「インフルエンザ=冬の感染症」ではない状況が続く。季節はずれのインフルエンザの流行を専門医はどう考える?ワクチン接種は?【小児科医】
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以前の流行の状況と変わり、季節はずれの時期にインフルエンザが流行しています。厚生労働省の発表によると、2023年9月18日~24日の定点医療機関からの報告は、沖縄県(22.46人)、千葉県(15.14人)、東京都(12.19人)などと増えていて、全国的に感染者が出ている状況です。
季節はずれのインフルエンザがはやり始めた理由や今シーズンのインフルエンザワクチンについて、新潟大学医学部小児科学教室教授 齋藤昭彦先生に聞きました。齋藤先生は、日本ワクチン学会役員、日本小児科学会、日本感染症学会の理事を務めています。
インフルエンザは冬にはやるのではなく、季節性が徐々に失われるような状態に
季節はずれのインフルエンザの流行が止まりません。インフルエンザに感染した小児の入院患者も増えていて、厚生労働省の調べによると2023年9月4日~24日の間で、0~4歳で入院したのは96人にのぼります。流行の背景には、さまざまな要因があるようです。
――以前ならば、まだはやっていなかった夏から秋の季節にインフルエンザが流行しているのはなぜでしょうか。
齋藤先生(以下敬称略) いくつかの要因が考えられます。一つは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下新型コロナ)パンデミック以降、2020-2021シーズンはインフルエンザの流行がなく、また、2021-2022シーズンも流行はそう大きくなかったため、インフルエンザに対する免疫を持っている人が少ないということです。
もう一つは、海外からの渡航客が急増していることもあると思います。
また新型コロナが5類に移行して、手洗いやマスクなどの感染対策がゆるんだことも要因ではないでしょうか。
――今、流行しているインフルエンザは9月から急にはやり始めたのでしょうか。
齋藤 2023年は、春から局地的にインフルエンザが流行しています。9月から急に流行り始めたわけではありません。
今までだったらインフルエンザが流行らないはずの5月に集団感染が起き、学級閉鎖が相次いだという報道を覚えているママ・パパもいるのではないでしょうか。インフルエンザの流行は、季節性があり、冬がピークだとされてきましたが、もしかしたらこのまま収束することなく、本格的な流行を迎えるかもしれません。
――こうした状況は、日本だけなのでしょうか。
齋藤 インフルエンザは、冬の南半球で流行したウイルスが、東南アジアなどを経由して、日本の冬に流行することがわかっています。そのため日本の流行予測には、南半球のインフルエンザの感染状況が参考になります。
オーストラリアでは、2022年、2023年ともに1年中どの月もインフルエンザの感染が見られ、終息する月がありません。季節に関係なく1年中インフルエンザがはやっているような状況と言えると思います。
インフルエンザの予防接種は接種できる時期になったら速やかに受けて
現在、日本で流行しているのはインフルエンザA型のH3N2です。この先流行する型が変わることがあるのでしょうか?
――今、はやっているインフルエンザはA型でしょうか。
齋藤 2023年9月現在、日本で流行っているのは、A型のH3N2です。A型は高熱、倦怠感などインフルエンザ特有の症状が強く表れるのが特徴です。
今シーズンのインフルエンザワクチンは、4価ワクチンで、株は次のとおりです。このH3N2も含まれています。
A 型株
A/ビクトリア/4897/2022(IVR−238)(H1N1)
A/ダーウィン/9/2021(SAN−010)(H3N2)
B型株
B/プーケット/3073/2013(山形系統)
B/オーストリア/1359417/2021(BVR−26)(ビクトリア系統)
――本格的な流行前の時期にインフルエンザに感染した人は、インフルエンザの予防接種は不要でしょうか。
齋藤 2023年9月現在、流行しているのはH3N2ですが、このあと、ほかの異なる型がはやるかもしれません。オーストラリアで今年の夏にはやったのはH1N1です。そのため大人も子どもも、「今年、すでにインフルエンザに感染したから大丈夫! もう感染しない」と油断は禁物です。インフルエンザの予防接種を受けましょう。
――今シーズンのインフルエンザワクチンの供給量を教えてください。
齋藤 今シーズンは、昨シーズンの使用量(2567万本)と比較して、約120%の供給量があります。120%の供給量があるというと余裕がありそうですが、インフルエンザワクチンの供給は地域差があるので早めにかかりつけの小児科に相談してください。
――子どもがインフルエンザワクチンを接種しそびれた場合は、どうしたらいいでしょうか。
齋藤 原則、日本では生後6カ月~13歳未満は2~4週の間隔をあけて2回接種します。
日本ワクチン学会では2023年9月21日に声明を発表しましたが、その一部には
「世界保健機関(WHO)は、インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンは、9歳以上の小児および健康成人に対しては1回接種が適切であるとしています。
また米国予防接種諮問委員会(US-ACIP)は、なお、月齢6カ月から8歳の小児であっても、シーズン前 に、過去2回の接種を行っている場合においては、1回接種でよいとされています」
と書かれています。
「シーズン前 に、過去2回の接種」とは、昨シーズン、既に2回インフルエンザの予防接種を受けているという意味です。
小児においても1回の接種で十分な免疫がつくということです。
接種できる時期がきたら、遅れることなくインフルエンザ予防接種を受けてください。
――小児のインフルエンザ予防接種は1回でも効果があるのでしょうか。
齋藤 治験データからも、1回でも予防効果があることはわかっています。一方で、インフルエンザワクチンの効果は、その時の流行しているウイルス株とワクチン株の違いなどによって変わり、たとえ、2回接種してもその効果は100%ではありません。
日本の小児のインフルエンザワクチンは、2010年シーズンまで1歳未満は0.1mL/回、1~6歳未満は0.2mL/回、6~13歳未満は0.3mL/回で、それぞれ2回接種でした。
しかし2011年シーズンからは生後6カ月~3歳未満は0.25mL/回、3歳以上0.5mL/回となって、1回あたりの接種量が増えています。これが国際的に標準の接種量です。
私個人の意見としては、小児の2回接種は、以前の少ない接種量に基づいた考え方によるものだと思います。私がインフルエンザの予防接種を担当している医療機関では、最初のシーズンのみ2回で、後は1回接種にしています。
新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを受ける場合は、早めに小児科で相談を
寒くなってくると新型コロナとインフルエンザの同時流行が心配されます。新型コロナワクチンの考え方を、改めて齋藤先生に聞きました。
――子どもは、新型コロナとインフルエンザに同時感染することもあるのでしょうか。
齋藤 本当に同じタイミングで2つのウイルスに同時に感染することはないでしょう。ただし新型コロナに感染していても軽症で感染に気づかず、インフルエンザに感染して検査を受けたところ、鼻腔内に新型コロナのウイルスが残っていて、新型コロナにも感染していたことがわかることはあるでしょう。
――小児の新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種は、どのように考えたらいいのでしょうか。
齋藤 新型コロナ予防接種は、基礎疾患がある小児が受けると思っているママ・パパが多いと思いますが、決してそうではありません。
新型コロナに感染した小児の中には、まれですが、急性脳症や心筋炎を発症するなど重症化する子もいて、亡くなったお子さんも報告されています。また、後遺症が残るケースも少なくありません。
日本集中治療医学会の調べ(2022年1月~2023年3月)では、小児の重症は668例にのぼり、そのうちの約65%以上は5歳以下です。基礎疾患がない子どもが約2/3で、基礎疾患がなくても重症化します。
新型コロナのワクチンはとくにオミクロンの流行になってから、新型コロナを予防できる時間は限りがありますが、かかってしまった際に重症化しにくいということはわかっています。
ワクチンが受けられる年齢(共に生後6カ月以上)を過ぎたら、インフルエンザも新型コロナも予防接種を受けたほうがいいでしょう。
どちらも受けることを決めた場合、どちらが先か、ということではなく「同時接種」で免疫をつけるのがいいと思います。ワクチンで防げる病気は、かかる前に予防接種を受けて防ぐことが基本です。
迷ったときは、かかりつけの小児科で相談しましょう。
監修/齋藤昭彦先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
インフルエンザは感染力が非常に強く、感染すると重症化する子もいます。すでにインフルエンザ予防接種の予約を開始している小児科もあるのでチェックしてみてください。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。