妊婦さんは歯から カルシウムが抜けるってホント? 妊婦と赤ちゃん むし歯予防のウソvsホント
「子どもが1人生まれたら1本歯を失う」「お母さんの歯のカルシウムが子どもに取られる」という話を聞いたことはありますか? よく言われることですが、本当でしょうか。むし歯菌は母から子へ伝播(感染)すると言われます。実はとっても大切な妊娠中のお口ケアと赤ちゃんのむし歯予防について、"うわさ"の本当のところを専門家に聞きます。
「おなかの赤ちゃんが妊婦さんの歯からカルシウムを取る」←ウソ!
お話を伺ったのは
静岡県立大学短期大学部 教授
仲井雪絵先生
昔から、「子どもが1人生まれたら1本歯を失う」とか、「お母さんの歯のカルシウムが子どもに取られる」とか言われることがあります。でも実際のところは、おなかの赤ちゃんの成長のためにお母さんの歯のカルシウムが使われることはありません。ただ、妊娠することによって、むし歯や歯周病になるリスクが高まるのは本当です。
その理由としては、以下の3つがあげられます。
1.妊娠による女性ホルモンの増加で、歯ぐきの炎症が起こりやすく、歯周病菌が増殖しやすくなる。
2.つわりの影響で、歯ブラシを口に入れられず、歯磨きが難しくなることがある。
3.食の好み、食習慣が変わり、むし歯の原因となるミュータンス菌や歯周病菌が増加しやすくなることがある。
むし歯や歯周病は基本的に、口の中の細菌によって生じる病気です。妊娠中にむし歯や歯周病になりやすくなるのも、妊娠による口内の環境変化によって細菌が繁殖しやすくなることが原因なのです。
「生まれたばかりの赤ちゃんの口の中にむし歯菌はいない」←ホント!
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、ミュータンス菌はまったく存在しません。つまり、子どものむし歯はミュータンス菌の感染から始まります。ご家族のだれもが感染源になりうるのですが、赤ちゃんと接する機会が最も多いママから感染する確率が高いのです。
ミュータンス菌を赤ちゃんにうつさないためには、
1.おはしやスプーンを赤ちゃんと共有しない
2.ミュータンス菌の定着を促進する作用のある砂糖(ショ糖)を赤ちゃんに与えるのを控える
ことが大切ですが、さらに重要なのは、まずは赤ちゃんの世話をする人の口の中をきれいにしてミュータンス菌の量を減らすこと。赤ちゃんと接触する機会が多いママにとっては、これがとくに重要で、妊娠中から口腔ケアを実施することが、子どものむし歯予防の最先端ストラテジーと考えられています。
「赤ちゃんのむし歯予防は赤ちゃんの歯が生えてから」←間違い!
ちなみに、赤ちゃんは歯が生えていないからむし歯予防は必要ない、というのは間違いです。歯がなくてもミュータンス菌は口の中に定着するし、2才以前にミュータンス菌に感染すると、その後のむし歯が重症化しやすいとも言われています。歯が生える前から感染症対策に取り組み、「2才まではミュータンス菌に感染させない」ことが大切。そのためにも重要なのが、やはりママが妊娠中から口腔ケアを始めることです。
そのとき、おすすめなのが「キシリトール」。キシリトールを摂取することで、口内のミュータンス菌が減少し、歯垢のもととなるネバネバを産生できなくなります。そのため、赤ちゃんの歯の表面にミュータンス菌が定着するのを防ぐことにつながります。
●赤ちゃんへのミュータンス菌伝播も予防!
実際に、妊婦さん107名をキシリトールをとった群と、キシリトールをとらなかった群にわけ比較対照研究を行いました。どちらの群も歯磨き・食事指導を受け、キシリトールをとった群はさらにキシリトール入りガムを妊娠6カ月から13カ月間、1日平均3回摂取。結果、キシリトールを妊娠中からとっていたほうが、ママ自身のミュータンス菌が減少するのはもちろん、赤ちゃんへのミュータンス菌伝播も予防できることがわかりました。産後9カ月時点でママがキシリトール摂取を中止しても、母子伝播予防の効果は子どもが2才になるまで続くこともわかりました。
●ミュータンス菌が激減!
こちらの写真は、2人の妊婦さんの唾液から検出された「ミュータンス菌」のコロニー(集まり)です。「介入前」と「キシリトール介入3カ月」を比較すると一目瞭然! キシリトールをとり始めて3カ月しか経っていないのに、目に見えてミュータンス菌が激減しています!
赤ちゃんにミュータンス菌を移す可能性があるのは、ママだけではなく、ご家族の皆さんも同様です。赤ちゃんが「生まれる前」から、家族みんなでラクに楽しく取り組む子どものためのむし歯予防を「マイナス1歳からはじめるむし歯予防」と、私は呼んでいます。赤ちゃんの「健口」のために、ご家族がまず自分自身の口の中を「健口」にすることが大切です。子どものむし歯予防とは、家族全員のチームワークが欠かせない、いわば健康づくりの団体戦と言えます。
キシリトールがむし歯予防に役立つわけと上手な摂り方はこちら>
知っておきたいことがいっぱい
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