今年から6月10日を「こどもの目の日」に制定。「うちの子は大丈夫!」と安易に考えないで。子どもの視力の異常は早期発見が大切【専門医】
2023年から、6月10日が「こどもの目の日」の記念日に制定されました。乳幼児期は視力が発達する大切な時期で、「6歳で視力1.0」がすこやかな発達の目安です。「こどもの目の日」の制定には、子どもの弱視の早期発見・治療や、低年齢化している近視の発症予防のためにも、この機会に子どもの目の発達について正しく知ってほしいという願いが込められています。
浜松医科大学医学部附属病院 眼科 佐藤美保先生に、「こどもの目の日」のことや、目の健康を守るために幼児期から注意したほうがいいことなどを聞きました。
子どもの視力の発達の目安は、5~6歳で1.0。6歳で視力1.0をはぐくもう!
今年から6月10日が「こどもの目の日」に制定されました。日本眼科学会や日本眼科医会は、写真のポスターを作成するなどして啓発を行っています。
――「こどもの目の日」は、なぜ6月10日に制定されたのでしょうか。理由を教えてください。
佐藤先生(以下敬称略)「こどもの目の日」のスローガンは、「はぐくもう! 6歳で視力1.0」です。6月10日に制定されたのは、その数字からきています。
子どもの視力は、
1歳ごろ 0.1
3歳ごろ 0.3~0.5
5~6歳ごろ 1.0 と発達していくのが目安です。
しかし最近は、近視の発症年齢が低年齢化していて、就学前健診で子どもの近視に気づくこともあります。
「こどもの目の日」のスローガンは 「はぐくもう! 6歳で視力1.0」と言いましたが、眼鏡をかけてもいいので6歳で視力1.0をめざしてほしいという意味がこめられています。
6歳で視力1.0未満だと、その後の目の健康に大きく影響します。
3歳児健診では、70%以上の自治体で屈折検査を導入。弱視の早期発見が可能に
子どもの目の異常を早期発見できるのは、3歳児健診です。佐藤先生は「3歳児健診を適切に受けてほしい」と言います。
――子どもの目の異常は、どのようにしたら見つけられるのでしょうか。
佐藤 たとえば両目とも見づらい場合は、テレビや絵本を見たりするときに、すごく近づいて見たりするため、ママやパパも気づきやすいです。
しかし片目だけ見にくい場合は、視力が正常なほうの目で見ているので、家庭では気づきにくいです。そのため3歳児健診を必ず受けてください。3歳児健診では視力検査や屈折検査を行います。
――3歳児健診は、家庭で視力検査を行います。
佐藤 3歳児健診を受ける前に、家庭でママやパパがランドルト環(一部では絵視標)を用いて検査をすることになっている自治体が多いでしょう。2.5メートルの距離をとり、片目をきちんと隠して行う検査です。しかし、家庭で3歳児を検査するのはなかなか大変で、2.5メートルの距離が適正にとれなかったり、子どもがふざけて「見えない」「わからない」などと言ったり、両目で見てしまったりする場合もあるかもしれません。
そのように家庭で正しく検査できないときは必ず3歳児健診の会場で、その旨を伝えてください。「いつも見えている様子だから大丈夫」とママ・パパが自己判断しないでください。自治体によっては、健診会場に視能訓練士がいて正しく視力検査をしてくれることもあります。
――3歳児健診で行う屈折検査について教えてください。
佐藤 屈折検査は、弱視の原因となる遠視、乱視などの屈折異常と斜視を検出するための検査です。弱視の子どもは50人に1人といわれていますが、屈折検査を行わないために見逃されてしまうことがありました。
また従来の屈折検査機は、場所をとって持ち運びが困難でした。携帯型もあるのですが、操作が難しいために3歳児健診では行われていませんでした。
しかし2015年に小型で操作が簡単な屈折検査機(フォトスクリーナー)が登場し、2022年4月から、自治体の導入に際し補助金が出るようになりました。それによって自治体の導入率は70%以上になりました。2021年のときは、わずか28%だったので、飛躍的に拡大していますし、とてもいいことだと考えています。
――3歳児健診で行われる屈折検査とはどのようなものなのでしょうか。
佐藤 小型カメラのような検査機を使って、薄暗い場所で1メートル離れたところから子どもに「こっち見て」と声をかけて、検査機器を見てもらいます。1人数秒で検査は終わり、すぐに結果が表示されます。眼科医でなくても検査できるという点が大きなメリットです。
――70%以上の自治体というと、導入されていない自治体もまだあるということでしょうか。
佐藤 高価な機械なので、導入されていない自治体もあります。もし住んでいる 自治体の3歳児健診で屈折検査が行われない場合は、個別に受けられる方法がないか保健所などで聞いてみましょう。私は本来、検査体制にこうした地域差が生じてはいけないと考えています。住んでいる自治体の3歳児健診で、屈折検査を行っていないために弱視が見逃されて、早期治療ができなかったということがないようにしていくべきだと思っています。
――3歳児健診で目の健診を受けるときの注意点を教えてください。
佐藤 先ほども話しましたが、家庭で視力検査が正しくできなかった場合は、その旨、きちんと健診会場で伝えてください。
また健診の結果、眼科で精密検査を受けるように言われたら、すぐに眼科を受診してください。
たとえば屈折検査の判定結果が出なかった場合は、網膜剥離(もうまくはくり)や白内障(はくないしょう)のこともあります。
なかには3歳児健診で眼科に行くように言われても「忙しくて」とつい後回しにしてしまったり、「普段は見えているようだから、急いで再検査は受けなくて大丈夫」と考えるママ・パパもいるようですが、子どもの目の病気の治療は早期発見・早期治療が大切です。
乳幼児健診で、子どもの目の異常を早期発見できるように
子どもの目の健診が受けられるのは、3歳児健診だけではありません。節目ごとの乳幼児健診でも、子どもの目の異常は発見できます。
――子どもの目の健診は、3歳児健診でないと受けられないのでしょうか。
佐藤 2021年3月、国立成育医療研究センターから「改訂版乳幼児健康診査身体診察マニュアル」が発行されました。このマニュアルに沿って、小児科医は乳幼児健診を行います。
たとえば3~4カ月児健診では「乳児内斜視は未治療のまま3カ月以上放置すると、弱視をきたし立体視の獲得が困難になるため、『瞳が白く見えたり、光って見えることはないですか』『目の大きさや形がおかしいと思ったことはありますか』『視線が合いますか』『動くものを目で追いますか』など、目に関する問診を積極的に行うように記しています。
また必ず片方の目を隠してペンライトや興味を引くおもちゃを使用して、固視と追視を確認します。こうした目のチェックを、9~10カ月児健診、1歳6カ月児健診でも行うように記しています。そのためママ・パパも普段から、子どもの目の様子をよく見てください。気になることは乳幼児健診で聞きましょう。
――3~4カ月児健診から、目に関する問診を積極的に行うように記されているというのは、やはり目の異常は早期発見が必要ということでしょうか。
佐藤 たとえば弱視の子どもの割合は50人に1人です。小学校の就学前健診で発見されることもあるのですが、子どもの視力は6~8歳ごろには完成してしまうので、3歳児健診で発見し、早期治療するが望ましいです。
「うちの子は大丈夫!」と安易には考えないでほしいと思います。
取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE
子どもの視力は6~8歳ごろに完成しますが、小学1年生ですでに約4人に1人は裸眼視力が1.0未満といわれています。今年から、新たに制定された6月10日の「こどもの目の日」を機に、子どもの目の健康について改めて考えてみませんか。
●記事の内容は2023年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。