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「寝ててもいい。大声出してもいい。席を立って歩いてもかまわない!」コロナ禍から復活した重症心身障害児と家族のためのコンサート

更新

3年ぶりの有観客コンサート。演者もお客様も手をたたき、リズムをとり、身体いっぱいで楽しみました。

「痰の吸引があったり、途中で大声を出したりする可能性のある重症心身障害児の家族はコンサートに行けない」。あるお母さんの言葉から始まった「地域がささえるふれあいコンサート」。新型コロナウイルス感染症の影響で2020年は中止されましたが、昨年は録画配信、今年はライブ配信と有観客で13回目のコンサートを開催。歌ったり、手拍子をしたり、演者、観客が一体となりコンサートが繰り広げられました。

300席の座席を撤去。重症心身障害児が無理なくコンサートを楽しめるように

広い会場で思い思いにコンサートを楽しみました

今年で13回目を迎える認定NPO法人スマイルオブキッズが主催の「地域がささえるふれあいコンサート」。毎年、子どもたちの夏休みに合わせて、The voices of Japan(以下VOJA)のステージに、重症心身障害児とその家族を招待しています。新型コロナ感染症の影響で2020年は中止を余儀なくされましたが、2021年は録画配信、今年は2日に渡り、ライブ配信と人数は制限されたものの有観客でのコンサートが開催されました。

コンサートが行われるのは横浜市のラポールシアターです。300席の座席を撤去した会場は、車椅子の子も、寝たきりの子も、一番楽なスタイルでステージを楽しめるように配慮されています。

このコンサートのきっかけを作ったのは、横浜市在住の岡山美幸さんと長女の千晃さんが通っていた養護学校のお母さんたち。実は千晃さんには重度の障がいがあり、常に誰かのサポートが必要です。当時、千晃さんの弟が通う保育園の保護者のひとりにVOJAの関係者がいて、あるとき「痰の吸引が必要だったり、大声を出したりする可能性があるから、家族でコンサートを楽しむことができない」と話したそうです。

「それって、人生の楽しみの半分をなくしていることじゃない?」。
この言葉から、全てが動き出しました。

かすかに動く視線や指、目に浮かぶ涙。重症心身障害児のささやかな反応に感じたことは?

コンサート開催が決まった頃の岡山さんご家族

岡山さんの言葉をきっかけにVOJAは養護学校や病院でコンサートを行うようになりました。しかし歌を聴く重症心身障害児の反応といえば、かすかに視線や指を動かしたり、汗をかいたり、涙を流したり……。普段、手を叩き、声を上げて反応してくれる観客の前でしか歌ってこなかったメンバーたちはとても緊張していたと岡山さんは記憶しています。目の前の子どもたちのささやかな、でも懸命な反応に、「自分たちが歌う意味を改めて考えたとVOJAのメンバーが話していた」と当時を振り返りました。

「こんなに素晴らしいコンサートをやるのが学校や病院だけじゃもったいない」と思った岡山さんは養護学校のお母さんたちと共に、さまざまな難題が立ちはだかるなか、もっとたくさんの家族が訪れることのできる大きな会場でのコンサートを開催すべく奔走します。メンバーからミニコンサートの様子を聞いていたVOJAのリーダー亀渕友香さん(故人)も、その主旨に賛同、自らステージで歌うことを約束しました。

そして、お母さんたちの思いがたくさんの人の心を動かし、ラポールシアターでのコンサート開催が決まりました。「初めてのコンサートには応募者が殺到し、開催に向けて奔走してくれたお母さんたちやそのご家族は参加できずに申し訳なかった」と岡山さんは言います。それ以来、多くの企業、団体の協賛や主催の認定NPO法人スマイルオブキッズ(以下スマイルオブキッズ)のスタッフ、ボランティアの力に支えられながら、重症心身障害児とその家族の夏休みの思い出として「地域がささえるふれあいコンサート」は続き、今年で13回目を迎えました。

娘が目をキラキラさせて観て聴いている姿がとってもうれしかった

コンサートの常連さん。VOJAのメンバーも毎年会えることを楽しみにしています

岡山さんはいつもホールの後ろの席からコンサートを観ているそうです。あるとき、コンサート中にお子さんの耳元でカセットを流しているお母さんを見かけました。理由を尋ねると、「この童謡を聴いていないとこの子は落ち着かないんです。子どもが違う曲を聴いているのは本当に失礼だと思うのですが、私も主人もどうしてもコンサートに来たかったんです」と……。「日頃の介護がどんなに大変かを私たちもわかっているので、改めて子どもだけではなく家族みんなで楽しめるコンサートにしていきたいと思いました」(岡山さん)

VOJAのメンバーにとっても「地域がささえるふれあいコンサート」は特別な存在です。
「お客様の姿、表情がすぐそこに見える明るい客席。その表情や仕草がダイレクトに目に届くこのステージは、自分たちのパフォーマンス力を目の当たりにする緊張の場でもあります。お客様の小さなリアクションも見逃さず、私たちの想いがしっかり届くように一生懸命歌うことを心がけています。でも何より、メンバーは、年に一度のこのコンサートで皆さんと交流できることを楽しみにしているんです」(VOJAマネージャー奥本友紀さん)

コロナで一度は途絶えたコンサート。改めてこの場所で歌える喜びを噛み締めました。

実は、コンサートが開催された8月の半ばは、コロナの感染者が再び増え始め、事務局はコンサートの実施可否を最後まで迷っていました。

「でも、招待するのは普段から命と向き合っているご家族。コロナ禍でさらにご心労が重なっておられることでしょう。コンサートを楽しみにしてくださるかたがたとえ一家族でもいるのなら、場は開くべきと考えました」(スマイルオブキッズ理事長 松尾忠雄さん)

コンサートを支えるスタッフの皆さん

しかし、コンサート終了後の子どもたちの笑顔を見て、アンケートを読んで、心配は杞憂だったと感じました。

「会場でVOJAの皆さんの歌声、表情、熱量を同じ空間で感じられる時間は本当に幸せでした。 娘が目をキラキラさせて観て聴いている姿がとってもうれしかったです。」

「なんであんなに温かい気持ちにさせてもらえるのか、歌の力に毎回涙しております。」

「コロナ禍で外出の機会が減って、今回も感染が落ち着いていないため、行く前は少し悩んだのですが、参加してよかったです」

(コンサート終了後のアンケート、スマイルオブキッズ提供)

「寝ててもいいわよ。大声出してもいいわよ。席を立って歩いてもいいわよ」。VOJAのリーダーである亀渕さんはいつもステージから子どもたちに語りかけていたそうです。

周りの目を気にすることなく、それぞれが自由に音楽を楽しむ。聴く人も歌う人もが笑顔になる。そんなコンサートの輪が日本中に広がっていきますように。


取材・文/米谷美恵 写真提供/認定NPO法人スマイルオブキッズ、The Voices of Japan

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

認定NPO法人スマイルオブキッズ

「愛する子ども達のために」という理念のもと、病気や障害のあるお子さんとその家族の立場に立って、支援活動を行っている。 神奈川県立こども医療センターを受診する家族のための滞在施設「リラのいえ」の運営、きょうだい児預かり保育、家族同士が交流できる場づくりなど。ご家族の安心が、お子さんの笑顔に繋がることを願って日々活動を続けている。

認定NPO法人スマイルオブキッズ  https://smileofkids.jp/index.html

The Voices of Japan

日本を代表するゴスペル音楽の第一人者、亀渕友香を中心に1993年に結成されたゴスペルを主とするコーラス・グループ。「音楽を愛し、音楽を通じて、人間性、社会性を高める」という目的に賛同したメンバーが集まり、現在60名以上が所属している。
ゴスペルをルーツとしながらも独自のコーラスアレンジを特長に、コンサート・ライブ・イベントやTVへの出演、芸術鑑賞会・特別支援学校(養護学校)でのライブなど、幅広い活動を展開中。人間の生の声、リズム、アンサンブルを通して日本中にその声の輪を広げている。

The Voices of Japan https://www.clamp.work/vojab/

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