赤ちゃんの生まれつきの病気と、出生前検査について正しく知っていますか?

2022年秋に、NIPTの新しい施設が認証されたことで、今また出生前検査が注目されています。出生前検査認証制度等運営委員会は、生まれつきの病気と出生前検査を正しく理解してもらうために、2023年1月に妊婦さん向けのWEBサイトを立ち上げました。これを取りまとめた、妊娠・出産専門ジャーナリストの河合蘭さんに、サイトがめざしていることなどについて聞きました。
出生前検査の情報は「知らせる必要がない」と言われてきた
――出生前検査の確定的検査の一つ、羊水(ようすい)検査が日本に入ってきて約50年がたちます。
河合さん(以下敬称略) 出生前検査はかなり前からある検査なのに、あまり知らないという方もいらっしゃるようです。それは、医療側があえて知らせないようにしてきたのです。羊水検査が日本に入ってきたとき、「命の選別だ」という激しい反対運動がありました。以来、日本では出生前検査がタブー視されてきました。さらに、1999年に厚生労働省が出した「母体血清マーカー検査に関する見解」には「医師が妊婦に対して、本検査の情報を積極的に知らせる必要はない」と記されていました。
このような背景があることから、妊婦さん・パートナーが出生前検査について知る機会は、とても限られていたという状況があります。
――出生前検査に対する受け止め方は一人一人違うので、いろいろ調べたり、時間をかけて考えたりする必要があると河合さんは思いますか。
河合 はい、そのように思います。ただし、そのためには、妊婦さんによい情報が提供されなければならないと思います。
2021年5月、厚労省は専門委員会を組織し、それまでの情報提供の方針を覆す内容を含んだ報告書を出しました。そこには、こう書かれています。
「妊婦等が、出生前検査がどのようなものであるかについて正しく理解した上で、これを受検するかどうか、受検するとした場合にどの検査を選択するのが適当かについて熟慮の上、判断ができるよう妊娠・出産・育児に関する包括的な支援の一環として、妊婦等に対し、出生前検査に関する情報提供を行うべきである。」
ただしその情報は正確で、かつ誘導的なものではない、中立的なものであることが大切とされました。
出生前検査に関する情報を提供する総合サイトがオープン

――報告書に基づき、国も参画してNIPTの認証制度を担う日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会(以下運営委員会)ができました。この運営委員会は2023年1月12日に、出生前検査を検討する妊婦や家族に向けた情報を発信するWEBサイトをオープンし、河合さんはそのとりまとめを担当しました。
河合 インターネット上には出生前検査に関する情報があふれていて、間違った情報やミスリードにつながる情報も少なくありません。そこで国の専門委員会は、運営委員会の一部門として情報提供にあたるワーキンググループを作り、サイトで広く情報を伝えることを運営委員会の業務のひとつとして提案しました。国は2023年春には国自身が作成したサイトも公開していて、妊婦さんによい情報が提供されるように努力し始めています。
運営委員会のワーキンググループには産婦人科医はもちろんのこと、小児科医、福祉関係者、社会学者、遺伝学の専門家、助産師などいろいろな分野の専門家がいます。だから、お腹の赤ちゃんの検査について考えるときに役立つ情報や、経験者の声を中立的な立場から伝えるとともに、妊婦さんやその家族が相談先を見つけるお手伝いができるような、「出生前検査の総合サイト」を作ることができました。
同委員会の審査を受け、認証された全国のNIPT実施施設のリストも、このサイト内にあります。
また、出生前検査全体や、生まれつきの病気について知りたいときもあるでしよう。地域の福祉サービスについて知りたくなったり、実際に病気がある子どもを育てている方の話を聞きたくなったりすることもあります。対面での相談だけではなく、オンラインで相談できるサービスを受けたいこともあります。このサイトには、そうした相談先が見つかるページもあります。
――サイトの特徴について教えてください。
河合 認証制度はNIPT以外の検査にはないのですが、サイトは日本で受けられる出生前検査をすべて紹介しています。
また病気も、「生まれつきの病気」というと、NIPTが調べるダウン症など染色体異常の病気をイメージするかもしれません。でも、生まれつきの病気は数えきれないほどたくさんの種類があり、たとえば心臓の病気は超音波検査で調べます。
赤ちゃんに病気がある可能性はだれにでもあり、そのほとんどは偶然に起きるものであること、両親の責任ではないことも、ぜひ知ってほしいことです。
――出産したときの年齢ごとに、1歳刻みで21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー、13トリソミーの発生率を表で示しています。
河合 「21トリソミー(ダウン症)、18トリソミー、13トリソミーは出産年齢が上がると発生率が上がる」ということは多くの妊婦さんが知っていると思いますが、具体的な発生率を知る機会は少ないと考え、表にしました。単に表を掲載するだけではなく、発生率の感じ方についても解説しています。
出生前検査の意義と限界を理解したうえで判断することが大切

――NIPTだけでは、お腹の赤ちゃんに病気がないかどうかはわからないことが、わかりやすく書かれています。
河合 NIPTを実施する認証施設が増加したことで、出生前検査が妊婦さんにとって身近な存在になってきています。でもどんな病気でもわかる出生前検査は存在しないし、とくにNIPTのような非確定的検査は、調べられる病気が少ししかありません。NIPTでわかる三つのトリソミーがある赤ちゃんは、生まれつきの病気がある赤ちゃん全体の2割に満たない程度です。
NIPTコンソーシアムというグループが2013年から収集し続けたデータから、NIPTを受けた10万人の妊婦さんのその後を数字で見られるページもあります。
それによると、NIPTで陰性(三つのトリソミーがない)となった約6万件のうち、2370件(4%に相当)に何らかのほかの病気がありました。一般的に、赤ちゃんの3~5%に病気があるといわれていますから、NIPTを受けて安心できても、病気が何かある赤ちゃんが生まれてくる率はそんなに大きく下がるわけではないようです。
実際に出生前検査を受けた妊婦さんが感じたこと、考えたことを知ることができます
出生前検査を受けなかった妊婦さんの声も知ることができます
――出生前検査を受けた人の声、受けなかった人の声も集めています。
河合 ほかの妊婦さんのリアルな意見は、自分の考えをまとめ、判断するときの参考になると考えています。多くの妊婦さんが「ほかの妊婦さんはどうしているのか知りたい」と考えています。出生前検査に悩んだ時、ここに来てもらえたら、悩むのは自分だけではないとわかります。また、出した答えはそれぞれに違っても、みんな一生懸命に考えてその答えにたどり着いたのであり、どの答えが正解かを決める必要もないことが感じられると思います。声は厚労省研究班の調査やネット調査の自由回答から抜粋しました。
生まれつきの病気がある子どもが大人になったときのこともイメージできる

――染色体の病気がある赤ちゃんの生活について、子ども時代の生活や支援だけでなく、大人になってからの雇用についてなども言及しています。
河合 お腹の赤ちゃんに染色体の病気があることがわかった妊婦さんとその家族は、「自分たちがいなくなったあと、この子は1人で生きていけるのだろうか」と心配することが多いようです。それは障害者福祉がよくなってきていることがあまり社会に知られていないためです。今の日本には、一般に思われている以上の支援体制がちゃんと整っていると、福祉の専門家たちはいいます。このページにはその具体的な支援の内容や、自分らしく人生を楽しんでいる方について紹介しています。そうした姿を紹介することで、少しでも妊婦さんと家族の心配を軽くできたら・・・という期待を込めて作られたページです。
――『たまひよ』は2023年に創刊30周年を迎えます。30年前に比べると、出生前検査の種類が増えていると思います。出生前検査はこれからどのようになっていくと、河合さんは考えていますか。
河合 30年前に比べると、検査の種類が増え、検査の精度も格段に上がりました。そして、このように出生前検査やその情報提供について日本でもしっかり話せるようになってきたことは大きな変化です。
出生前検査の未来についてはさまざまな見方があると思いますが、私個人は、本来、検査は病気を見つけたら終わりではないので、もっと治療につなげられるようになることを期待しています。
お話・監修/河合蘭さん 画像提供/出生前検査認証制度等運営委員会 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
出生前検査は、妊婦さんとその家族がすぐに答えを出せないことをいろいろ含んでいます。だからこそ、正しい情報に基づいて検査の意義と限界を理解し、一人一人がよく考えることが大切です。それは、病気がある人もない人も生きやすい世の中を作ることにもつながっていくのではないでしょうか。
河合蘭さん(かわいらん)
PROFILE
妊娠・出産、不妊治療・新生児医療を取材してきた、日本で唯一の出産専門フリージャーナリスト。国立大学法人東京医科歯科大学、聖心女子大学、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。『出生前診断』(朝日新聞出版)など著書多数。
●この記事の中では「おなか」→「お腹」と記しました。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。