不妊治療の「検査&タイミング法」って?専門医が解説
不妊治療をスタートさせてみよう!と決断したカップルに、まずは基礎的な不妊治療の説明をします。
ここで紹介する内容は、カップルそれぞれによって治療方法も変わってくることもありますし進め方や方針も医療機関によって異なります。
でも、まずはベーシックな内容を知ることから始めてみませんか?
「2人の初めての不妊治療 受診スタートガイド」 #2
※参考:「妊活たまごクラブ 不妊治療クリニック受診ガイド 2020-2021年版」
不妊治療【Step 1】検査&タイミング法
不妊かも?と思ったら、男女ともに最初に行うのが各種の検査です。
問診や基本的な検査を受け、不妊の原因を探ります。女性だけでなく、男性も同時に検査をするのが理想です。
検査の結果にもよりますが、検査と並行しながら、タイミング法で自然妊娠を試すことも。
不妊の原因を検査で調べながら、次のステップへ
女性は生理周期の時期によって適した検査があるので、検査を何回かに分けて行います。また医師によっては、検査と並行しながらタイミング法を2~3回行う場合も。
検査の過程で不妊原因がわかれば治療をします。不妊原因がわからないという場合も、タイミング法に長く時間をかけるのではなく、次の治療へと切り替えるのが一般的。
タイミング法とは、排卵のタイミングにセックスを行うことですが、男性に心理的負担がかかることも。自分たちで試しても妊娠しないために医師を訪れるカップルも多いので、受診後、さらにタイミング法だけを行うのはすすめられません。
セックスの頻度が多くても妊娠しない場合、ほかに不妊の原因を抱えている可能性が高いといえます。
【Q&A】タイミング法って?
自然妊娠の確率を上げるもの。超音波検査で卵胞の大きさを見て排卵日を予測。医師が指定したタイミングでセックスを。
その後、排卵の有無をチェック。排卵誘発剤を使ったり、子宮の状態により、着床しやすいよう黄体ホルモンの補充をすることも。平均治療期間は3~6ヶ月。
女性が受ける【基本の検査】
●AMH検査
卵巣年齢検査とも。採血をして、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の状態を調べます。卵巣内にどれだけの卵子が残っているかがわかりますが、卵子の数と卵子の質は関連性がありません。AMH値が非常に低くても妊娠する場合も。
●超音波検査
卵胞期・排卵期・黄体期に実施。プローブという超音波を発する器具を腹部や腟内にあて、子宮筋腫、卵巣腫瘍、卵胞の発育、排卵の有無、子宮内膜の厚さなどを調べます。排卵時期を予測したり、着床障害の原因もわかります。
●血液・ホルモン検査
血液を採取し、血液中のホルモンが正常に分泌されているかチェックをします。尿検査で調べることも。通常は月経期と黄体期に1回ずつ行います。ホルモンの分泌状態から、卵巣の問題や排卵障害の原因を探ったりします。
●フーナーテスト
排卵期に医師の指示によるタイミングで性交をし、24時間以内に病院で腟内粘液と頸管粘液を採取し、精子の数や運動状態を調べます。時間を逆算した性交にとくに男性側の精神的ストレスもかかるので、検査を行わない医師も。
●子宮卵管造影検査
卵子や精子の通り道である卵管が詰まっていないか、原則低温期に調べます。腟内から細い管で造影剤(ヨード)を入れ、レントゲンで子宮の形や卵管閉鎖などを調べます。この検査で卵管の通りがよくなり、妊娠しやすくなることも。
●クラミジア検査
クラミジア感染症は、子宮内膜や卵管に炎症や癒着などを引き起こします。自覚症状がなく、不妊の原因になる場合も。検査はどのタイミングでも。感染症のためパートナーと一緒に受診を。抗生物質を服用すれば治癒します。
女性が受ける【精密検査】
●子宮鏡検査
子宮に内視鏡を入れ、子宮や卵管の入り口にトラブルがないかを調べます。卵胞期に検査をし、ポリープ、子宮筋腫、子宮の奇形などを調べます。ポリープや筋腫が見つかった場合は、小さければその場で、後日切除することもできます。
●腹腔鏡検査
子宮内膜症、卵管や卵巣の癒着、機能性不妊などと診断された場合に行います。腹部に小さな穴を何カ所か開け、腹腔鏡と呼ばれる内視鏡を入れ、卵管・卵巣・子宮の状態を調べます。異常があれば、その場で患部の治療をすることも。
●MRI検査
磁気を利用して、体全体を詳しく検査します。不妊治療では、主に子宮筋腫の位置や大きさを調べます。ほかには子宮内膜症の状態、卵管閉塞や卵管狭窄の癒着などがないか、卵巣チョコレート嚢胞の有無の特定をするためにも行います。
●染色体検査
採血をして、染色体の状態を調べます。染色体に異常があると、排卵が正常に起きなかったり、流産を繰り返したり、染色体異常が赤ちゃんに引き継がれることも。年齢によっても染色体異常の割合は増加します。検査はいつでも可能。
男性が受ける【基本の検査】
●問診・触診・精液検査
初診は婦人科、問題があれば泌尿科で検査を。睾丸の発育状況、性器の奇形などを視診し、精液検査を行います。3~5日間禁欲後、自宅か病院でマスターベーションをして、採取した精液を2時間以内に病院に提出します。
<精子の動きを検査します>
精液検査では精液の量や精子の数、運動率、奇形率などを調べます。また酸性度が高いと感染症の疑いが。白血球や赤血球が多いと、慢性病の可能性も。運動量は一度の検査で判断できず、複数回行うこともあります。
男性が受ける【精密検査】
●血液・ホルモン検査
採血をし、血液からホルモンの分泌状態を調べます。精巣の異常・精策静脈瘤・陰嚢水腫など、精子をつくる能力があるかどうかがわかります。また糖尿病や肝臓病など、不妊に影響を与える内科的疾患の有無も確認します。
●超音波検査
超音波で精巣を調べ、精子をつくる能力や病気の有無をチェックします。ほかにも精液の通り道が詰まっていないかも調べます。検査はプローブと呼ばれる超音波を発する器具にゼリーをつけ、陰嚢にあてて行います。
ホルモン検査の種類
●卵胞刺激ホルモン検査
卵巣を刺激してエストロゲンの分泌を促します。卵胞の成長や卵巣のはたらきにかかわります。低温期に検査。
●黄体化ホルモン検査
卵胞刺激ホルモンを助け、卵胞の成長、排卵などにかかわります。排卵障害や多嚢胞性卵巣症候群かがわかります。
●プロラクチン検査
乳腺刺激ホルモン。妊娠・出産時に高くなるホルモン。この値が高いと、生理不順や無月経など不妊の原因に。
●テストステロン検査
男性ホルモンの一つ。女性にもあり、この値が高いと卵巣腫瘍や排卵障害の疑いも。高温期に調べます。
●プロゲステロン
高温期に着床を助けるホルモン。排卵の確認に使われることもあります。
●エストラジオ―ル
卵胞ホルモン。エストロゲンの一種。子宮内膜を厚くさせたり、頸管粘液を増やすはたらきがあります。
女性因子の【不妊の原因】
一番多いのは、卵管に癒着や閉鎖がある卵管障害です。二番目は精子をキャッチする部分に問題がある取り込み(ピックアップ)障害。三番目は多嚢胞性卵巣症候群と高プロラクチン血症などのホルモン障害です。加齢による着床率低下も。
【原因・1】体内での受精障害
・具体的な疾患: 卵管や卵巣、頸管のトラブル男性不妊など
・予後: 体外受精で妊娠可能
【原因・2】受精卵に問題あり
・具体的な疾患: 卵巣不全、無精子症、加齢など
・予後: 妊娠は不可能
【原因・3】女性側の因子による着床障害
・具体的な疾患: 子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖不全
・予後: 妊娠可能な場合とそうではない場合があり
男性因子の【不妊の原因】
男性不妊の原因のほとんどは精子形成障害です。
精子がまったくない無精子症、精子の少ない精子減少症があります。精巣近くの血管が太くなる精索静脈瘤、染色体異常や精子通路障害も。
手術で治せるものもあります。
■監修:東京医科大学 教授 久慈直昭先生
■東京医科大学 教授 久慈直昭先生
慶應義塾大学医学部卒。現在、東京医科大学にて、生殖医学、不妊症を専門とする。日本産科婦人科学会専門医、生殖医療専門医、臨床遺伝専門医。共著に『今すぐ知りたい!不妊治療Q&A』(医学書院)。
■イラスト/多田玲子
■取材・文/長谷川華