今シーズン小児が気をつけたい感染症は、新型コロナ?インフル? 秋からの新型コロナ情報【専門家 監修】
秋・冬は、ウイルスが活性化しやすい季節。新型コロナだけでなく、インフルエンザなどの流行も心配です。また新型コロナウイルスの5類感染症引き下げが検討されるなど、秋・冬になり新型コロナウイルスを取り巻く環境にも変化が。感染症に詳しい、新潟大学大学院 医歯学総合研究科 国際保健学分野教授 齋藤玲子先生に9月28日の時点でわかっている、感染症情報について話を聞きました。
新型コロナが5類に引き下げられると、さらなる感染拡大の危険性が!
政府は、2020年8月、新型コロナウイルス感染症の位置づけの見直しを検討することを決めました。新型コロナウイルスは、現在、指定感染症として2類相当の措置がとられています。陽性者には入院勧告や就業制限、外出自粛などの要請ができます。しかし医療崩壊などの観点から、5類への引き下げが検討されています。
5類になるとインフルエンザなどと同じように、入院勧告などができません
――もし新型コロナウイルス感染症が、現在の2類分類から5類に引き下げられると、どのような影響が出るのでしょうか。
齋藤先生(以下敬称略) 5類とは、季節性インフルエンザや、RSウイルス、手足口病、ヘルパンギーナなどと同じです。入院勧告や就業制限、外出自粛要請などはできないため、陽性者でも自由に移動ができます。そのため新型コロナウイルス感染症が5類に引き下げられると感染が拡大することが予測されます。
――厚生労働者は、各自治体に新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行に備えて、発熱症状がある場合は、かかりつけ医にまず相談できる体制づくりを呼びかけています。医療現場は混乱しないのでしょうか。
齋藤 まずはPCR検査や迅速抗原検査の問題があります。国は迅速抗原検査を1日20万件までに拡充するように方針を立てています。しかし供給が追いつかないとも言われています。
新型コロナウイルス感染症か、インフルエンザかわからない患者に、開業医が院内感染を防ぎながらどこまで対応できるかも課題です。
「対応できない場合は、高熱ならば薬が効くインフルエンザをまず治療するために、タミフルを処方してもいいのではないか」と考える医師もいます。もし新型コロナウイルス感染症だった場合、タミフルを服用しても新型コロナに悪影響はないものの、めまいなどの副作用の問題もあります。今、医療現場での大きな課題です。
秋冬は、新型コロナ、インフルだけでなくRSウイルスの流行にも要注意
ニュースなどを見ていると「秋・冬は、新型コロナウイルスとインフルエンザに注意!」と報じられていますが、小児の場合は、それだけではないようです。
今夏はRSウイルスの流行が見られなかったので、秋以降警戒を
――今シーズンの感染症で、小児が注意したほうがいいのは、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザだけでしょうか。
齋藤 RSウイルス感染症にも注意が必要です。RSウイルス感染症は、1歳前後の乳児に多く、小児の場合は、新型コロナウイルスよりも重症化するリスクが高いです。悪化すると細気管支炎や肺炎を併発する子もいます。
本来は秋・冬に流行する感染症ですが、近年は夏に流行が見られていました。しかし今年は、まだ流行していないので、11月以降の流行が予測できます。特効薬やワクチンがないので、鼻水、せき、発熱などの症状が見られたら、必ず小児科を受診してください。その際は、あらかじめ電話で症状を連絡してから受診してください。
――日本小児科医会は「2歳未満の子どもにマスクは不要、むしろ危険!」と呼びかけています。一方で、世界保健機関(以下WHO)は8月、5歳以下は原則マスク不要とする新しい指針を発表しました。日本でも、WHOの指針が定着するのでしょうか。
齋藤 日本でも5歳以下は原則マスク不要になる可能性があります。
小児科医からも「小学校低学年までは、正しくマスクを着用するのが難しい」という意見があります。小学校低学年までは、せっかくマスクを着用していてもずれていたり、給食などで一度、はずすとつけ忘れたまま、お友だちに密着したりするなど、正しくマスクを着用するのが難しいようです。
「子どもにマスクをさせないのは不安」というママやパパも多いでしょうが、小児の場合は、万一、新型コロナウイルスに感染してもほとんどが軽症です。
小児科医からは、マスク着用が長期化することによって、コミュニケーションの取りにくさや心理的な負担など、発育・発達に与える影響を心配する声も上がり始めています。
WHOが日本を「クラスターバスター」と評し、3密の英語版「3C」を提唱
世界の新型コロナウイルスの流行状況を見ると、9月は1週間当たりの死者が5万人にも! WHOは「容認できない数字」と言っています。今後、世界はどうのようになっていくのでしょうか。
日本の状況は、諸外国と比べると感染者数、死者数は群を抜いて低い
――先生は、ミャンマーなど海外でも活動されていますが、海外と比較して日本の新型コロナ対策を、どのように評価されていますか。
齋藤 日本の新型コロナウイルス感染は続いていますが、諸外国と比べると感染者数や死亡者数は群を抜いて低いです。
WHOは、日本が封じ込めに成功したとき、日本を「クラスターバスター」と呼んで評価しています。
日本では、3密(密閉、密集、密接)が定着していますが、WHOは2020年6月、3密の英語版にあたる3C(密集した場所=Crowded places、 人と密接する場面=Close-contact settings、密閉された空間=Confined and enclosed spaces)を避けるように、世界に呼びかけています。
――フランスやスペインでは9月に入ってから、1日の新型コロナウイルスの新規感染者数が1万人を超える日があるなど、再び世界で流行が広がっています。
齋藤 新型コロナウイルスの感染拡大は、各国の文化と深い関係があり、個人主義を尊重する国は新型コロナウイルスの封じ込めが難しいです。またマスクを着用しない習慣も、感染拡大を招いています。
インドでも急増し、9月の時点で新型コロナウイルスの感染者数が500万人を超えています。
インドは、人口の多さや貧富の差も大きく影響しています。また流水での手洗いや、手指消毒が徹底できない、人が密集するスラムがあるなど衛生面の問題もあります。こうした背景もあり、世界的に新型コロナウイルスを封じ込めるには、まだ時間がかかりそうです。
お話・監修/齋藤玲子先生 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
感染予防の基本は、2歳以上の子どもと大人は手洗いとマスクです。マスクは、一時の品薄状態を脱し、最近は使い捨てマスクも店頭に並ぶようになりました。齋藤先生によると「布マスクは、使い捨てマスクが手に入らないときの代用と考えてください。予防のためには、不織布で作られた使い捨てマスクがベター」と言います。
齋藤玲子先生(さいとう れいこ)
Profile
新潟大学大学院医歯学総合研究科 国際保健学分野教授。医学博士。新潟大学医学部卒業後、同大学公衆衛生学教室に入局。国際協力機構(JICA)のザンビア国感染症コントロールプロジェクトをはじめ、世界保健機関(WHO)西太平洋事務局の短期専門家としてマニラやハノイなどに派遣される。専門はウイルス学。公衆衛生学。