健康保険が併用できる「不妊治療の先進医療」について、専門医に聞いてみた
不妊治療の保険適用について、「まだよくわからない」という人のために、妊活たまごクラブ編集長自らタイプが異なる2つのクリニックを取材しました。
これから不妊治療をスタートする人向けに、クリニックの様子もわかるレポートです。
今回は、保険診療との併用が可能な先進医療について、おち夢クリニック名古屋院長の越知正憲先生にご回答いただきました。
不妊治療クリニックにズバリ聞きました!「健康保険が使える治療、併用できる治療」 #2
※参考:「妊活たまごクラブ 不妊治療クリニック受診ガイド 2022-2023」
教えてドクター! 越知正憲先生
おち夢クリニック名古屋院長。自然周期・低~中刺激周期で体外受精を行っており、土日祝日も診察・緊急採卵に対応。「自分の妻や娘だったら、この治療をするだろうか?」を常に念頭において治療にあたっている。
●おち夢クリニック名古屋 https://www.art-ochi.com
【Q1】先進医療って何?保険がきかない治療でも、保険診療と一緒にできる?
【A1】先進医療として実施される医療技術に限り、保険診療との併用が可能です
■越知正憲先生(以下、越知先生)「そもそも不妊治療には『保険診療(3割自己負担)』と、全額自己負担で保険適用外の治療も選択できる『自由診療』があり、この2つを併用することは『混合診療』として禁止されています。しかし、自由診療のなかで『先進医療』として認められた技術のみ、保険診療と併用することができます。少しわかりにくいので、ここでは先進医療に認定されていて保険診療と併用できる一例を紹介しましょう」
先進医療の一環として実施される医療検査など
ERA(エラ)検査
★良好な受精卵を複数回移植しても妊娠に至らない場合の検査方法
「子宮内膜受容能検査」のことで、子宮内膜組織を採取し、遺伝子レベルで最適な胚移植の時期を調べる。胚移植のタイミングを特定することで、妊娠率の向上が狙える
●検査費用15万円程度
EMMA(エマ)&ALICE(アリス)検査
★子宮内膜の善玉乳酸菌の割合と慢性子宮内膜炎の有無を一緒に調べる
EMMAとはより妊娠しやすい子宮内環境を調べる検査で、主に子宮内膜の細菌叢を解析。またALICE検査とは、病原菌による子宮内膜の炎症「慢性子宮内膜炎」の原因菌を検出
●検査費用セットで6万円程度
TRIO検査
★子宮内膜の状態を調べるERA・EMMA・ALICEのセット検査
最適なタイミングで胚移植を行うためのERA検査、健康な子宮内膜細菌叢になるための情報が提示されるEMMA検査、流産患者の罹患率が多いという慢性子宮内膜炎を調べるALICE検査が一度にできる。
●検査費用20万円程度
子宮内膜胚受容期(ERPeak)検査
★着床に最適なタイミングを遺伝子レベルで調べることができる!
子宮内膜を採取し、凍結融解胚盤胞移植の際、移植する当日の内膜が着床可能な状態かどうかを遺伝子レベルで調べる検査。体外受精で良好な胚を複数回移植しても、着床に至らないかたが対象。
●検査費用11万円程度
【Q2】健康保険が併用できるなら、先進医療は受けたほうがいいの?
【A2】医師と相談しながら状況に応じた必要な検査を受けることをお勧めします
■越知先生「子宮内膜で『受精卵がなかなか着床しない』という問題を繰り返す場合は、検査することをお勧めしますが、あくまで担当医師と相談しながら…というスタンスが基本です。今回紹介したさまざまな検査のなかでも、近年注目されているのが『EMMA&ALICE』検査です。これは腸と同様に、子宮内にも妊娠を助ける善玉乳酸菌が必要だという『子宮内フローラ』を調べるもので、2つの検査で細菌の種類や量を調べることができます。また、不足しているときは、専用の『ラクトフェリン(自費)』で補うことをアドバイスしています」
【Q3】治療成績がアップするという「タイムラプス」も保険併用ができるって本当ですか?
【A3】胚の成長を最新技術で見守るタイムラプスも保険と併用できます
■越知先生「タイムラプス培養は、正常に受精した胚を培養器の中に入れたまま撮影&管理する方法であり、従来のように観察のために胚を出し入れする回数が減り、温度変化などの外的要因からやさしく成長を見守ることができる先進医療の一つです。また、記録した映像を巻き戻して確認することができるため、以前は見逃されていることが多かった異常が見つけやすく、着床率や妊娠率の向上に役立っています。今回の改正で先進医療として保険診療と併用してできるようになりました」
【close-up】体外受精の流れ(おち夢クリニック名古屋の場合)
(1)卵胞期の管理
完全自然周期が基本で、薬が必要な場合、どの排卵誘発法が最適かは検査で判断。一人ひとりに最適な良好卵の育て方を見極めている。
(2)採卵・採精
排卵直前まで大きく成長した卵胞内の卵子を専用の採卵針で採取。クリニック独自の採卵針を使用するため、無麻酔採卵が可能に。
(3)受精・培養
卵子に適切な数の精子を振りかけて受精させる「体外受精」。過去の体外受精で受精障害がある場合は「顕微授精」を行う。また、培養は胚へのストレス軽減、及び正確な観察分析のため「タイムラプス」を導入。
(4)胚移植・凍結保存
体外で培養した受精卵(胚)を子宮に戻す。子宮内膜やホルモン値が移植に適していない場合は、受精卵(胚)を凍結し、子宮内膜の状態を整えてから融解した受精卵(胚)を戻し、着床を期待する。
(5)着床後
受精卵が無事着床後、妊娠8週目まで診察を行い、9週目以降は出産設備のある他院に転院。出産の準備を行う。
●撮影/阿部吉泰(ブロウアップ)
●イラスト/丹下京子
●構成・文/飯田由美(BEAM)
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