オンライン相談だからこそ見えてきた 女性の見えない悩みと不安【産婦人科医】
スマホやインターネットの普及に加え、コロナ禍を境に増えているオンライン相談(遠隔健康医療相談)。産婦人科医の重見大介先生は2018年より産婦人科領域でのオンライン相談サービスの運営・提供に携わっています。その中で、オンライン相談だからこそ見えてきた女性のさまざまな悩みと不安があるといいます。どんなものがあるのか、お話をうかがいました。
病院ではゆっくり聞けない相談や、 顔が見えないからこそできる質問も
重見先生は産婦人科医として、病院の中にいるだけでは手が届かない女性の健康課題を解決するべく、産婦人科オンライン相談の代表を務めています。産婦人科のオンライン相談には、日々、さまざまな相談が寄せられています。
――産婦人科オンラインには、どのような年代の、どんな相談が多いですか。
重見先生(以下敬称略) 10代から50代以降まで、幅広い年代から相談が来ます。たとえば10代からは、避妊の相談や月経不順、不正出血、月経痛などの相談が来ます。ただ、月経がらみの質問でも、その背景に「妊娠したかもしれない」という相談が含まれていることも。実は妊娠検査薬があることや、その使い方を知らない女性も意外と多いのです。若年女性にとって産婦人科の受診はハードルが高く、必要なときに受診してもらえない現実もあります。でもオンライン相談なら、いきなり診察されるのではないかという恐怖や、保護者に知られたくないという不安を抱えずに済むため、安心して相談できる場所になっているようです。
20代になると引き続き月経の悩みのほか、性感染症の相談が増えてきます。いずれにしても、私たちは診療をして薬を処方することはしていないため、適切なセルフケアや婦人科を受診するタイミング、どんなふうに相談したらよいかなど、ていねいにお伝えしています。
30代になると増えてくるのが妊活、不妊関連、そして妊産婦さんからの相談です。40代、50代以降は月経関連や更年期症状、子宮がんや乳がん検診などの相談が増えてきます。
――妊産婦さんからはどんなご相談がありますか?
重見 たとえばつわりがつらい、流産が心配、職場での仕事の調整のしかたなどといったものや、最近注目を集めている無痛分娩についてなど、さまざまなご相談があります。また、産後は子育てや心の悩みについての相談もあります。相談内容によっては、助産師がお答えすることもあります。
妊娠時期別にみると、妊娠初期から中期の妊婦さんからのご相談が多いです。というのも、妊娠初期から中期は妊婦健診の頻度が少なく、妊娠23週までは4週間に1回、24週から35週までは2週間に1回しかありません。健診と健診の間にちょっと心配なことがあったときに相談できることも、この時期のご相談が多い大きな理由の一つでしょう。また、妊婦健診では「先生やスタッフが忙しそうでゆっくり質問ができない」と感じている人も多いです。オンラインでは24時間いつでもメッセージで相談を送ることができ、テキストのみでのやりとりも可能なので、気を使わずに自分の聞きたいことが聞けるのも、メリットだと思います。
信頼できるかかりつけ医を持ちつつ、 オンライン相談もうまく利用してほしい
オンライン相談を始めてから、産婦人科受診で嫌な思いをしている女性が意外と多いことを実感したという重見先生。
――産婦人科受診での嫌な経験やトラウマ(心的外傷)とは、具体的にどのようなものですか。
重見 産婦人科での過去の受診時に、医師やスタッフから心無い言葉を投げかけられたり、診察中に嫌な経験をされたりしたことをオンライン相談で打ち明けてくれる女性がいます。
代表的なものを三つほど挙げてみます。一つは痛みに恐怖がある方で、子宮頸がん検診でそのことを訴えていたのに、まったく痛みに配慮してくれなかったケース。もし、この経験によってその後、検診に行けなくなってしまったら、がんの早期発見につながらなくなってしまいます。
二つめは低用量ピルを処方してもらおうと受診したら「ピルなんて飲むものじゃない」などピルに偏見を持っている医師に意見されるケース。とくに地方では近所にそこしか産婦人科がない、ということも多く、絶望的な気持ちになってしまう方もいます。
三つめは、つわりがつらいので仕事を休みたいと訴えた妊婦さんに説教をするケース。たとえば「みんな我慢しているんだから」「つわり程度で仕事を休んだらこの先、やっていけないよ」などと言われてしまうのです。
問題なのは、こういう女性たちの声があることが、医師やスタッフ本人にはなかなか伝わらないことです。知らなければ改善するチャンスもありません。こうしたトラウマを抱える女性に対して、医師たちとどうやってコミュニケーションをとって信頼関係を築いていくか、必要なアドバイスや情報を提供し、適切な受診につなげていくかが、オンライン相談の大事な役目だと思っています。ある意味、これからはかかりつけ医を複数もつ感覚で、オンライン相談を上手に利用することが当たり前の時代になっていくのかもしれません。
オンライン処方は便利な一方、トラブルにつながることも
近年では、とくに低用量ピルに関してオンライン処方をするサービスが増えています。ただ、それにまつわるトラブルも出てきていると重見先生はいいます。
――低用量ピルのオンライン処方について、どのようなトラブルがあるのでしょうか。
重見 オンライン処方は、診察をした上で薬を処方してもらうのが原則です。多忙で受診ができない、近くにピルを処方してくれる産婦人科がないなどの状況にある女性にとって、心強い味方です。ただ、一部にトラブルがあるのも事実です。
たとえばピルに関していえば、血栓症のリスクが高い人には処方できない場合もあるのですが、オンラインではちゃんとした説明や診察がないままに処方されてしまうことも。そして女性のほうにもピルの知識がなく、しくみがまったくわからないまま飲んでいたり、副作用や血栓症のリスクが上がることを知らないこともあります。
このようなケースではかかりつけ医がいない場合が多く、不正出血や静脈血栓症のサインなどトラブルがあったときに、受診先がないという相談もあります。
また、ピルはオンライン処方では多くが自費診療なのですが、月経痛などの症状があれば保険診療で処方してもらえることを知らず、ずっと自費で購入していたことをあとで知ったというケースも。オンライン処方は、オンライン相談や産婦人科受診と適切に組み合わせて活用することが大切です。
監修/重見大介先生 取材・文/樋口由夏、たまひよONLINE編集部
重見先生がかかわっているオンライン相談などのサービスは自治体や企業に導入され、地域住民や社員が無料で相談可能な形をとっています。オンラインサービスはこれからますます増えていくことが予想されます。「こうした取り組みが全国で広まれば女性も心強いと思います。一方で相談する側も、信頼できるサービスを選ぶ目をもって、適切に利用することが大切です」(重見先生)
●記事の内容は2023年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。
重見大介(しげみだいすけ)先生
PROFILE
産婦人科専門医。公衆衛生学修士、医学博士。株式会社Kids Public産婦人科オンライン代表。大学病院の産婦人科で臨床を経験したのち、「女性の健康×社会課題」へのアプローチを活動の軸として、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できるしくみづくりや啓発活動、臨床研究、性教育などに従事。SNSなどでも医療情報を発信している。
『病院では聞けない最新情報まで全カバー! 妊娠・出産がぜんぶわかる本』
PROFILE
産婦人科専門医。公衆衛生学修士、医学博士。株式会社Kids Public産婦人科オンライン代表。大学病院の産婦人科で臨床を経験したのち、「女性の健康×社会課題」へのアプローチを活動の軸として、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できるしくみづくりや啓発活動、臨床研究、性教育などに従事。SNSなどでも医療情報を発信している。