[妊活] 杉山愛さん インタビュー <後編> つらい妊活にも必ず意味がある
結婚してすぐに妊活をスタートした杉山 愛さん。
タイミング法、人工授精、体外受精と、予想外に長くつらい道のりとなった妊活を振り返り、そのときどきの思いを率直に語っていただきました。
今回は、杉山 愛さんインタビュー<後編>をお届けします。
杉山 愛さん Profile
1975年生まれ。元プロテニスプレイヤー。4歳でラケットを握り、17歳から34歳までプロツアーを転戦。グランドスラムのシングルス連続出場62回は女子歴代1位。2009年に現役を引退し、2011年に結婚。2015年7月、長男を出産。現在は『スッキリ』(日本テレビ)、『情報ライブミヤネ屋』(読売テレビ)でコメンテーターとしても活躍中。
・杉山愛 公式サイト
「夫婦2人の人生でもいい」と互いに確認
心が折れそうになりながらも、あきらめずに歩み続けた長い道のり。杉山さんの妊活を支えたものはなんだったのでしょうか。
いちばんの支えは夫の理解とサポートです
「結婚後すぐに『子どもが欲しい』となったときは、『一緒に病院に行こう』。不妊治療を本格的に始めてからも『全面的に協力するよ』というスタンスでいてくれたのが、本当に大きな支えでした。不妊治療では女性にかかる負担が大きいですよね。検査も多いし、診察台に乗ることさえ苦痛だし、造影剤を入れて卵管の検査をするときは痛みも伴うし。
夫はそういうことも理解していて、プレッシャーになるようなことは何も言わずにいてくれました。そして常に寄り添ってくれた。時間が許す限り病院にも一緒に行ってくれたし。だから私は精神的にラクでいられました」
妊活中もとことん夫婦で話し合い、お互い納得した上で治療を進められた
「『最終的に子どもがいなくてもいい』ということだけは夫婦でしっかり確認しました。どちらかが『本当は欲しいけれど我慢する』というのはよくないと思って。子どもを授かることができればこれ以上ない喜びですが、『できなかったとしても、夫婦2人でも楽しいよね』ということはよく話していました。
子どもがいる・いない、どっちがいいということではなくて、どっちもいい。それを確認した上で妊活を進められたことが、とてもよかったと思います。
また、私の中では40歳までは不妊治療にトライしようと決めていましたが、明確にリミットを決めてしまうと『時間がない』とプレッシャーやストレスになってしまう。だからリミットに関しては夫婦間ではグレーにしていました」
人生でのプライオリティを確認しながらの一歩一歩。夫への不満やイライラはまったくなかった?
「私たちは2人でいろんなことを話し合っていたので、不満はありませんでした。ただ…すべて決めるのは私、というのは嫌だったかな。夫からのプレッシャーがない分、『愛の好きなようにしていいよ』と言われると、『私が全部決めなきゃいけないの?』って。妊活は自分だけの問題じゃないからこそ、『ここまでやろう』『もうここで終わり』と私が決めなければいけないことに苦しさを感じました。
逆に『もう1回やろうよ』『体外受精やってみようよ』と言ってもらえると、意外に『そうだね』という前向きな気持ちになれたりして。夫の言葉を勇気に変えて受け取れることができました。
そういう意味では、夫婦で探り探り前に進んできた感じです。納得のいくカタチというのは夫婦それぞれだと思うので、この先の人生を一緒に考えながら、しっかり話し合うべきだと思います」
杉山さんご夫婦の妊活方針は…
子どもができたとしてもできなかったとしても、後悔のないように。それが杉山さんご夫婦の妊活方針。その先に待っていたのが、待望の妊娠でした。
不安な思いを一つずつクリアして無事出産!
「1回目の体外受精で妊娠がわかったときは、それはそれは喜びました。私は妊娠検査薬で4回も調べたくらい(笑)。でも、流産の経験があるので『あまり喜んじゃいけない』という思いもありました。心拍が確認できるまでは安心できないなと。
心拍が確認できたら、今度は『安定期に入るまでは…』、その後は『生まれるまでは…』。
一つずつクリアしていき、2015年7月、無事に出産することができました」
つらい妊活にも必ず意味がある
現在は3歳の男の子のママとして忙しい毎日を送る杉山さん。今振り返ると、約3年に及んだ妊活期間はどんな時間だったでしょうか。
子どもはベストなタイミングでやって来てくれた
「すごくいい時間でした。それは忙しく仕事をしながらも、うまく予定を立てながら妊活ができたから。妊活中も仕事のキャリアを積み重ねることができたので、出産後も戻れる場所がありました。
そういう意味では、子どもはベストなタイミングでやって来てくれたんだなと。選手時代から『すべての物事には意味がある』と考えてつらい時期も乗り越えてきたので、妊活にも意味があったんだなと思っています。」
自分を大切にする時間も大事です
「今、妊活中の皆さんも、子どものいる生活を思い描くとワクワクするし、それをモチベーションに頑張っていると思いますが、そこに到達するまでに落ち込むこともあるかもしれません。
妊活中の女性にかかる負担は大きく、心も体も疲れます。
想定外のさまざまな変化に動揺することもあるでしょう。でも、そういうときは無理をしすぎないで、自分を大切にする時間をつくってほしいと思います。」
心と体が喜ぶことを生活の中に取り入れて
「悲しいときは泣いていい。時には自分にご褒美をあげたりして、自分自身を喜ばせることを生活の中にどんどん取り入れていってほしいと思います。
それがエネルギーになって、『また頑張ろう』という気持ちになれるはずだから。心や体を大切にすることは妊活中だけでなく、その後の人生でも大事なこと。
妊活をきっかけに自分を大切にしてあげてくださいね」
妊活中の「困った」、こんなとき どうしたらいいですか?
杉山さんの妊活経験をふまえて、教えてもらいました!
Q.本格的に妊活を始めたい。不妊治療クリニックはどうやって選べばいいですか?
まずは通いやすい場所にあること。
いくら評判がいいからといって、家から遠いところに通うのは負担が大きい。長く通うことになる可能性があるし、本格的に治療を始めると夫にも足を運んでもらわなければならなくなるので、家や職場との動線が短いほうがラクだと思います。
あとは医師とのフィーリングも大事。合わないと思ったら我慢せずにクリニックを変えるべき。お金もかかることだからこそ、心と体の負担をどれだけ減らせるかを考えて選ぶのがいいと思います。
Q.夫が妊活に協力的ではありません。どうしたら積極的になってもらえるでしょうか?
「本当に子どもが欲しいのか」を夫婦でしっかり話し合ったほうがいいと思います。夫が協力的でないのは前途多難。妊活だけじゃなく、その後の子育てにもかかわってきますから。
言い出しにくくても、夫婦のこと、自分の人生のこと。遠慮しないで言わないと!
Q.仕事と妊活の両立がつらいです。かといって仕事を辞めるのも…。
今が働き方を見直すいい機会かも。妊活中だけでなく、妊娠して体調を崩すこともあるし、産後に子どもが病気になることもあるので、時間の融通が利く勤務先への転職を視野に入れてもいいかもしれません。
今だけでなく人生全体を見渡して、働き方を考えてみてはどうでしょうか。
Q.周囲からの「赤ちゃんはまだ?」にうんざり。不妊治療中なのに…。
治療中で落ち込んでいるときに言われたら嫌ですよね。そんなとき私は「欲しいんですけどね〜。でも、できなくて…」と正直に話していました。
「欲しい」と言ったら、赤ちゃんがどこかで聞いていて、来てくれるかな〜と思って。そんなふうにカミングアウトできないなら、その場は聞き流して、どこかで上手にストレス発散。ストレスをため込まないことが大事です!
Q.ゴールが見えない妊活に疲れてしまいました。なかなか前向きになれないときはどうしたらいいですか?
どのステップまで治療をするのか、いつまで続けるのか…妊活は心も体も疲れますよね。
疲れたときは無理をしないでお休みしていいんじゃないかな。ストレスを抱えると自律神経が乱れて妊娠から遠ざかってしまうので、思いきって休んだほうが副交感神経が高まると思います。
体に気持ちいいことや心が解き放たれるようなことを日常生活に取り入れていくと、また少しずつエネルギーが蓄えられていくような気がします。
Q.妊活仲間の妊娠を素直にお祝いできません。そんな自分にガッカリしてしまいます。
私も不妊治療中に妊婦さんを見ると、ちょっと目を背けたくなる時期がありました。
「なんで私には赤ちゃんができないんだろう」と苦しくなって。友だちの妊娠報告に「おめでとう」って言うけど、素直に喜べない自分がいました。
でも大丈夫、それは普通の気持ちです。罪悪感を感じる必要はありません。
■撮影/関 信行
■スタイリング/ミズグチクミコ
■ヘア&メイク/榊 美奈子
■取材・文/本木頼子