子どもの未来を奪わない! 脱マルトリ(不適切な養育)のしかり方、かかわり方・小児神経科医
子育てをしていると子どもを注意したり、しかったりすることは多々あると思います。しかし、しかり方によっては、子どものココロや脳にダメージを与えてしまうことがあるのをご存じですか? 脳やココロにダメージを負った子どもたちの相談や治療に当たる、小児神経科医・友田明美先生に、適切なしかり方について教えてもらいました。
よくあるケースから学ぶ! しからなくても、子どもが理解するかかわり方とは!?
大人から子どもに対する避けたいかかわり“マルトリートメント”(以下マルトリ)をご存じですか? マルトリにはいくつかタイプがありますが、ママやパパが無意識に行いがちなのが、しかったり、注意をしたりするときの『言葉の暴力』です。乳幼児期から言葉の暴力を浴び続けた子は、脳がダメージを受けて「自分はダメな人間だ」と思い込んだり、人とのコミュニケーションが苦手になったりする傾向があります。
しかし子育てをしているとどうしても注意したり、しかったりしなくてはいけない場面も! そんなときは、どうしたらいいのでしょうか!? よくあるケースから、脱マルトリのかかわり方を紹介します。
case1「公園から帰りたくない!」「ほかの子が乗っていて、ブランコで遊べない!」など思い通りにならないと、すぐにかんしゃくを起こして泣きわめきます
【かかわり方】かんしゃくには理由があるので、理由を探って冷静に対応を
マルトリをしているママやパパは「恥ずかしいから泣かないの!」「もう帰るよ!」と頭ごなしに怒りがちです。
しかし子どもがかんしゃくを起こすには、必ず理由があるので、まずは理由を探りましょう。そして子どものかんしゃくがおさまったら、ママやパパも冷静になって「もう時間だから帰ろうね」「ブランコ、並んでみる?」など言葉をかけてみて。素直に聞けたら「順番を待ててエライね!」とほめましょう。そうしたかかわり方を繰り返すことで、かんしゃくはしだいにおさまっていきます。
またかんしゃくを起こす理由がわからない場合は「眠い」「暑い」など生理的欲求や、感覚過敏の子は「音がうるさい」「衣類の肌触りが気持ち悪い」「スキンシップがイヤ!」などの理由でかんしゃくを起こす場合もあります。
case2 おもちゃの取り合いをすると、すぐにお友だちをたたきます
【かかわり方】たたいた理由を聞いて共感してあげることで、攻撃性はおさまっていきます
ママやパパが日ごろからたたいたりしていると、子どもは暴力で解決することを覚えてしまいます。そのため家庭でたたいたりしていることがあるときは、それを改めることが先決です。
また子どもがたたいているところを目撃したら「ダメ!」と頭ごなしにしからずに「どうしてたたいたの?」と理由を聞いて共感しながらも、「でも〇〇くん、たたかれたら痛いよ」と相手の子の気持ちを伝えてあげて。子どもはママやパパに共感してもらい「自分は大切に思われている!」と感じると、自然とココロが安定して攻撃性がおさまっていきます。
case3 3歳になるのに、人見知りが激しくて困っています
【かかわり方】人見知りは発達の証し! 集団生活に慣れると、人見知りが和らぐ子も
子どもの気持ちを無視して「仲間に入れてもらいなさい!」と無理やり、お友だちの輪に入れようとしたり、「〇〇ちゃんは、みんなと遊んでいるよ」とお友だちと比べてプレッシャーをかけたりするママやパパもいるかも知れませんが、これもマルトリです。
人見知りは個人差があるので、年齢にはとらわれないで大丈夫。また人見知りは正常な発達の証しです。たとえ時間はかかっても、幼稚園や保育園などで集団生活を送っているうちに、しだいに慣れて人見知りが和らぐ子は多いですよ。
case4 野菜が嫌い! どうにかして野菜を食べさせたい!
【かかわり方】味やにおい、食感に敏感な子もいるので無理強いは禁物!
子どもが嫌がっているのに「あなたのためだから!」と無理に食べさせると、ますます野菜嫌いになりかねませんし、こうした強引な言葉かけもマルトリの一種です。
なかには味やにおい、食感に敏感な子もいるので無理強いは禁物! たとえば緑黄色野菜にはβ-カロテンが多く含まれていますが食べない場合は、みかんにも含まれているので“みかんで代用”と考えても大丈夫。野菜はみじん切りにしてハンバーグやカレーなどに入れると食べる子もいるので、調理のしかたも工夫してみましょう。
case5 「ちょっと待ってね!」と言っても聞いてくれません
【かかわり方】「待つ」ことを端的に伝えて、スモールステップで練習をしましょう
子どもが待てないとイライラして「なんでわからないの!」など強い口調でしかるママやパパもいるかも知れませんが、威圧するようにしかるのもマルトリです。
「ちょっと待ってね!」と言っても、なかなか待てない場合は、スモールステップで待つ練習をしましょう。はじめは30秒ぐらい待つことから始めて「ここで待って!」など、短い言葉で端的に伝えます。待てたときは「よく待てたね! ママ、助かったわ。ありがとう」と大いにほめてあげて。
また子どもに聞こえるように、パパに「今日、〇〇ちゃん待っていてくれたから助かったわ」と伝えると、自然と「次も頑張ろう!」と思うようになります。(取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部)
子どもへの脳やココロへのダメージというと身体的な虐待をイメージして「うちとは関係ない!」と考えるママやパパもいるかもしれませんが、友田先生によると、実は身体的な虐待よりも厳しくしかったり、子どもの人格を否定するようなことを言い続けたりするほうが、脳やココロへのダメージは大きいそう。そのため、しかったり、注意しなくてはいけないときは「危ないから止まる!」など、短くわかりやすい言葉で伝えて。これを心がけるだけでマルトリはぐんと減ります。(取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部)
■監修/友田明美先生
(福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授)
小児神経科医、医学博士。専門は、小児発達学、小児精神神経学。2009~2011年および2017年~2019年に日米科学技術協力事業「脳研究」分野グループ共同研究日本側代表を務める。著書に「親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる 」(NHK出版新書)、「実は危ない! その育児が子どもの脳を変形させる」(PHP研究所)、「脳を傷つけない子育て」(河出書房新社)などがある。