「指もなかったんや」妊娠中にわかった、右足がなく、左足は先天性内反足のわが子。産後にわかったさらなる障害に、夫婦は…【けんじとあかりインタビュー】
約3年前から、DIYで車中泊仕様にした軽ワンボックスカーで日本中を旅している夫婦YouTuber「けんじとあかり」さん。結婚7年目であかりさんが双子を妊娠していることがわかりました。しかし、妊娠5カ月の検査で、双子の1人に右足がないことが判明。自分を責め、不安いっぱいで過ごしながらも、2024年12月に無事に双子を出産したあかりさんと、夫・けんじさんに、今日までのことについて、話を聞きました。全2回インタビューの後編です。
帝王切開で双子を出産。初めて見た2人の姿は…
2018年に結婚し、2021年から軽バンで日本一周の旅をしながら夫婦でYouTube配信を始めた「けんじとあかり」さん。結婚7年目にして、あかりさんが双子を妊娠。そして、妊娠19週のスクリーニング検査で、双子ちゃんのうち第2子となるお子さんに右足欠損と先天性内反足の障害があることがわかりました。あかりさんはその後、双子妊娠であること、双子ちゃんのもう1人の成長が妊娠30週ぐらいからゆっくりになったこともあって、妊娠34週で管理入院。そして、待望の出産を迎えました。
「妊娠38週で、出産は予定帝王切開でした。第1子のゆーちゃんは1814g、第2子のきーちゃんが2158gと小さめだったので、2人とも出産当日はNICU(新生児集中治療室)に入りました。
先に生まれたゆーちゃんは、呼吸が少し不安定だったので別の処置室にすぐ連れて行かれてしまい、私はしばらく会えなくて、あとに生まれたきーちゃんのほうを先に私のもとに連れて来てもらいました。
初めて見るわが子がきーちゃんだったんですが、きーちゃんを見てまず『かわいい!』って思いました。双子あるあるなのかもしれませんが、妊娠中のエコーでも重なり合っちゃって、顔が全然見えなかったんです。だから、まず『かわいい!こんな顔してたんや!』って思いましたね。
実は正直なところ、妊娠中は、右足のないわが子を見てちゃんとかわいいと思えるのだろうか…という不安があったんです。だけど、生まれたきーちゃんを見て、きーちゃんの右足を含めて、無条件にちゃんとかわいいって思えました。妊娠中は不安なこともたくさんありましたが、生まれたきーちゃんの姿を見た瞬間に、これからの不安が吹き飛んでいった感じがしたんです。
そしたら、看護師さんが『右足、触りますか?』って言ってくださって。『いいんですか?』と言って触ったら、思っていたよりやわらかくて。太ももができる部分にちょっと丸いのがついてる状態で、やわらかくて気持ちいい!って感じ。そして、その瞬間に『ママってこんな気持ちなんやなぁ~』って母性本能がすごく出たような気がしました。
生まれたてってまだ血もついてるし、新生児ってちょっとむくんでて、言い方悪いんだけど、そんなきれいな状態ではないと思うんですが、もうめちゃめちゃかわいい!って思いました。
ただ、けんじはせっかくいちばん最初に2人を抱っこできる権利を与えたのに、生まれた直後のきーちゃんを触れず…」(あかりさん)
「僕、実は血が得意じゃなくて…。あかりの産後すぐ、医師の話を聞いている途中で、体調が悪くなっちゃったんです。本当は産後すぐに2人とも抱っこできるって話だったんですけど、ゆーちゃんを抱っこしていたら気分が悪くなって…。
なので、産後すぐのきーちゃんの足を触ったりすることはできなかったんですが、しばらくしてからきーちゃんの右足を見て、無事に生まれてきてくれて、今まで見られなかった部分を見ることができて、『こうなってたんや』ってすごくすっきりしました」(けんじさん)
妊娠中は、きーちゃんの右足欠損と先天性内反足以外のことは「生まれてみないとわからない」と医師に言われていたけんじさんとあかりさん。生まれてからの検査の結果、内臓には問題はなく、当初からわかっていた右足欠損と先天性内反足に加えて、右手の小指が欠損し、左手の薬指が短く、また一部の指がくっついた状態であることが判明し、絞扼輪症候群(こうやくりんしょうこうぐん)※と診断されました。
※指や腕などにひもで縛ったようなくびれがあったり、複数の指がくっついていたりするもので、指が欠損している場合も。赤ちゃんがおなかにいるときに、体に羊膜(ようまく)の一部が絡まることが原因で起こると考えられています。
「あかりの産後処置の間に、まずは僕だけが医師から指の欠損について簡単に説明を受けました。でも、妊娠19週のときに右足がないということはわかっていたんで、『今後も何かあるかもしれないし、外見からはわからない心臓や内臓とかに障害があるかもしれないな』ってずっと思っていて、そういう心の準備もできていたんです。だから、実際に医師から知らされたときは『あ、指もなかったんや』くらいの感覚でした」(けんじさん)
「私は、病室に戻って面会したときに聞いたんですが、私も本当にいい意味で何も思わなくて。『あ、そうなんや』くらいで、そこまでの衝撃はなかったです。心の準備がある程度できていたし、生まれてすぐの元気に泣く姿を見ているので、ポジティブな気持ちで、すっきりした感じでしたね。
なんなら、そういった障害のない、ゆーちゃんのほうが心配で。ゆーちゃんも元気そうに見えたんですが、明らかに小さかったし、『呼吸がちょっと弱いから補助します』といわれてチューブにつながれていたので、大丈夫かな…と」(あかりさん)
結局、第1子のゆーちゃんは小さかったのと、呼吸が少し不安定だったのとで、24日間ほど入院に。第2子のきーちゃんは検査のため、1日だけNICUに入りましたが、手足の障害以外には問題なしということがわかり、翌日にはNICUを出て母子同室をスタート。あかりさんときーちゃんは一緒に退院することもできました。
経験してない世界、知らない世界をきーちゃんが教えてくれる
先にきーちゃんだけが退院となり、まずは3人での生活がスタート。3週間ほどだったそうですが、この3週間が双子育児の準備期間になったと言います。
「ゆーちゃんが約1カ月NICUに入っていたので、双子育児とはいえ、最初は1人の赤ちゃんを2人で見る形でできたんです。きーちゃん1人だけで最初の育児ができたというのは大きかったですね。だから、新生児期でもそこまで大変じゃなくて、3週間くらいは割と余裕がありました。
ゆーちゃんには申し訳ないけど、双子が一気に退院していたら本当につらかったと思う。でも、1人ずつ退院してくれたから、親のほうが少し育児に慣れた状態で双子育児が始まったので、こちらもある程度準備ができたという感じでした。
2人になった瞬間からやることも増えたし、寝るのも泣くのも授乳も2人のタイミングが違うので、そこからは睡眠時間もかなり削られましたね。といっても、うちの子たちは小さくて、体力がなかったんで、飲んだらすぐ寝るみたいなタイプだったから、わりと夜は寝てくれたかなと思います」(けんじさん)
「小さめのゆーちゃんは3時間たっても起きないんで、こっちが起こさないと授乳もできなくて。ほぼ寝ながらミルクを飲んでいるような感じで、飲み終わったらまた寝るみたいな状態でした。それでも、やっぱり2人が同時に泣いたときはあせってしまって、精神的にやられます(笑)。
ただ、知り合いだった双子のママ・パパの話を聞くと、もう1日30分くらいしか寝られないみたいな、もっと壮絶な話を聞いていたんで、それよりは寝られてる!という感覚。先に壮絶な話を聞いておいて、本当によかったです。
お子さんが1人だと完璧を求めちゃうというか、泣いたらすぐ抱っこして対応してって、私も絶対そうしていたタイプだと思うんですけど、双子だと物理的にちょっと手がたりなくて、すぐに対応できないこともよくあるんです。だからもう開き直って、多少泣いていても『ちょっと待ってて、ごめん』みたいに思えるんですよね。逆にそれはよかったかなと思います」(あかりさん)
そして、きーちゃんは生後1カ月を過ぎたところで、内反足の治療をスタート。6週間ほどギプスで足を固定したあと、足の裏がちゃんと地面につくようにアキレス腱を切る手術を行いました。その後また3週間ほどギプスをしたあと、現在は毎日装具をつけて過ごしているそうです。
「内反足の治療についてはそんなに不安はなかったです。治療法が確立されていて、整形外科の先生も慣れていらっしゃったし、きーちゃんの内反足のレベルも軽症だとわかったので。
整形外科の先生とは妊娠中からお話もさせていただいていたんですが、すごくポジティブなことを言ってくださる先生で。『大人が悩んでいても、子どもたちは想像を超えてきますよ。だから何も心配することないよ』という言葉に励まされました。
妊娠中に、子どもに障害があるとわかって、どちらかというと『かわいそう』みたいな扱いを受けるというか、助産師さんたちもすごく心配してくれるんですけど、それが逆につらく感じる時期もあったんです。でも、この先生のおかげで前向きになれたし、産後もずっと見てもらえるとわかっていたので、安心しておまかせできて、不安はなかったです。
ただ、手術は全身麻酔になるので、そこは少し心配でしたね。まだ本人は何もわかっていないかもしれませんが、手術を終えて、こんなに小さいのに頑張ってくれたなって。病院に1人で入院して、手術を受けて。赤ちゃんの強さというか、たくましさをすごいなと感じました」(あかりさん)
「今はもうギプスは外れて、おふろのとき以外は装具をつけています。それはまだ当分続くんですが、自宅で毎日はずすことができるので、おふろに入(はい)れるようになったんです。
きーちゃんは泣いていてもおふろに入れば機嫌がよくなるような、おふろが大好きな子なんですよ。だけど、ギプスはつけっぱなしだから、ギプスをしている間は沐浴(もくよく)もろくにできず、体をふくことくらいしかできなくて、夕方のグズグズも、気分を変えてあげられなくてかわいそうだなと思っていたんです。だから、ようやく毎日おふろに入れるようになって、きーちゃんも僕たちもうれしいです。
くっついている指を切り離す手術に関しては、絶対ではないんですが、医師と相談して、1歳ぐらいをめどに考えようかという話になっています。まだ手も小さいし、神経に触っちゃうと、今動かせている指も動かなくなってしまうこともあるので、指はすごく慎重になったほうがいいって言われました。なので、それまでは様子をみる予定です」(けんじさん)
双子を妊娠し、思いがけずきーちゃんの障害がわかって、いろいろと考える毎日が続いたものの、今はゆーちゃんときーちゃんと暮らす日々を、全力で楽しんでいるけんじさんとあかりさん。今、思うこととは――。
「2人を比べるわけじゃないですけど、やっぱりきーちゃんには障害があるので、僕たちも想像できないような成長のしかたをすると思うんです。でも、それは楽しみでもあります。僕たちが経験してない世界、今まで知らない世界をきーちゃんが教えてくれるんだな、と。
自分が知らない世界を、これからはきーちゃん、ゆーちゃんと一緒に経験できるんで、僕は今、未来がとても楽しみですね」(けんじさん)
「そうですね。やっぱり普通の人が経験しないことを、今までだけでもすごく経験させてもらっているなと思っていて。手術とかもそうですけど、福祉の制度とかも、今までやったらあまり気にも留めてなかったこと。障害者の方向けのサービスとかも、これまで全然深く考えたこともなかったことに、私はちょっと反省もしたんですけど、そこについて考える機会をもらえて、今すごく勉強になっていると思います。
障害についても、きーちゃん自身に『恥ずかしいことじゃない』って思ってほしいですね。障害を隠そうとする方も多いかもしれませんが、個性として本人も周囲も受けとめてくれたらと思っています。
YouTubeできーちゃんの障害についての動画をあげたのは、もともと私たちは夫婦でYouTubeをやっていたので、自分たちの子どもについて、障害のあるなし関わらず、紹介したいなという話はしていたので自然な流れなのですが、障害があっても特別扱いするわけじゃなくて、普通に接してもらえたらいいなっていう思いもあります。
あとは、きーちゃんの障害が少し珍しい障害なんで、私も妊娠中、知らないことがたくさんあることが不安だったんです。だから、同じように不安に思われている方がいらっしゃったら、きーちゃんの体験、元気な様子を見てもらって、安心して妊娠生活を過ごしてもらえたらうれしいなとも思っています」(あかりさん)
お話・写真提供/「けんじとあかり」さん 取材・文/藤本有美、たまひよONLINE編集部
ポジティブなパパと慎重派のママ。きーちゃんが障害を持って生まれたことで、体験できること、見えてくること、そんなきーちゃんが教えてくれる世界を大切にしたいと言っていた2人。これからまだ大変なこともあると思いますが、きーちゃんもゆーちゃんもこんなすてきな考えを持つパパとママのもとに生まれて、未来が明るくないわけがない!と思いました。これからも家族4人の笑顔を見せてもらい、たくさんの人に元気を与え続けてほしいと思います。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。
参考資料
けんじとあかりさん
PROFILE
大阪出身。軽バンと宅配バンで車中泊旅を楽しむ夫婦であり、登録者19万人を誇るYouTuber。夢はカレー屋さん。コロナ下で人生について考え、会社員を辞めて旅に出ることを決め、2021年4月から約1年をかけて、車中泊とキャンプをしながら47都道府県を訪れる。その後、北海道に移住したが、あかりさんの妊娠をきっかけに地元大阪に拠点を移す。2024年12月、二卵性双子の女の子が誕生し、双子育児に奮闘中。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年4月現在のものです。