「挨拶しなさい!」は逆効果。子どもに挨拶はいつから? どう教える?
きちんとあいさつができる子になってほしい! そう願う親は多いでしょう。しかし子どもは親の期待通りに育つとは限りません。あいさつするようにと言い聞かせているのに、それがなかなか身につかないということも多々あるもの。
子どもにあいさつを覚えてもらうにはいつから、どのように教えればいいのでしょうか。子どもの社会性の発達に詳しい、白百合女子大学人間総合学部の秦野悦子先生(発達心理学)に話を聞きました。
教えられても子どもはあいさつを覚えない!?
――子どもには、何歳くらいからあいさつを教えればいいでしょうか?
秦野先生:あいさつは、生活の中で刷り込まれて身についていくものなので、「生まれたときから」です。赤ちゃんにも、生活の中で出会いや別れがあります。たとえば、親の両親や友人などが家に遊びに来たときなどに、「こんにちはー」「おやすみー」「バイバーイ」と赤ちゃんも巻き込んだ形で親があいさつをするようにすると、「こういうときには、こういうことを言うらしい」と赤ちゃんながらに状況と結びついた表現を理解していき、言葉をしゃべるようになると、あいさつが自然に出てきやすいでしょう。誕生日のときの「ハッピーバースデー!」「おめでとう」「ありがとう」のような、改まった場所でのあいさつを経験していくことも大事なことです。「言葉の意味がわかるようになってから、あいさつを教えよう」と、あるとき急にあいさつを教え始めても、生活の流れの手順に組み込まれていないものは、子どもにはわかりにくく、なかなか大変です。そう考えると、親が「何歳くらいから教えればいいのだろう」と思っている時点で、実は遅いくらいなのです。
――そうなんですか!? 赤ちゃんの時期を過ぎてしまうと、もう手遅れとか…?
秦野先生:手遅れというわけではありません。あいさつは、毎日の生活の中に組み込まれているので、気づいたときが、始めどきといえるのかもしれません。たとえばお盆やお正月、お祭り、ホームパーティーなど、非日常の場面はあいさつという習慣を意識的に入れ込んでいき、覚えてもらういい機会です。そのときは事前に、「ばあばとじいじに会ったら『こんにちは』しようねー」といったような「予告」をしておくと、子どもは「こういうときにあいさつをするんだな」ということを、状況と結びついた表現として理解しやすいでしょう。先ほど、「いつから教えればいいですか?」とご質問されましたが、「教える」ではなく、「知らせる」つもりでいると身につきやすいと思います。
――それを聞いて少し安心しました。後からでも覚えられるけど、なるべくなら赤ちゃんのころから自然に覚えていくほうがスムーズなのですね。でも、言葉の意味がわからない赤ちゃんにあいさつを覚えさせるのは、さすがに難しいような気もしますが…。
秦野先生:あいさつは習慣なので、言葉の意味がわかる必要はありません。大事なのは、習慣的な行動として、あいさつを覚えていくことです。だから「ありがとう」と言うときも、感謝の気持ちはあってもなくても構いません。物をもらったり、何かをしてもらったりしたときに、そのようにふるまうことを覚えてもらうことが大切です。そもそもあいさつは、親が教えるものでもありません。子どもは、自分のまわりの人がやっているのを見て、自分も同じようにふるまったり、自然につられてやっていたりするものです。そのくり返しであいさつが習慣になっていきます。その点からは、お父さん、お母さん自身が普段あいさつをしているか、ということも大事になってきます。
――子どもは親の普段の姿をちゃんと見ているのですね…。自然に身につくような様子がないとき、「きちんとあいさつしなさい!」と強引にあいさつさせるのはよくないですか?
秦野先生:親がそのようにプレッシャーを与えると、あいさつの場面が緊張の場面になってしまいます。あいさつは、最初からきちんとできてもできなくてもかまいません。初めての場所や初めて会う人、そういった不安のあるシーンで親が強い口調になると、子どもがかたくなってしまうこともあります。あいさつができていないからといって、「あのお友だち、ちゃんとあいさつできてすごいねー」と、比べるのもよくありません。
――では、どうすれば…?
秦野先生:入園の面接などで、どうしてもちゃんとあいさつをしてもらいたいときも、事前に「こんにちは、って言おうねー」と“魔法”をかけておくといいと思います。それでもし、面接本番であいさつの言葉が出てこなかったとしても、「ほら! あいさつして!」と強要するのではなく、「一緒に『こんにちは』ってしよっか」と促すといいと思います。
――家にいる時間が長く、外に出てあいさつする場面が少ない場合は、どうすればあいさつを習慣化できますか?
秦野先生:ぬいぐるみなどを使ったごっこ遊びの中に、「こんにちはー、行ってくるねー」「さようならー」「おかえりー」「ありがとう」といったあいさつを取り入れるといいと思います。生活の中のできごとをふり遊びとしてたくさん体験する中で、言葉の上手な使い方を子どもは身につけていきます。外であいさつがちゃんとできたら、「あいさつできて、かっこいいなー」「あいさつしたから、○○ちゃんもにこにこしていたねー」と、子どもの自己肯定感を育んでいきましょう。あいさつをして大人にほめられると、子どもはうれしくなってまた次もあいさつをするようになります。いい循環が生まれると、あいさつもスムーズに身についていくでしょうね。
子どもがあいさつをしないとき、「あいさつしなさい」と強要するのもどうだろう? でも言わないといつまでもあいさつできるようにならないしなぁ
・・・。そう思っていた筆者にとっては、気づきの多い話がたくさんありました。あいさつは「教える」ではなく「知らせる」。習慣として身につけてもらうには、たしかにそのほうが抵抗なくあいさつを覚えてくれそうです。親があいさつをしているかどうかを見ているというのも、ドキッとする話。朝起きて「おはよう」と言う日もあれば、省略している日もあったので、まずは親である自分が習慣を変えていく必要もありそうです。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/秦野悦子先生
白百合女子大学大学院・文学研究科発達心理学専攻、人間総合学部発達心理学科教授(学科長)、発達語用論、障害児のコンサルテーション、子育て支援が専門。『子どもの気になる性格はお母さん次第でみるみる変わる』(PHP研究所)など著書多数。