「育休中だけど、転職したい!」リスクはある?転職活動で注意することは?【専門家】
育児休業とは、産休・育休を取得したあと、元の職場に復帰することを前提とした制度です。しかし、実際に赤ちゃんが生まれて、育児を経験することで「以前の職場の業務内容や業務量で復帰するのは難しいかも…」だったり「育休中に夫が転勤になった」などと、やむなく転職を考えるママもいるかと思います。
育休中に転職をすることで、実質的なリスクって何か発生するの?採用企業側からはどのように見られるの?といった気になるポイントを、女性の転職事情にも詳しい「エン転職」編集長 岡田康豊さんに聞きました。
育休中の転職活動、実質的なリスクがあることも理解しておいて
育児休業とは、産休・育休後の復帰を前提に取得するものです。そもそも、この時期に転職活動をしてもいいのでしょうか。
「結論、事情次第では育休中の転職活動も致し方ないと言ます。たとえば、会社から産休以前とは別の部署での復帰を打診された場合、育児を経験してみてどうしても業務負荷が重すぎる場合など、転職を検討せざるを得ないケースがあるのも事実です。
しかし、主に育休に関連する制度においては、この時期の転職で本人に不利益が発生することもあります。事前にしっかりと理解しておくことが大切です。」(岡田さん)
保育園の入園で不利になることがある
子どもを保育園に入園させたい場合、自治体に申し込むことになります。認可園の申し込みには、勤めている会社の「就労証明書」が必要ですが、育休中に転職活動を行うことで、不利になることもあります。以下、考えられるケースごとに留意点をまとめます。
【ケース1】育休を取得した会社は退職済み/転職先が内定している場合
「すでに転職先が内定している場合、転職先の会社に就労予定証明書を発行してもらい、申し込みを行います。しかし、保育園に申し込む段階で無職だと、転職先が決まっていても、保育園入園の選考基準の点数が減点となり、不利になることがあります」(岡田さん)
【ケース2】育休を取得した会社は退職済み/転職先が決まっていない場合
「求職中でも保育園の申し込みはできますが、保活では会社に在職している人のほうが有利になります。そのため、入園のハードルはぐっと上がるでしょう」(岡田さん)
【ケース3】保育園が内定したあと、転職活動をする場合
「自治体によって対応が異なりますが、申込時の会社と転職先の会社で、勤務条件が大きく変わると(就労日数や時間が短くなるなど)、保育園の内定が取り消されることもあります。また、育休後は元の職場に復帰することを条件に在園を認めている自治体もあるので、注意が必要です」(岡田さん)
育児休業給付金の受け取れる額が変わる
育児休業給付金とは、育休終了後の職場復帰を前提とした給付金です。受給期間は、生後8週間から基本的に1年。育児休業を開始した日から2カ月ごとに支給されます。この時期に転職をすると、受給額にどう影響が出るのでしょうか。
「受給資格確認後に退職をした場合は、退職日を含む支給単位期間の一つ前の支給単位期間までは支給対象となりますが(支給単位期間の末日で退職した場合は当該期間も含む)、その後は給付対象から外れます。
いつ退職するかによって、給付金を受け取れる金額が大きく変わることになるので、慎重に検討したほうがいいでしょう」(岡田さん)
育休中の転職活動、自己アピールのポイントは2つ
ここまで、育休中に転職するリスクについて説明してきました。その上で転職しようと決めた人向けに、とくに採用の合否にかかわる自己アピールの観点で、2つのポイントを教えてもらいました。
【ポイント1】今転職したい理由を分析して伝える
採用企業側として、育休中の応募者に対する第一印象は、やはり少しネガティブにはなるとのこと。
「率直な感想として、なぜ育休中なのに転職?と疑問を抱く人は多いと思います。しかし、理由をきちんと伝えられれば、不安を払拭できる問題。“なぜ今転職活動をしているのか”、しっかり伝えることが大切です。たとえば、以下のような理由であれば納得感が強まります」(岡田さん)
【転職理由例/会社都合ver】
会社から産休前とは異なるポジションでの復帰を打診された、会社の業績悪化により復帰が難しいと言われた、など。
【転職理由例/家族都合ver】
配偶者の転勤により通えなくなった、など。
【転職理由例/業務内容や業務量ver】
育児を経験して、以前の業務内容、業務量だと負荷が大きすぎると判断。会社に調整を相談したが受け入れられなかった、など。
【転職理由例/価値観の変化ver 】
土日勤務のある職場だったが、育児を経験して、家族との時間を作るため土日休みにしたい、など。
会社都合といったやむを得ない理由以外でも、自身の状況や大切にしたいことを明確にして伝えれば、理解されやすいとのことです。一方、理由と同じくらい伝え方も重要なのだとか。
「NGな伝え方としては、自己都合ばかりを主張すること。『育児が大変で、これまでよりも仕事の負荷を軽くしたい』などと応募企業に伝えてしまうと、企業側に『ラクしたいという気持ちで応募しているのか』と悪印象を与えてしまいます。また、以前の会社を必要以上に悪く伝えることも『会社のせいにしている』と感じられるため、避けたほうがいいでしょう」(岡田さん)
【ポイント2】積極的に自己開示する
育休中の人に限定した話ではありませんが、小さいお子さんがいるママの場合、採用側としては「仕事と育児の両立」についてはやはり気になる点だと言います。
「仕事と育児をどう両立していくかについては、面接で自己開示をすることがおすすめです。保育園入園の見通しを伝えるほか、「子どもの体調不良で仕事を早退する場合もあると思いますが、このような手段で連絡がとれるようにしておきます」など、現実的に発生しうるリスクと対策を伝えておくと、採用企業側からの安心も得やすいでしょう。
ほかにも『応募先企業に自分が与えられるバリュー(価値)は何か』も大切なポイント。自身のキャリアや経験を棚卸ししておき、応募先企業にてどのように役に立てるのかアピールすることが大切です」(岡田さん)
「いったん元の職場に復帰する」 を検討してみても
これまで育休中の転職について解説してきましたが、岡田さんとしては「本人のためにも、一度元の職場に復帰する」という選択肢を検討してほしいと言います。
「育休が明けて仕事復帰すると、ただでさえ高い心的ストレスがかかるものです。育休中のブランクを埋めつつ、新たな情報のインプットを行い、さらに転職による環境変化まで加わると、かなりのストレスがかかると予想できます。
加えて、やはり一度元の職場に復帰してすじを通すということも、社会人としては大切。円満退職をしておいたほうが、将来的もいい結果につながることがあります。
ただし、転職の理由が会社都合の場合や、職場の人間関係にある場合などはその限りではありません。ケース・バイ・ケースで判断するようにしましょう。」(岡田さん)
お話・監修/岡田康豊さん、取材・文/ひよこクラブ編集部
やむを得ず育休中に転職活動をする場合は、発生するリスクをしっかり理解した上で、本当に今動いたほうがいいのか考えることが大切なようです。慎重に決断するようにしましょう。
岡田康豊さん(おかだやすひろ)
Profile
「エン転職」編集長。 Web系企業4社にて経験を積み、2012年にエン・ジャパンに中途入社。女性向けから高年収層向けまでさまざまな転職サイトの企画・運用を経験。現在は会員数800万人超、日本最大級の総合転職支援サービス『エン転職』の編集長を務める。自組織にはワーキングマザー含め、女性部下も多く所属。自身も一児の父。