にはスピンラザを投与。3カ月には、遺伝子治療薬ゾルゲンスマを
下の子は、生まれてすぐ呼吸が気になったものの元気に誕生。生まれたときの体重は2786g、身長は47.0cmでした。
「おなかにいたときからSMAとわかっていたので、生後9日目にはスピンラザ®を投与しました。スピンラザ®は背中から脊髄のところに注射をします。まずは2週間隔を空けながら、3回注射をしました。
3カ月になって、遺伝子治療薬のゾルゲンスマ®を投与しました。ゾルゲンスマ®は1回のみの投与で、2歳未満でないと投与できません」(陽子さん)
「赤ちゃんって、こんなに大きな声で泣くの? こんなに動くの?」とすべてに驚きが
SMAの早期発見・早期治療のおかげで、下の子・凛桜ちゃんには発達の遅れなどはありません。
「上の子と比べると、すべてが違うんです。まず驚いたのが泣き声です。凛桜が泣いたとき、赤ちゃんってこんなに大きな声で泣くの? と思いました。手足をバタバタ元気に動かすことにも驚きました」(陽子さん)
SMAをもつ赤ちゃんは、泣き声が小さくて弱々しい、手足を活発に動かさない特徴があります。
「上の子のときは、まさかSMAとは思わずに、発達が遅れているのは私のせいかもしれない。ベビーマッサージをして刺激を与えたりしたら発達を促すことができるのでは!? と思い、一生懸命ベビーマッサージをしたりしました。でも下の子は、私が何もしなくても首を持ち上げたり、寝返りをしたり、おすわりをしたり・・・どんどん発達します。1人で歩けるし、元気に走り回ります。
上の子は、発見が遅れてしまったので、今でも歩くことができずに車いすに乗っています。生活のすべてに介助が必要です。同じ病気なのに、早期発見・早期治療することで、こんなに違うんだと驚きます。もう1人子どもがほしいねと夫婦で話し合ったときは、『でも、大丈夫かな・・・』と迷いがありましたが、今となっては上の子と下の子が仲よく遊んだりする姿を見ると、きょうだいがいてよかったと思います」(陽子さん)
【齋藤先生から】全国でSMAの新生児マススクリーニング検査が公費で受けられるように期待
日本のSMAをもつ赤ちゃんや子どもたちが参加して行われた国際共同治験の成果により、SMAの治療薬3種類がわが国でも使えるようになりました。そして、そのうち2種類は発病前の赤ちゃんでも使えます。生まれてから発病前に、迅速に治療を開始することにより、SMAの発病を抑えたり、症状を軽くすることができるようになりました。SMAをもつ赤ちゃんは、まったく症状も何もない元気な両親から生まれます。
そこで、新生児マススクリーニング検査としてSMAをもつお子さんを生まれてすぐに発見して、治療を受けていただこうという動きが全国のさまざまな自治体で始まりました。現在、有料で実施している自治体が多いです。国のレベルにはなっていません。費用の負担を公費とする国レベルでの実施が待たれます。
お話/西陽子さん 協力/SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
陽子さんは、上の子がSMAと判明してから、SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会に入会しました。同会では、2021年3月、厚生労働省を訪問し、「SMA(脊髄性筋萎縮症)新生児マススクリーニングの全国における実施体制の整備 及び その普及についての要望書」を提出。全額公費でSMAの新生児マススクリーニング検査が受けられるように活動を続けています。
陽子さんは「SMAは早期発見・早期治療することで、子どもの未来が変わる病気です。2023年4月現在、SMAの新生児マススクリーニング検査は全国では実施されていませんが、もし出産した医療施設でSMAの新生児マススクリーニング検査が受けられるならば、ぜひ受けてほしい」といいます。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。