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止まらない日本の少子化。“子育てしやすい国”に生まれ変わるために、男性育休への期待も!【子育て支援の30年・前編】

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現在ニュースでたびたび報道され、注目されている「異次元の少子化対策」。子育て支援の充実が期待されています。たまひよ創刊30年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児の様子を振り返り、これから30年先ごろまでの流れを探ります。今回は『子育て支援』の歩みについて、東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎先生に聞きました。これまでは子育て支援としてどのような施策が取られ、その効果はあったのでしょうか。

2022年の出生数が初の80万人割れ

病院のベッドクリップで眠っているアジアの新生児のクローズアップ肖像画(ぼかし)
●写真はイメージです
paulaphoto/gettyimages

――2023年6月2日、厚生労働省が2022年の「人口動態統計」の概数を公表しました。2022年の出生数(※1)は前年比5.0%減の77万747人で、合計特殊出生率(※2)は1.26です。100万人割れから6年で80万人を割ってしまい、想定より11年も早く80万人を割る数字となったことが報道されています。

山口先生(以下敬称略)出生数や合計特殊出生率は、少子化傾向がとてもわかりやすく示されている数値です。

――このまま少子化が進み、どんどん人口が減ってしまうと、どのような問題が起こるのでしょうか。

山口 働き手が減っていくことになるので、国に入ってくる税金と社会保険料が減ります。その結果、年金や医療、子育て支援などの社会保障が劣化してしまうことが考えられます。さらに、インフラを支えるには、その地域にある程度の人が住んでいる必要があるので、とくに人口減少が顕著な地方は、インフラの維持も厳しくなってしまうかもしれません。目の前のくらしに悪影響が出て、生活がしにくくなってしまいます。

――「こどもがまんなかの社会を実現」することを目的に、2023年4月にこども家庭庁が発足しました。

山口 こども家庭庁は、政府が打ち出した「異次元の少子化対策」の具体化に向け、中心的な役割を担うことになります。縦割り行政を打破して必要な財源を確保し、効果的な少子化対策と子育て支援策を実現するために、さまざまなことを行っていくでしょう。なるべく早く成果が出てほしいところですが、考えられている施策はたくさんあるので、それらが順に実現されていくことの効果が、今後問われていくことになります。

2025年には、日本の総人口は1億人を割る見込み

出典/「令和4年度少子化社会対策白書」

日本の総人口および人口構造の推移と見通しを示したグラフ。日本の総人口は2021年10月時点で1億2550万人。そのうち、年少人口(0~14歳)の割合は11.8%です。世界全域の年少人口割合(国連推計)は25.4%なので、世界的に見ても少子化が進んでいることがわかります。

※1:日本国内で日本人の赤ちゃんが生まれた数。年間の市区町村への届け出に基づいて集計
※2:15~49歳までの女子の年齢別出生率を合計したもの。1人の女子が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に産むとしたときの子どもの数に相当

日本初の子育て支援策は1994年の「エンゼルプラン」

家族のことを考えるアジアの男女
●写真はイメージです
kazuma seki/gettyimages

――そもそも、少子化現象はいつごろから問題視されるようになったのでしょうか。

山口 1989年の合計特殊出生率が1.57になったときです。かつての日本では、干支の「ひのえうま」(※3)」に生まれた女性は気性が激しいという迷信があり、この干支(えと)に当たる1966年は出産を控えた人が多く、ガクンと数字が下がり、その当時で過去最低の合計特殊出生率(1.58)となりました。1989年はこの1.58という数値を下回ったことで「1.57ショック」という言葉が生まれ、出生率(※4)の低下が注目されるようになったんです。

1975年以降、出生数は減り続けている

出典/「令和4年度少子化社会対策白書」

出生数および合計特殊出生率の年次推移を表したグラフ。これまで2005年の合計特殊出生率1.26が最低でしたが、2022年の合計特殊出生率は、それと同じ1.26となりました。

――「1.57ショック」を受け、1994年12月に、「今後の子育て支援のための施策の基本的報告について(エンゼルプラン)」が出されました。これが日本における最初の子育て支援策でしょうか。

山口 そうです。たまひよの創刊が1993年だとのことなので、その1年後ですね。「エンゼルプラン」では、子育てを夫婦や家庭だけの問題ととらえるのではなく、国や自治体、企業や地域社会も含めた社会全体で考えるべきという方針の下、保育サービスの充実を図りました。
0~2歳児保育や延長保育、一時保育、放課後児童クラブなどの拡大、これらを実現するための保育施設の整備、さらに、地域子育て支援センターの整備を行いました。

――その後、ほぼ5年ごとに子育て支援策が発表されています。どのようなことが行われてきたのでしょうか。

山口 短時間勤務制度の整備や、育休中の給付金率のアップ、ワーク・ライフ・バランスの推進など、子育てしやすい環境を整えるための施策が実施されてきました。しかし、日本の子育て支援策はかける予算が少なく、政策実行が遅いという状況が続いています。現在の出生数・出生率をみると、30年かけて行ってきた子育て支援策が期待されたほどの効果を上げていないことがわかるとも言えます。

――日本の子育て支援策が成果を上げられていない理由として、考えられることはありますか。

山口 規模が小さくスピード感も遅いために、子育て中のママ・パパが思い描くライフプランを実現できなかったことが、出生数・出生率が下げ止まらないことにつながってしまっていると考えられます。
その原因の一つには、高齢者向けの対策が優先して行われる傾向にあったことがあるでしょう。選挙の際に高齢者は投票率が高いので、社会保障の予算に占める高齢者対策への割合が大きくなり、その分、子育て支援策は小さくなりがちです。

さらに、母親となる世代の女性の人口はわかっているわけですから、少子化対策・子育て支援策に力を入れないと、出生率がどう推移するかは容易に予想できたはずなんです。実際、予想していたでしょう。それなのに、積極的な対策を行ってこなかった、問題意識が低かった、というのが現在の状況につながっていると思います。

※3:漢字で書くと「丙午」。干支の一つで60年に1度回ってくる。「ひのえうまの年に生まれた女性は気性が激しく、夫の命を縮める」などの迷信から、1966年は子どもを産むのを避けた夫婦が多かったと考えられている

※4:人口1000人に対する出生数の割合

ヨーロッパの子育て支援に比べ、日本は低水準

手を握る。生まれたばかりの赤ん坊を親の手に渡す
●写真はイメージです
minianne/gettyimages

――日本の子育て支援策は低水準だと聞きます。ほかの国とどれくらい差がありますか。

山口 少し前のデータになりますが、経済協力開発機構(OECD)が2019年に行った調査をもとに、国内総生産(GDP)に対して子育て支援のためにどの程度公的資金が投入されてるのか、各国の割合を出してみました。日本は後ろから数えたほうが早い順位でした。

日本の子育て支援は規模が小さい

出典/「OECD Family Database」を元に山口慎太郎先生が作成

とくにヨーロッパの国々と比べると、日本の子育て支援策に使われている公的資金が少ないことがわかります。

――フランスの2022年の合計特殊出生率が1.8で、ヨーロッパ諸国の中では最も高いのは、子育て支援策の成果だといえますか。

山口 フランスでは、子どもが増えるほど所得税の負担が軽くなる制度や、3人目以降の児童手当を増額する多子奨励型を採用するなど、子どもを望む家庭が安心して子どもを産み育てるための支援策が充実しています。
「子育て支援などの家族政策が充実しているかどうか」は、先進国の出生率の高低に一定の影響を与えているとみられています。子育て・家族支援のために使われる公的な金銭的支出が高い国ほど出生率が高いという構図になっています。
先進国の中では出生率の高いフランスの子育て支援策は、功を奏しているのかもしれません。

――日本の子育て支援策が始まったのはほぼ30年前ですが、30年前からずっと日本の支援策は低水準だったのでしょう か。

山口 そのとおりです。かつては今以上に低水準でした。近年になってだいぶ改善されてきてはいますが、効果が表れるには時間がかかります。近年、保育園の待機児童問題が解消したといわれており、子育て支援策が充実したことは確かですが、一方で子どもの数が減ったから待機しなくても入れるようになったという側面もあります。

日本と同様、ヨーロッパの国々でも出生率は下がっていますが、「次世代を担う子どもは国にとって大切な存在なのだから、国が支援し、社会全体で育てていくべき」という考え方は、一定の支持を得ています。子どもが成人して働くようになったとき、その労働所得によって社会保障費の財源を確保できるなど、子どもは国の財源を支える重要な担い手になるのです。

――日本では、「子どもを社会全体で育てていく」という考え方が弱いということでしょうか。

山口 残念ながら、今のところはそういわざるをえません。子どもを「将来の国を支える大切な存在」と考えた場合、子どもを産み育てることの費用を負担するのは親で、将来、子どもが働いて得る収入は社会全体に還元されることになります。子育て中の親の金銭的な負担は大きいのに、子どもが成人後に親が受ける経済的なメリットは少ないわけですから、子どもの数が増えるほど親は損が増える、という考えが出てきてしまうこともあるでしょう。
親は子どもを損得勘定で育てるわけではありませんが、経済的な不安を抱えながら楽しく子育てをできる人はいません。親の経済的負担を減らし、子どもを持つことのメリットを感じられるような子育て支援策が求められています。

――フランスの子育て支援と日本との違いはなんでしょうか。

山口 税制以外のフランスの子育て支援は、児童手当、出産手当、育児休業手当などで、行っていることは日本とあまり変わりません。ほかの国も、子育て支援策の3本柱は「現金給付」「現物給付」「育児休業」で、行っていることはどの国もだいたい同じです。違っているのは規模とスピード。日本の施策はヨーロッパの国々と比べて、「規模が小さくてやることが遅い」のです。

育児・介護休業法の改正は、子育て支援につながる?

日本のカップルは、ボトルから赤ちゃんのミルクを供給
●写真はイメージです
Milatas/gettyimages

――日本の男性育休制度は、世界の中でもかなり充実しているといわれているようです。

山口 夫婦共働き家庭はこれからも増えていくと思われ、男性の家事・育児負担は欠かせません。2021年度の男性育休取得率は13.97%でした。1999年度の男性育休取得率は1.8%ですから、22年間で約8倍。増加傾向にはあり、過去最高の取得率です。しかし海外と比べたら、依然として低水準です。北欧では軒並み70%を超えています。

ヨーロッパを中心に海外の男性は育休を取ることに積極的

出典/「子ども・子育て支援と日本経済(2022年5月24日)」(山口慎太郎先生作成)

2018年の取得率を比較したグラフなので、日本も今はもう少し取得率が高くなっていますが、北欧の70%には遠く及びません。

――男性が育休を取ることで、家族のライフスタイルはどのように変わると思いますか。

山口 カナダのケベック州では育休改革によって、男性の育休取得率が21%から75%に上昇し、平均育休取得期間が2週間から5週間に延びました。
その後の追跡調査では、育休取得後の3年後に、父親の家事・育児時間が増えたことがわかっています。1カ月程度の育休を取ることで、父親のその後のライフスタイルが変わり、家事・育児に取り組むようになったといえます。つまり、男性の育児・家事参加は最初が肝心なんです。

――2023年に公表した「たまひよ妊娠・出産白書2023」では、出産にあたり夫が休みを取った妻の62.5%が満足しているという結果が出ました。

山口 夫が育休を取ることで、夫婦で一緒に子育てすることの意義を見いたすことができ、その後のライフスタイルの変化につながり、それが妻の満足度を高め、62.5%という数字に表れたのではないでしょうか。
男性の家事・育児負担時間が長い国ほど出生率が高いことがわかっていますし、厚生労働省白書では、パパの家事・育児の時間が長い家族ほど、第2子以降の出生割合が高いという報告もあります。

子育て世代の男性は長時間労働で育児・家事に参加する余裕がない?

出典/「令和4年度少子化社会対策白書」

年齢別に就業時間が週60時間以上の男性就業者の割合の推移を示したグラフ。子育て世代(30代、40代)の男性は、ほかの年齢層に比べて、長時間労働をしている人が多いことを示しています。

――子育て世代の男性は仕事が忙しくて、育休を取りたくても取れないという人も多いのではないかと思います。

山口 男性が家事・育児を行うのがスタンダードな世の中になるには、企業も考え方を変える必要があります。男性育休の推進はもちろんのこと、従業員の働き方自体を変えていかなければいけません。たとえば、仕事の効率を上げて不必要な残業を減らすとか、テレワークなど柔軟な働き方を進めるなどです。

――仕事と子育てを両立しやすい社会を作るために、企業の変化も必須ということでしょうか。

山口 そのとおりです。2023年4月から従業員1000人超の企業には、育休取得率の公表が義務づけられたので、女性はもちろん男性も育休を取りやすい環境を整えることが、企業の急務となっています。これからは育休取得率も企業選びの大きなポイントになると思いますから、企業はいい人材を確保するために、育休取得率を上げるための努力をするようになるでしょう。

画像提供/こども家庭庁、山口慎太郎先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

●記事の内容は2023年6月12日の情報であり、現在と異なる場合があります。

たまひよ創刊30周年特別企画が続々!

「たまごクラブ」「ひよこクラブ」は、2023年10月に創刊30周年を迎えます。感謝の気持ちを込めて、豪華賞品が当たるプレゼント企画や、オリジナルキャラクターが作れる「たまひよのMYキャラメーカー」など楽しい企画が目白押しです!たまひよ30周年特設サイトをぜひチェックしてみてください。

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