どうせ生え変わるは絶対NG!子どもの歯、乳児期のケアが永久歯に与える影響
永久歯の歯並びは、まだ永久歯の生えていない乳児期からのケアがとても重要だということをご存じでしょうか?
永久歯が生えてから歯を矯正するのは費用もかかるし、時間もかかります。乳児期のうちから、歯並びが悪くなるリスクはなるべく下げておきたいところです。
ほかにも乳児期に気を付けておきたい点があります。乳児の歯のケアにも詳しい、ほりぐち歯科(東京都大田区)の堀口尚司先生にお話を聞きました。
乳児期にむし歯ができると歯並びが悪くなる?
堀口先生によると、乳歯のむし歯が永久歯の歯並びに影響することがあるそうです。なぜなのでしょう?
「乳歯がむし歯になって歯に穴があいたり、歯が抜けてしまったりすると、その両側の歯がすき間を埋めるように詰め寄り、右の奥歯から左の奥歯までの歯の幅の総和が少し縮まります。すると、あご全体も少し小さくなります。永久歯への生え替わりの際、狭くなった場所に永久歯が生えてこようとするので、歯並びが悪くなってしまうことがあります」(堀口尚司先生、以下「」内同)
永久歯が生えるときに、あごが小さいと歯並びが悪くなってしまうのだそうです。むし歯にならないように、日ごろからどのようなケアを心がけるべきでしょうか。
「むし歯予防というと、まず歯磨きと考える人が多いと思いますが、歯磨き(フッ素を用いない場合)をしたグループと歯磨きをしなかったグループでむし歯の発生状況にほとんど差がないことがわかっています。一方、フッ素を用いることでむし歯予防ができることが証明されています。むし歯予防の観点からいうと、歯磨きで大事なのはバイ菌を取り除くことよりも、歯磨き剤に含まれるフッ素を歯に塗ることに意味があるのです(※大人の歯周病予防の観点からは、歯磨きによるバイ菌の除去が必要です)。歯医者さんでフッ素塗布をしてもらうのも有効です」
子どものころから、歯磨きでむし歯予防するようにと教えられてきた人も多いでしょう。歯磨きの効果がそれほどでもないということであれば、むし歯予防のために、フッ素塗布以外にどんなことをすればいいのでしょうか?
「食べ方のコントロールです。食べ物が口に入ると、細菌が食べ物(特に糖分)を分解して酸を出します。その酸によってむし歯が進行するのですが、酸を中性にしてくれるのが唾液です。唾液には歯のエナメル質の修復作用もあります。むし歯のリスクを下げるには、『ダラダラ食べ』や『ちょい食べ』をやめて、口の中が酸性状態である時間を短くすることが大事。でも、痩せるためのダイエットも食べ方のコントロールで皆さんが苦労しているように、実はこれが一番難しいことなんです」
生活習慣をいきなり変えることは難しいので、少しずつ、簡単なことから見直してみてはどうでしょう。たとえば、おふろ上がりのジュース。堀口先生によると、寝る直前にジュースを飲ませるのは避けたほうがいいとのこと。寝ているときは唾液がほとんど出ないので、口の中が酸性のまま、一晩過ごしてしまうことになるからです。ごはんやおやつの時間が不規則なのもよくありません。
指を吸うクセ、舌をかむクセで歯並びが悪くなる?
指をチュッチュッチュと吸う赤ちゃんは珍しくありません。しかしこの”指しゃぶり”が、ズレを引き起こすこともあるのだとか…。
「指を吸う力で上の前歯が押される状態が続くと、いわゆる出っ歯の原因になってしまうことがあります。ただ、指を吸うほうが落ち着くという子もいるので、無理にやめさせるのはどうかという意見もあります。クセは直したほうがいいですが、急にやめさせるのではなく、『3歳までに卒業する』などと目標を決めておくといいと思います」
指を吸うことで前歯が出てしまうということに、驚く人も多いかもしれませんが、矯正器具よりも強い力があごにかかっているのだそうです。“クセつながり”では他に、「舌をかむクセ」も歯並びに影響を与えるようです。
「舌をかむクセがあることを『咬舌癖(こうぜつへき)』といいます。サ行がうまく言えないなどの特徴がありますが、このクセも歯を押し出したりするので、歯並びを悪くする原因の1つとして考えられます」
ちなみに、ほおづえもあごの骨がズレる原因になることがあるのだそうです。頭の重さは大人で5キロ程度、子どもでも数キロはあります。その力があごにかかってしまうので、クセにならないよう、気をつけておきたいですね。
口呼吸で歯並びが悪くなる?
「口呼吸をしていると、舌が下のほうに落ちていきます。舌の重みで下あごが押されてしまうと、下あごが前に出てしまい歯並びに影響します。この問題を解決するには鼻呼吸をしないといけません」
鼻に炎症があったり、もともと鼻の穴が小さかったりすると口呼吸になりやすいそうですが、その場合は鼻の治療をすることで鼻呼吸が安定し、歯並びも落ち着くのだそう。
「口呼吸対応の歯科を探すときのキーワードの1つは、『MFT(口腔筋機能療法)』です。これは舌や頰などを訓練する療法です。口まわりが安定することで鼻呼吸も安定しやすくなります。保険対応しているところが少ないので費用の問題があるかもしれませんが、歯並びのことを考えれば、できるだけ改善したほうがいいでしょう」
子どもを何度か歯科に連れて行ったことのある筆者の妻は、「むし歯にさせると大変なことになるから」と言うのですが、子どもと歯科に行ったことのない筆者は正直、「どうせそのうち生え替わるし、永久歯が生えてからむし歯や歯並びを気にしたらいいんじゃないの?」くらいに考えていました。認識の甘さは認めざるを得ないところで、これからはもう少し、自分も子どもの歯の健康にかかわっていかなければと痛感しました。クセなどには早めに気づいてあげて、いつからどのように対策をとればいいか、定期検診などの際に確認しておこうと思います。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/堀口尚司先生
東京医科歯科大学歯学部卒業、同大学院保存修復科修了。虎の門病院勤務を経て2004年に「ほりぐち歯科」を開業。モットーは「子どもの気持ちに寄り添った治療」。