【不妊治療】男性不妊の原因8割を占める「造精機能障害」は自覚症状なし!治療法は?専門医に聞く
妊活を始めたけれど、なかなか授からない!? 不妊治療を考え始めた男性に贈る「男性不妊」をよく知るための特集です。
不妊治療をパートナーだけに頑張らせないために、自分で予習してからクリニックへ!
今回は「不妊の原因になる男性の疾患・症状」と「不妊治療のステップ」について、辻村晃先生にお聞きしました。
“男性不妊”を考えよう #3
※参考:「妊活たまごクラブ 初めての不妊治療クリニックガイド 2024-2025」
不妊の原因になる男性の疾患・症状を知ろう
泌尿器科での検査で異常が見られた場合、治療に進みます。
ここでは、男性不妊の原因になることが多い疾患について解説します。
造精機能障害って?
★男性不妊の原因の8割を占める
「造精機能障害」とは、精子をつくる機能に障害があり、精液の濃度や精子の運動率が低いため、自然妊娠が難しい状態のこと。自覚症状がなく、検査をして初めてわかるというケースがほとんど。
造精機能障害の約3割を占めるのが「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」
精子の通り道である精管や血管などが束になっている精索。ここの血流が悪化して精巣の温度が上がり、熱に弱い精子が順調に発育できず、健康な精子がつくられにくくなる症状のこと。造精機能障害の約3割を占めます。
精索静脈瘤セルフチェック
★1つでも当てはまるなら可能性あり
□ 右より左の陰嚢(いんのう)が小さい
□ 陰嚢の表面にしわが寄り、でこぼこしている気がする
□ 立ち上がった際、たまに痛みを感じる
□ 陰嚢表面を触ると、ぶよぶよとしたこぶのようなものを感じる
★治療法
軽度であればサプリメントの服用、重度なら外科手術を行います。手術方法は複数あり、リンパ管や神経などをまとめて結ぶ手術が一般的。手術の場合、施設によって異なりますが、日帰りか1泊2日程度の入院ですみます。
精子に問題がある場合に多いパターン
「造精機能障害」のうち、精子に問題がある場合の多くはこの3パターンです。
①精子無力症
◯症状
精子の数は正常だが、精子の運動率が悪い。
◯治療法&不妊治療
漢方薬やサプリメントの服用。不妊治療は人工授精からスタート。妊娠できない場合はステップアップも。
②乏精子症
◯症状
精子の数が少ない。
◯治療法&不妊治療
軽度なら漢方薬やサプリメントの服用。不妊治療は症状に合わせ、タイミング法から始めることが多い。
③無精子症
◯症状
精液中に精子が1個もいない。
◯治療法&不妊治療
精管がふさがっている場合は精路をつなぐ手術を行う。精子を作る能力が低下している非閉塞性(ひへいそくせい)無精子症の男性が不妊治療する場合、陰嚢を切開して精子を探し出す精巣内精子採取術(micro TESE)の手術を経て、顕微授精になる。
★「造精機能障害」の半数は原因不明
さまざまな検査をしても問題はないのに、性機能が低下し、精液の状態が悪い男性が増えています。若年層の勃起力が衰えていることが原因と推測されていますが、はっきりとした理由はわかっていません。
この場合、確立された治療法はなく、サプリメントの処方などが行われますが、原因がわからないため、どの成分が有効かもわかりづらいでしょう。早く子どもを望むなら、人工授精や体外受精に進む方法も。
不妊治療のステップを知っておこう
★その時、男性は何ができる?
人工授精と体外受精の違いって?
当事者にならないとよくわからない不妊治療のステップ。
何から始めるのか、各ステップで男性は何をするのか、お教えします。
【ステップ①】タイミング法(禁欲期間は医師と相談を)
妊娠しやすい排卵日前後の3〜5日間に性交渉を持つこと。成功率を高めるため、女性のホルモン値や卵胞サイズの計測などから、排卵日を医師に指導してもらいます。
★男性に向けて辻村先生からのアドバイス
1週間を上限に禁欲期間が長いほど精子は濃縮されます。ただし精子の質は、前回の射精からの間隔が短いほうが高い傾向に。精子濃度が薄い人は、禁欲期間を長くしても。
●タイミング法お役立ちグッズ
◯精液の流出をガード
性交後に腟内に挿入し、精液の流出を低減させる医療機器。柔らかく、曲げやすい医療用シリコーン製で半年間再利用が可能。
【ステップ②】人工授精(採取した精液を子宮に注入)
タイミング法の次のステップで行う治療法。排卵の時期に合わせ、採取した精液を洗浄・濃縮して、女性の子宮の奥に直接注入します。副作用はほとんどありません。
★男性に向けて辻村先生からのアドバイス
しっかり睡眠をとり、ストレスをためずに万全の体調で採精を。亜鉛やL-カルニチン、コエンザイムQ10などの男性機能を高めるサプリを摂取しておくのもいいでしょう。
●人工授精お役立ちグッズ
◯人肌の温度で精子を運搬
暑さと寒さに弱い精子。適切な温度を保ちながら、採取した精子をクリニックまで運ぶ専用ポッド。シンプルなデザインも◎。
【ステップ③】体外受精・顕微授精(体外で受精させて子宮に戻す)
体外受精は体内から取り出した卵子を体外で受精させ、正常に発育した胚を子宮内に移植する方法。顕微鏡を用いて授精を行う顕微授精のほうが体外受精より精度は高くなります。
★男性に向けて辻村先生からのアドバイス
万全の体調管理、男性機能を高めるサプリの摂取に加え、パートナーの負担も考えましょう。体外受精・顕微授精は心身ともに女性の負担が大きいです。一緒に治療する気持ちを。
男性不妊の治療にも保険が適用されています
女性の年齢や回数に制限はありますが、2022年4月から人工授精、体外受精・顕微授精などの不妊治療が保険適用に。男性の不妊治療は、造精機能障害や先天性の形態異常などが対象で、手術療法や薬物療法が行われます。さらに勃起不全の男性に処方するバイアグラとシアリス、造精機能改善を目的にしたクロミッドと、主にタイミング法を試みている男性に向けた医薬品も一部保険適用に。不妊治療で保険適用を受けるには、パートナーと一緒に初診を受ける必要があります。
辻村先生からあなたとパートナーへメッセージ
不妊治療を始めるのはハードルが高いと感じる男性もいらっしゃるかもしれません。でも、妊娠が期待できる期間は限られています。子どもを望むなら、ご夫婦で協力することが大切。また、女性にとって不妊治療はとても体に負担がかかるということも、理解する必要があります。
妊活中のパートナーの方にもお願いがあります。個人差はありますが、排卵日にプレッシャーを感じる男性は多いです。排卵日をどのように共有するか、話し合って妊活を進めてください。
■監修
『名医が教える男性妊活の最強事典』(扶桑社)
男性不妊と深い関わりがある三大男性機能や、男性不妊の予防や治療を解説。男性不妊検査体験者や妊活に悩んだ夫婦の声も収録。
●撮影/合田和弘
●イラスト/水谷慶大
●構成・文/津島千佳
※本誌掲載の内容は2024年8月19日現在のものです。以降変更されることもありますので、ご了承ください。