「湿疹」「アトピー性皮膚炎」…●●生まれは要注意!? 生後6カ月までの「季節」と「発症」に関係があるって本当? 【エコチル調査より】

現在、子どものさまざまなアレルギー疾患の増加が問題となっています。中でもアトピー性皮膚炎は、生まれてから6カ月までに過ごした季節によって、発症のしやすさに差があるという研究結果があることを知っていますか?
この研究に大きく役立っているのが「エコチル調査」。生まれた季節と、湿疹・アトピー性皮膚炎の発症について、わかったことをご紹介します。
★ラストにアンケートご協力のお願いがあります。ぜひ最後までお読みください。
【エコチル調査って何?】

「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」は、2011年1月に環境省によって取り組みが始まった調査です。環境中の化学物質や生活習慣などと、子どもの成長・発達との関連を調べています。
参加者は約10万組の親子。妊娠中から開始し、出産後も追跡調査が行われ、現在は最年長の子どもが12才。そして13才以降も調査を継続することが決定しています。ママや子どもたちが協力してくれた調査データは研究・分析が進められ、多くの論文が発表されています。
子どもの湿疹やアトピー性皮膚炎の発症について、どんなことがわかったの?





<エコチル調査でわかったこと>
秋生まれの子どもは、1才までに「湿疹」や「アトピー性皮膚炎」を発症しやすい
エコチル調査の研究チームは、これまで‟生まれた季節とアトピー性皮膚炎の発症傾向”を調査してきました。それにより、3才までの発症率は、秋生まれ(10~12月)が最も高く、春生まれ(4~6月)で最も低いことを発表しました※1。
そして今回、エコチル調査富山ユニットセンターと甲信ユニットセンター(山梨大学)の研究チームが共同で「エコチル調査」のデータをもとに、全国約8万人の子どもを対象に調査。アトピー性皮膚炎や湿疹と、秋生まれとの関連がどのくらい早期から見られるのかを調べることにしました。
※1 生まれ月・出生地の日照時間・湿度と生後 6 カ月から 3 才までのアトピー性皮膚炎発症率との関連について:エコチル調査【著:横道洋司ら】 「BMJ Open, 2021, DOI: 10.1136/bmjopen-2020-047226」
【調査対象】
全国8万1615人(エコチル調査に参加している子ども)
【調査したこと】
a)生後1カ月の湿疹
b)生後6カ月の湿疹
c)1才の湿疹
(保護者の判断による)
d)1才までのアトピー性皮膚炎の診断
(保護者の報告による)
この4つの分類について、生まれた季節とそれぞれの発症との関連を調べた結果、次のことがわかったのです。
5月生まれと比べると、生後6カ月の「湿疹」は11月生まれの発症率が、1才までの「アトピー性皮膚炎」は10月生まれの発症率が高い


これは、生まれた月別の発症状況を比較したオッズ比の図です。5月生まれを基準として、各生まれ月の湿疹とアトピー性皮膚炎を発症している子どもの数を計算して対比したもので、青いラインの部分がいちばん高いことを示しています。生後1カ月時の湿疹では7月生まれが最も高く、生後6カ月時では11月、1才時では10月と、生後6カ月以降で秋生まれの子の発症率が高いという結果に。また1才までにアトピー性皮膚炎と診断された子は10月生まれが最も高いことがわかりました。
●用語説明
「オッズ比」って?
オッズ比とは、ある現象の起こりやすさを比べた値で、基準となるグループの起こりやすさを「1」として、ほかのグループでの起こりやすさを比で表したものです。この図では、H型バーの最も左が1を超えていると“起こりやすい”、最も右が「1」を下回ると“起こりにくい”、バーが「1」をまたいでいる場合、“基準グループと差がない”という見方をします。
【注】調査対象の子どものうち、それぞれ症状があったのは「生後1カ月の湿疹」61.0%、「生後6カ月の湿疹」33.0%、「生後1才の湿疹」18.7%、「1才までのアトピー性皮膚炎の診断」4.3%でした。
【注】母親年齢、世帯年収、教育歴、母親のアレルギー歴、妊娠中のビタミンD摂取量、妊娠中の喫煙、タバコ煙ばく露、児の性別、在胎週数、授乳方法、1カ月時の食物アレルギー、きょうだいとの同居、ペットの飼育、出生した地域で調整済みのデータです。
生後6カ月、1才時点での季節が違っても、秋生まれの子は湿疹が起こりやすい
同じ子どもの生後6カ月と1才のときでは、当たり前ですが観察している季節が異なります。それをわかりやすく表したのが下の図です。生後1カ月のときは夏生まれ(7~9月)・春生まれ(4~6月)のほうが発症率が高いですが、秋生まれ(10~12月)は、生後6カ月を迎える春と1才を迎える秋のどちらも、ほかの季節生まれよりも湿疹の発症率が高いことがわかります。

子どもの性別と、ママのアレルギー歴でも分析を行ったところ…こんな傾向が
今回は、子どもの性別と、ママのアレルギー歴のあり・なしでも分析を行い、生まれた季節と「1才までのアトピー性皮膚炎の発症」との関連も調べました。どの季節でも男女関係なくアトピー性皮膚炎の発症は見られましたが、次のような傾向がありました。
【分析結果のまとめ】
●ママのアレルギー歴、子どもの性別にかかわらず、秋生まれはアトピー性皮膚炎の発症率が高くなる。
※ただし、ママにアレルギー歴がない女の子の場合は、それぞれの季節に統計上、意味のある差は見つかっていません。
●ママにアレルギー歴があると、子どもの性別にかかわらず、アレルギー歴がないママに比べて、どの季節生まれでもアトピー性皮膚炎の発症率が高くなる。
●ママにアレルギー歴がある男の子は、秋生まれだけでなく、夏生まれでもアトピー性皮膚炎の発症率が高くなる。
※これは本研究のみの結果であり、女の子の場合に注意が必要なくなるということではありません。

〈考察〉この研究結果から、どんなことが考えられる?
アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下と皮膚の炎症、かゆみが特徴です。アトピー性皮膚炎の発症には、皮膚の乾燥が関係します。秋生まれは、低月齢時に冬を越すため、乾燥や寒さといった皮膚バリア機能に負担が大きい条件下で過ごしていることが、湿疹やアトピー性皮膚炎が多い原因とも考えられます。
今回の結果から示唆できることは、乾燥対策をしっかり行うことで、アトピー性皮膚炎等の発症予防につながるということです。
ご紹介した研究の結果は、ほかの季節の生まれだと湿疹やアトピー性皮膚炎にならないということではありません。ほかの季節に生まれたから安心というわけではないことにも注意しましょう。

【注】この研究では、湿疹の有無とアトピー性皮膚炎の診断を保護者が回答した質問票から行っているため、医師による客観的な情報収集をしていません。また、生後1カ月時点と生後6カ月、および1才時点で、湿疹の有無をたずねる質問文が異なるため、正確な時系列の比較をしていません。さらに、アトピー性皮膚炎の発症について、遺伝的要因を検討していません。
参考・引用論文/出生した季節と乳児期のアトピー性皮膚炎:エコチル調査の結果より【著:土田暁子ら】「BMC Pediatrics, 2023, DOI: 10.1186/s12887-023-03878-6」
●今回は、エコチル調査で導き出された多くの研究成果の一部を紹介しました。エコチル調査は世界各国からも注目されており、これらの研究成果は子どもたちの未来にも役立てられていく予定です。
提供/環境省
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