[妊活] これから不妊治療を考えているあなたへ 素朴なQ&A
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「不妊治療」といっても、その治療方法は、原因に合わせてさまざまなレベルのものがあります。妊活を考え始めたばかりの人にとっては未知の世界の不妊治療。
ここでは不妊治療にまつわる素朴な疑問に浅田先生が答えます。
■浅田義正 先生
浅田レディース名古屋駅前クリニック院長
浅田レディース勝川クリニック院長
医学博士、医療法人浅田レディースクリニック理事長。米国で顕微授精の研究に携わり、1995年、名古屋大学医学部付属病院分院にて、精巣精子を用いたICSI(卵細胞質内精子注入法)による日本初の妊娠例を報告。日本生殖医学会認定生殖医療専門医。
詳しくは、こちらから。
【Q1】いつから不妊治療を考え始めたらいいですか?
【A】半年程度を目安に。
避妊をせずに定期的にセックスをしていて、女性が35才未満だと半年、35才以上で3カ月たって妊娠しなければ、受診を考えたほうがいいでしょう。1年たっても妊娠しない場合は、不妊症と定義されます。
【Q2】まずはどんな治療からスタートしますか?
【A】タイミング法から始めます。
基本的な検査で異常がなければ、自然妊娠の可能性がありますから、まずは排卵日を予測して、それに合わせてセックスをするという「タイミング法」という治療法から始めていきます。同時に排卵を促す排卵誘発剤を使うことも。
【Q3】すぐに妊娠できますか?
【A】それはだれにもわかりません。
カップルの年齢や、卵子や精子の状態にもよりますし、どんな治療を選択するかにもよるので、それはだれにもわかりません。まずは担当の医師とよく相談を。究極的にはカップルの遺伝子の組み合わせ、バランスの問題になります。
【Q4】治療は痛いですか?
【A】痛みの感覚には個人差が。
「痛い」と感じるかどうかは人によって異なります。クリニックとしては、できるだけ痛みを伴わないように、麻酔を使うなどの配慮をして治療を行っています。心配な場合は、検査や手術の前に医師に相談するといいでしょう。
【Q5】独身でも卵子の冷凍保存はできますか?
【A】独身でも可能な場合も。
卵子の凍結に関しては、考え方が分かれるところでもあり、当クリニックでは独身の方はがん患者に対して医学的適用のみ行 っています。受精卵や精子の凍結に関しては、胚培養士が空調が管理されセキュリティの整った培養室内で行われています。
【Q6】精子はクリニックで採取するのですか?
【A】持参してもOK。
ひと昔前は、温めながら持っていったほうがいいといわれていたことも。現在はクリニックで採精するところが多いようです。当クリニックにも専用室はありますが、時間はさほど気にせず数時間以内に持参してもらうことを原則としています。
【Q7】2人目不妊ってなんですか?
【A】2人目が妊娠しにくいことです。
1人目のときは自然に妊娠したのに、2人目のときは妊娠しにくいことを「2人目不妊」といったりします。原因は加齢などさまざまですが、1人目が帝王切開だったことなどが関係することも。心配なら受診をおすすめします。
【Q8】治療は夫婦で行かなければならない?
【A】妊娠はカップル2人のもの
「不妊症かも?」と受診をするときはカップルで、が望ましいでしょう。原因はどちらにあるかわかりませんし、妊娠はどちらかだけのものではありません。妊娠・出産、そしてその後の子育ても2人で行っていくものです。必ずしも妊娠がゴールではありません。
メッセージコラム「不妊治療、する?しない?」
『不妊治療を考えたら読む本』で浅田先生と共著者でもある、出産ジャーナリストの河合蘭さんからもしかしたらこの先不妊治療を受けるかもしれない皆さんへのメッセージ!
■出産ジャーナリスト 河合蘭さん
1986年より出産に関する執筆活動を開始。東京医科歯科大学、聖路加国際大学大学院等の非常勤講師も務める。著書『未妊―「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など多数。2016年『出生前診断―出産ジ ャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞2016を受賞する。
■浅田先生との共著、『不妊治療を考えたら読む本』(講談社)
これから不妊治療を考えているあなたへ
今、不妊症に悩む人はとても多くて、検査のみのケースも入れると、全国で約6組に1組の夫婦が不妊治療を受けているといわれます。不妊治療は、決して特別な人だけが受けるものではなく、意外と身近なことなのです。
不妊治療は特別なことではない
「つらい」「痛い」「お金がかかる」という情報ばかりに目が行きがちな不妊治療ですが、自分が信頼できる医師にかかり、比較的短期間で妊娠できた人は「あの時に不妊治療をして本当によかった」と喜んでいます。
「不妊治療とはこういうものだ」という決まった形はないといえるでしょう。それは、施設によってずいぶんやり方が異なりますし、夫婦2人の持っている条件もばらばらだからです。
不安なら「何が不安なのか」をはっきりさせて
ただ、これから治療を始める人に「よくありがちな後悔」はしてほしくありません。不妊治療は、まず、早いスタートが大事。妊娠のしやすさは年齢がいちばん大きく影響し、高齢になってしまうと、まったく健康でなんの問題もない2人が名医にかかったとしても、結果は得られにくくなってしまうからです。
そのためにも、最新の正しい知識を持ち、治療に対して前向きな気持ちになることが大事になってきます。
たとえば不妊治療で薬を使うことが怖いと思うなら、今、不妊治療に使われている薬にはどんなものがあるかを知り、薬の特徴や使う意味をきちんと理解すれば、不安は消えます。薬は、強い薬、弱い薬といろいろあり適したものが選ばれます。体外受精で薬を使うのは、採卵できた卵子の数が多いと出産できる率も上がるので、複数の卵を育てるためです。排卵誘発剤は昔のような重い副作用はまれになりました。
最新の不妊治療がめざしているのは「安全」と「心のケア」
★不妊治療のクリニックには医師のほかに、看護師さんやコーディネーターなど、不妊治療の専門家が、患者さんの悩みを解決すべくサポートしてくれます。
数十年前の体外受精は、赤ちゃんが双子になる例がとても多く、早産にもつながっていました。かつては「妊娠率さえ上がればいい」という行きすぎた面があったのです。でも今は「体外受精は、妊娠率が上がるだけではなく、安全性も高めるべきだ」という考え方が世界的な流れとなっています。
こうした安全性の向上は、すべて技術の進歩に支えられています。
その一例が凍結技術の進歩です。「受精卵(胚)」はいったん凍結保存しておき、翌月以降に、子宮内膜を理想的な状態に整えてから受精卵を子宮に戻すようにすると妊娠率が上がりました。
技術的なことばかりではなく、カウンセラーさんに治療中の精神的な悩みを聞いてもらえる施設が増えたことも不妊治療の進歩といえます。個室で自分の気持ちを話してみると、気持ちの整理に役立ちます。
妊娠したいのに妊娠しにくいのなら、早めに、きちんと説明してくれる信頼できるところを探して、医師やコーディネーターさんに相談してみましょう。個室で自分の気持ちを話してみると、気持ちの整理に役立ちます。だれが書いているのかわからないネットの情報を、1人で眺めているだけでは不安が増すばかりです。不妊治療がどんな体験になるのか。それは、あなたの行動しだいなのです。
■撮影(一部を除く)/河合蘭
■取材・文/長谷川華