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【遺伝カウンセラーに聞く】高年出産だと、染色体異常がどのくらい増えるの?

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笠島道子さん。羊水検査の仕事を通じて、妊婦さんのためのカウンセラーを志すようになったという。(撮影/河合 蘭 京野アートクリニック高輪のカウンセリング室で写す)

妊活中の人の中には、「高年出産は染色体異常が多い」と聞いて気になっている人がいるかもしれません。不妊治療クリニックの中には大病院にあるような「遺伝カウンセリング」を受けられるところがあり、染色体異常の心配についてゆっくり話すことができます。京野アートクリニック高輪などで相談に乗る認定遺伝カウンセラー®の笠島道子さんに、出産ジャーナリストの河合 蘭さんが話を聞きました。2回シリーズの1回目です。

遺伝カウンセリングでは染色体の検査について相談できる

――遺伝カウンセリングとは、どんなカウンセリングなのか教えてください。

笠島さん(以下敬称略) 遺伝子や、遺伝子のかたまりである染色体の検査や病気について、心配事を相談できる場です。
「遺伝」という言葉には、親から子どもに能力、病気などさまざまな特徴が伝わるという意味もあります。遺伝子や染色体は、基本的には、親からもらうものです。でも、染色体異常や遺伝子の病気は、必ずしも親から子どもに伝わるものではありません。新しい命ができる過程で偶然に何かが起きて、お父さんにもお母さんにもない病気が子どもに現れるケースもあります。

――高年妊娠で増える染色体異常は、だれにでも、偶然に起きることが多いのですね。

笠島 はい、そのとおりです。一部は親の染色体が関係しますが数は少なく、ほとんどの場合は卵子や精子が発生する過程で起きます。

――染色体異常に予防法はありますか。規則正しい生活や、食生活の乱れ、仕事のストレスなどが気になる人も多いようです。

笠島 予防法はないのです。また、生活習慣なども関係はありません。もし染色体異常が見つかっても、それはだれかが何かをしたからではありません。病気や障害はだれにでも起きることだし、だれのせいでもないのです。

――笠島さんは、なぜ遺伝カウンセラーになったのですか。

笠島 私は、臨床検査技師として、かつて大学病院で検査技師をしていました。とても羊水(ようすい)検査が多い病院だったので、来る日も来る日も、1日中羊水細胞を顕微鏡で見て、染色体の数や形を調べていました。
そんな仕事の中で、医師から、検査を受ける人は実はいろいろなことを考え、悩みながら検査を受けているのだと聞いて、細胞の向こうにいる妊婦さんのことが少しずつ見えてきたのです。そこで、自分はその人たちと話す遺伝カウンセラーになりたいと思うようになりました。
当時の日本では、遺伝カウンセリングは医師が中心で、臨床検査技師は学会から認定をもらうことができませんでした。その後、不妊治療クリニックで働くようになったころ、医師以外の遺伝カウンセラー制度ができ、やっと遺伝カウンセラーになることができました。今では私のような臨床検査技師出身の遺伝カウンセラーはたくさんいます。

――どんな人が笠島さんの遺伝カウンセリングを受けに来るのですか。

笠島 不妊治療専門クリニックでは妊娠しにくかったり、流産をくり返したりする人の中に、染色体の形に変化を持つ人がいますが、そうしたケースの人数は少ないです。相談に来る人のほとんどは、年齢が高くて胚の染色体の検査(着床前検査)を考えている人たちです。その背景には、年齢が高い患者さんが増えているということがあります。染色体異常は加齢によって増えます。

染色体異常が起きるのは、なぜ?

――染色体異常は、いつ、なぜ起きるのでしょう?

笠島 精子と卵子が受精に向けて準備するとき、「減数分裂」という重要な過程があります。 ヒトの細胞の核にある染色体は1番から22番までの常染色体と一対の性染色体があって、それぞれ母親からもらったもの1本・父親からもらったもの1本の計2本がペアをなしているので通常46本です。
それが、全部子どもに行ってしまうと子どもは合計92本の染色体を持つことになってしまうので、精子や卵子の染色体は半分の23本になってから受精します。これが減数分裂です。

その途中では、染色体を複製したり、遺伝情報を組み換えたりする複雑な作業がいろいろあります。この減数分裂がうまくいかず、染色体が1本もしくは何本かたりない、もしくは多すぎる卵子・精子ができてしまうのが、染色体の数の異常です。
卵子と精子が出会っても妊娠しなかったり、流産したりしてしまう理由の多くは、染色体異常だと考えられています。その割合は女性の年齢によって変わり、年齢が高くなるにつれて異常の割合も大きくなります。

――精子にも卵子にも、染色体の数の違うものはできますか。

笠島 染色体の異常には、染色体が1本、もしくは何本か多すぎたり少なすぎたりする数の異常と、染色体の数は正しいけれど形が違う異常があります。精子は男性の年齢に関係なく、約3カ月ごとに新しい精子が造られるため、数の違いより染色体の形に変化が起こることのほうが多いと言われています。ところが卵子は、その女性が胎児のときに一生分の卵子が作られ、そのあとは数も減りながら排卵されるときを待ちます。そのため、卵子も女性の年齢だけ年をとることになり、数の違いが起こりやすくなると言われています。

――何番の染色体でも、数が多かったり少なかったりするのでしょうか。

笠島 そうです。でも大きな染色体は、遺伝子の数も多いので、大きな染色体の数が違うと生まれてくることができません。着床しなかったり、流産したりするからです。生まれてくる確率は高くないけれど、それでもその可能性があるのは、働きのある遺伝子が量も少ない21番、18番、13番の染色体だけです。21番染色体が3本ある21トリソミー(ダウン症候群)の子は、生まれたあとの寿命も延びています。

――高年齢出産の人の子どもに21トリソミーの起きる確率はどれくらいありますか。

笠島 妊娠16週の時点で見ると、35歳で245分の1、37歳で150分の1、40歳で70分の1ですが、出産時の確率は35歳で0.3%、37歳で0.5%、40歳で1.2%と報告されています。一般的にイメージされているほど高い確率ではありません。

出生前検査にはいろいろな種類があって、受ける時期も違う

出生前検査は種類が多く、受けられる時期もそれぞれに違います。(作成/笠島道子さん)

――妊娠中に受ける染色体の検査について教えてください。

笠島 妊娠したあとに受ける検査は「出生前検査」と総称されています。受けなくてはいけない検査ではないのですが、受けるとなったら、たくさんの種類から選ぶことになります。そして、受けられる時期が決まっていますので注意が必要です。
血液検査で21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーについて調べるNIPTが知られていますが、これは妊娠10週以降に受けられます。妊娠11週から13週の間は、専門的な超音波検査の資格を持つ医師が「NT」と呼ばれる首の後ろのむくみなどいくつかのサインを調べる時期です。NIPTのような精度の高い検査ではありませんが、母体血清マーカー検査(クアトロテスト™)という血液検査もあります。
以上は、いずれも疾患がある可能性だけを調べる検査で、確かに答えが得られるわけではありません。確定診断になる羊水検査は、妊娠15週以降になります。

NIPTを実施する施設については、日本医学会の認証制度が、遺伝カウンセリングや検査前後のサポート体制などを審査して認証をおこなっています。『一緒に考えよう、おなかの赤ちゃんの検査』というウェブサイトには、その認証を受けた施設の全国リストが載っていますし、出生前検査についてひととおりのことがわかります。
 
――笠島さんから見た、出生前検査を受けることのメリットとリスクを教えてください。

笠島 羊水検査や絨毛(じゅうもう)検査は、0.3%ほどですが流産のリスクがあります。でも、こうしたリスクはあっても、事前に病気がわかって、その病気に対応してくれる病院へ転院したり、治療の計画を立てたりできるのは明らかなメリットです。
とはいえ、思わぬ結果を受け取ったときの精神的な衝撃は大きいものです。検査を受けるときはほとんどの人が「この検査を受ければ安心できる」と思って受けるのですが、みんながそうなるわけではありません。

検査を受けたほうがいいいのか、受けないほうがいいのか、そこに正解はなくて、それは、そのときになってみないとわからないところがあります。妊婦さん本人も自分で「こんな気持ちになるなんて」と意外に感じたりします。大事なことは、悩んだときに相談できる専門家がいる医療施設で検査を受けることです。

お話/笠島道子さん 取材・文/河合 蘭 構成/たまひよONLINE編集部

耳慣れない言葉があったかもしれませんが、「命の設計図」についての大切なお話でした。2回目は、受精卵の染色体異常を調べる検査「着床前検査」について聞きます。

『一緒に考えよう、おなかの赤ちゃんの検査』

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