2800人をみた92歳の保育士 かかわり方は『時間』より『密度』
働くママは年々増え、厚生労働省の調査によると、18歳未満の子どもを育てなから仕事をしている母親は、2017年に初めて7割を超えました。
多くのママが仕事をしている時代とはいえ、小さい子どもを預けて働くママやパパたちの中には、「本当にこれでいいのかな」と不安に思ったことのある方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、2800人以上の園児を見てきた92歳の現役保育士、大川繁子先生にお話を聞きました。
子どもの心が満たされる! ハグで育てる親子の絆
―-年々、働くママの割合は増えていますが、中には子どもを園に預けることに罪悪感を持ってしまうママもいるようです。
大川先生:そうですね、私が見てきた中にもそういうお母さんたちはいました。とくに0・1歳児を預けるお母さんたちは、どうしても葛藤(かっとう)が生じてしまうみたい。
だけど私は「女性が社会に出ること」を応援したいと思っています。今は、女性が家族以外の世界を持って、「お母さん」だけでなく自分の名前で生きることができるようになった。
子育てをしながら働くということはとても大変だけれど、とてもすばらしいことです。
―-ご自身も働きながら3人のお子さんを育て上げ、保育士として2800人の園児たちを見てきた大川先生ですが、子どもとのかかわりで大切なことはなんだと思いますか?
大川先生:子どもとお母さん・お父さんとの絆(きずな)を育てるのは「時間」より「密度」です。これは確信しています。
一緒にいる時間にしっかり向き合うことができれば心配しなくても大丈夫。
朝から晩まで一緒にいても、お母さんがずっとスマホを見ていては、子どもにとっていい環境とは言えないわよね。
――その「密度」を高めるには具体的にどんなことを実践すればいいでしょうか?
大川先生:そうね、いちばんかんたんにできて、子どもにも愛情が伝わりやすいのはハグすることね。おはようのハグ、いってきますのハグ、ただいまのハグ…
「子どもに悪いことをしたな」と思ったときには「ごめんね」と言いながら抱きしめるのもOKね。
むずかしい言葉を並べるより、ギューッと抱きしめてもらうハグで、子どもの心は満たされます。
忙しいお母さんやお父さんも、意識的に子どもをハグするようにしてみてくださいね。
―-肌と肌が触れ合いママやパパのぬくもりを感じることができるハグは、子どもに安心感を与えるのかもしれませんね。
大川先生:大人だってハグで愛情を感じるでしょう。それと同じよ。
預ける園と先生を信頼して! そのためにも園選びは慎重に
―-インターネットやSNSが普及していろいろな情報が入りやすくなり、外野からの声に悩まされるママも多くいます。
中には、「仕事も頑張りたくて復帰を決めた矢先に『母親を必要としてる時期に預けるなんて子どもがかわいそう』と言われて落ち込んだ」というママもいました。
大川先生:「預けることがかわいそう」なんてことはありません。
こっちはプロですよ、責任を持って保育します。
保育園では一日中遊びに集中できるし、社会性も身につく。家ではできない遊びやお母さんが相手するのに疲れるような遊びにもとことん打ち込めます。
子どもにとっては、遊びが学び。毎日思いっきり遊んでいますから、お母さんは安心して自分の世界を持ってくださいね。
-―そう言ってもらえると、子を持つ母としては心強いです。
大川先生:うちの保育園には、「帰りたくない」という子はいても「行きたくない」という園児はいませんよ。
―-子どもたちにとって保育園が、居ごこちのいい場所の一つになっているんですね。
大川先生:お母さんが安心して働くためにも、子どもを通わせる園はよく見学したほうがいいですよ。
待機児童が多い場所などは、選んでいられない、という事情があるのもわかります。
でも、実際足を運んでみると、パンフレットに書いてあることだけじゃわからなかった園の様子も知ることができるから、なるべくお母さんとお父さんで足を運んでみて。二人が気に入った園に入れるのをおすすめします。
ある程度子どもが大きい場合は、子どもも気に入ってくれるともっといいわね。
―-園や先生方との信頼関係を築くためにも、園選びはしっかりした方がよさそうですね。
大川先生:うちの園には「ここに預けたくて仕事を探しました!」とか「ここに預けたくて引っ越してきました!」と言ってくださる保護者もいるのよ。
-―それはすごいですね…!
大川先生:「かわいそうなことをしているのかも…」と悩まないためにも、「ここに預けたい!」という園を見つけられるといいわね。
もちろん、幼稚園までは自分の手で育てる、というのもそれは素晴らしい選択。
なにはともあれ、預けるとか預けないとかはたいした問題ではなく、大切なのは「親が自分で納得のいく選択をすること」なんですよ。
「子どもとの時間がなかなか取れない」と悩んでいるママやパパも、心配しなくて大丈夫という大川先生。子どもと長時間過ごすことよりも大切なのは、子どもと過ごせる時間の中で、「いかにしっかり向き合うか」。
「最近、子どもとうまく向き合えてないな」と感じたら、大川先生のあたたかい言葉を思い出して、子どもをギューッとハグしてみてはいかがでしょうか。
(取材・文/大月真衣子、ひよこクラブ編集部)
■お話/大川繁子先生
(小俣幼児生活団・主任保育士)
昭和2年生まれ。モンテッソーリ教育やアドラー心理学を取り入れた、足利市の私立保育園「小俣幼児生活団」の主任保育士。足利市教育委員、宇都宮裁判所家事調停委員、足利市女性問題懇話会座長などを歴任。およそ60年にわたって子どもの保育に携わっている。初の著書である「92歳の現役保育士が伝えたい 親子で幸せになる子育て」(実務教育出版)が好評発売中。