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乳幼児教育の世界で注目される「非認知能力」 大切なのは2つの心

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座っていると笑顔の楽しい幼稚園子供友人腕のグループ
Rawpixel/gettyimages

昨今、乳幼児教育の世界では、数値には表せない「非認知的な能力」への注目が高まっています。そこには自立心や共感する力など、生きていくうえで欠かせない能力が含まれていますが、それらを単に伸ばすだけではあまり意味がないのだそうです。いったいどういうことなのでしょう。そこでたまひよONLINEでは非認知的な能力を「非認知的な心」と呼ぶ、発達心理学・感情心理学が専門の東京大学大学院教育学研究科、遠藤利彦先生にお話を聞きました。

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子どもは1回1回の感情のエピソードがあるからこそ育つ

――「非認知的な能力」について、遠藤先生はどのような定義をされていますか?

遠藤先生:簡単に言えば、頭のよさ以外の力。私は「非認知的な心」や「心の力」などと呼んでいます。認知能力以外の心の特性を表したものと定義しています。
――一般的に広まっている「非認知的な能力」という言葉を「非認知的な心」と言い換えているのはなぜですか?

遠藤先生:「能力」という言葉を使ってしまうと、「高ければいいんだ」と誤解してしまう人もいるからです。たとえば、「自己抑制」は、多くの人に求められる力です。でも引っ込み思案な子の自己抑制能力を高めても、余計に自分を出せなくなってしまいます。そういう子に対しては、自己抑制よりも主張する力を伸ばしてあげたほうがいいのです。
ある子どもにはプラスに働くことも、別のある子どもにはマイナスに働くこともある。全員が全員、「これを伸ばさないといけない」というものはありません。

――最近になって「非認知的な能力(心)」という言葉がよく使われているようですが、いつごろから注目されているものですか?

遠藤先生:もともとその重要性を指摘したのは、ジェームズ・ヘックマンというノーベル経済学賞受賞学者です。彼は1962年にアメリカ・ミシガン州のペリー小学校附属幼稚園で「ペリー就学前研究」を開始し、長期にわたり追跡調査を続けました。すると、幼稚園に2年間通って初歩的な幼児教育を受けた子どものほうが、そうした教育を積極的に受けなかった子どもよりも、40歳時点での経済状態がよく、離婚率や犯罪率、生活保護受給率が低かったのです。この調査ではIQ(知能指数)についても調べられました。幼稚園に通った子どもには、IQの短期的な上昇はあったものの、8歳時点では両者の差がほとんどなくなっていた。そこでヘックマンは、「IQのような認知能力以外のものが要因になったのでは?」と考えたわけです。でも彼は心理学の専門家ではないので、非認知のことについてはあまり深く掘り下げていませんでした。

――その後、心理学の専門家の方たちが研究をされて、「非認知的な能力(心)」の大枠が見えてきたというわけですね。「非認知的な心」には、具体的にどのようなものがありますか?

遠藤先生:OECD(経済協力開発機構)などはそれを3つに分類していますが、私は大きく2つに分けています。一つは「自己」。これは自尊心、自己肯定感、自立心、自制心、粘り強さ、やる気をもって頑張る力などがあります。もう一つは「社会性」です。集団の中でうまくやっていく力、人の気持ちを理解する力、共感や思いやり、協調性、ルールや決まりを守る規範意識や道徳性などがあります。

――二つの心をはぐくむためのポイントを教えてください。

遠藤先生:特別な行いでこうした心がはぐくまれると思われる方もいると思いますが、そうではありません。普段の生活の中で子どもの感情が崩れたときに、まわりの大人がどう寄り添い、その感情を適切に立て直したか。その1回1回の感情のエピソードに、非認知的な心がはぐくまれるきっかけがあります。
たとえば、雷が鳴って怖い思いをしたときに、「怖かったね」と声をかけてその気持ちに寄り添ってあげる。「でもおうちにいれば大丈夫だよ」と気持ちを立て直してあげる。そうすると、子どもは今の感情が「怖い」という感情なのだとわかり、そういうときはこうすればいいんだということを学び取ります。大人から見ればほんのささいな感情でも、子どもにとっては1回1回のエピソードが大事。それが成長につながっていきます。

――これからAI(人工知能)時代に、「非認知的な心」の重要性が高まると言われていますが、先生もそう思われますか?

遠藤先生:これから世界は、今まで以上にVUCA(ブーカ)な時代になると言われています。VUCAというのは、社会の今の様子を表した4つの単語、Volatility(不安定さ)、Uncertainty(不確定さ)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(不明確さ)の頭文字を取った言葉です。このような時代に、絶対的な価値基準というものもありません。そこで生き抜いていくには、何か決められたものに従うことよりも、臨機応変に自分で考えて、自分の責任で前に進む力が重要です。AIはデータの集積のもと成り立っているので、予測することは得意です。しかし、予測できないことが起こる時代。非認知的な心の重要性はますます高まるでしょう。

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「子どもの感情に1回1回寄り添うのは、さすがにちょっと大変そうだな…」。そんな思いを遠藤先生に切り出してみたところ、「育児で大切なのは、何ごとも『ほどよく』ですよ」とのこと。すべての感情の変化に完璧に対応できなくても、最後にちゃんと立て直してあげれば大丈夫ということでした。そこで筆者はマイルールとして「寝る前までには立て直す」ことにしました。ただ、こうした学びの機会は成長とともに減っていくそうです。学びの機会がたくさんある幼少期のうちは、できる限り、でもほどほどに、子どもの感情に気づいてあげたいですね。(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)


監修/遠藤利彦先生
東京大学大学院教育学研究科・教授(発達心理学・感情心理学)。子どもの発達メカニズムや育児環境を研究する発達保育実践政策学センター(Cedep)のセンター長も務めている。

参考文献/『赤ちゃんの発達とアタッチメント――乳児保育で大切にしたいこと』(遠藤利彦著・ひとなる書房)、『言葉・非認知的な心・学ぶ力』(小椋たみ子、遠藤利彦、乙部貴幸著・中央法規出版)

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