日本産科婦人科学会が妊婦へ発信。今わかっていることすべて「妊娠中の皆さまへ」
4月7日に日本国政府が緊急事態宣言を発出した、新型コロナウイルス感染症。この日、日本産婦人科感染症学会と連携して、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会が、全国の妊婦さんに向けて提言を発表しました。
その内容について、神戸大学大学院医学研究科教授で、日本産婦人科感染症学会理事長でもある山田秀人先生に、詳しく聞いてみました。
Q妊婦は新型コロナウイルス感染症にかかりやすいの?
A妊娠中にかかる率は一般の人と同じです。日本より多くの感染者が出ている国々でも、妊婦が特別にこのウイルスにかかりやすいという報告はされていません。
Q妊娠中は免疫力が下がるから、重症化しやすいと聞きましたが?
A妊娠中の重症化率も一般の人と同じと言われています。
Q心配なので、感染者が少ない地方で里帰り出産したいのですが?
A急な帰省分娩はおすすめしません。地方の小規模施設は急に患者が増えても対応できる余裕のないところがほとんどです。急な里帰りで、十分な医療が受けられなくなるとしたら、そのほうがリスクを上げることになってしまいます。また、あなた自身が無自覚のウイルスキャリアだった場合、帰省することで感染を広げてしまう可能性があることも、忘れないでください。
Q新型コロナウイルスのせいで、立ち会い出産を断られましたが…?
A感染予防のために、立ち会い出産や入院中の面会などが制限されることがあります。院内感染予防のために必要なことなので、施設の方針に従ってください。
Q外出するのが怖いから、健診に行かなくてもいい?
A自己判断ではなく医師の指示に従ってください。妊婦健診はママとおなかの赤ちゃんの命と健康を守るのに重要です。感染流行の状況によっては、健診の間隔を延ばしたり、超音波検査の回数を減らすなど、妊婦さん一人一人の状態に合わせて対応します。次の健診までに不安な症状がある場合は、電話などで相談しましょう。
Qちょっとのどが痛い程度なら、妊婦健診に行っていい?
Aまずは電話で相談を。妊娠経過が順調であれば、健診を1-2週後に遅らせることもあります。取りあえず、自宅で安静に過ごして様子を見ましょう。
Q新型コロナウイルスに感染すると、帝王切開になる?
A感染予防のために、分娩方法や授乳方法を変えざるを得ない場合があります。医療資源不足で安全確保が難しい、分娩が長引くことでママの体力が消耗するのを防ぐなどの理由から、感染者や感染が強く疑われる患者の場合は、帝王切開を選択する施設が多くなっています。いずれにせよ、ママと赤ちゃんの命を守るためと理解してください。
Qもしも自分が感染したかもと思ったら?
A自己判断で近くの病院に行くことは控えて。感染を広げないため、自分で帰国者・接触者相談センター(新型コロナ受診相談窓口)へ相談を。感染の疑いがある場合は、必ずマスクを着用してください。発熱している場合は、経口補水液などでの水分補給も心がけて。
Q子宮を温めると免疫力が上がると聞きましたが…?
A科学的根拠がないうわさには注意してください。「これを飲めば免疫力が上がる」などといわれるサプリメントや、民間療法、ホメオパシーやアロマセラピー、ビタミン剤の大量点滴などについて信頼できるエビデンスはなく、確かな効果は期待できません。とくに妊娠中は、腹帯などで冷えを防止するのは構いませんが、過度に子宮を温めることは避けてください。
Q何か特別な予防法はありますか?
A「不要不急の外出の自粛」「小まめな手洗い」が大切。一般にいわれていることと同じです。
ビュッフェにおけるトングの使用、未洗浄の食器の使いまわしも避けて。うがいやマスク着用による予防効果は、しないよりはよいですが、過信しすぎないほうがいいでしょう。
とにかくコレ!
★人込みや閉鎖空間などへの外出を避ける‼
★こんなときは石けんを使って20秒以上の手洗い!
・外出後
・食事の前
・鼻や口に触れる前
・トイレに入ったあと
・ATMやタッチパネルに触ったあと
・電車のつり革、手すりに触ったあと
Q外出先のトイレの使用で、気をつけることは?
Aエアロゾルを発生する洗浄便座や温風手指乾燥機の使用は控えましょう。このウイルスは、糞口感染の可能性も指摘されていますので、トイレから出たら石けんで20秒以上の手洗いやアルコール消毒を心がけてください。
Qいつも飲んでいる薬をもらいに病院へ行くのが心配なのですが…
A自己判断で薬の服用を中断はしないで、まずは電話で相談を。来院しなくて済むように、オンライン診療やFaxによる処方に対応する施設が増えてきています。慢性疾患で薬を飲んでいる人は、勝手に治療を中断するのはよくありません。
Q無症状のウイルスキャリアかもしれないのでPCR検査を受けたいのですが…。
A「念のため」「心配だから」という検査は現時点では認められません。検査は3月6日より保険適用されましたが、医師が診断上必要と判断しない本人希望の検査は全額自費負担となります。現在の検体処理能力は限界に達していますので、たとえ希望しても検査をしてくれる施設はないでしょう。
Q新型コロナウイルスに感染していて出産したら、母乳育児はできないの?
Aママも赤ちゃんもウイルスが陰性となるまでは、抱っこも、母乳育児もできません。ママが感染していても、母乳にウイルスが含まれるという報告はありません。しかし、おっぱいをあげる際の飛沫感染や、搾乳器による接触感染のリスクもゼロではないので、赤ちゃんは当面ミルク授乳となるでしょう。
監修/山田秀人先生 取材・文/たまごクラブ編集部
参考/「妊娠中の皆さまへ」日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版)」日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本産婦人科感染症学会(いずれも令和2年4月7日発表資料)
※掲載の情報は令和2年4月17日現在のものです。
山田秀人先生
※新事実判明により記事を一部改訂しております。2020/07/07