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「交通事故にあい、両手両足にまひが…」パラスポーツ選手を夫にもつフリーアナ・久下真以子。「おなかの子に金メダルを」が2024年の目標だった

更新

2021年東京パラリンピック後に結婚した久下さんと羽賀選手。久下さんの首には羽賀選手の銅メダルが。

2024年11月、夫で車いすラグビー選手でパリパラリンピック金メダリストの羽賀理之さんとの間に、第1子となる男の子を出産したフリーアナウンサーの久下真以子さん。パラアスリートの強さやパラスポーツの魅力を発信しています。久下さんに、パラアスリートである夫との出会いや結婚に至るまでについて聞きました。全2回のインタビューの前編です。

車いすラグビーは激しさとスピード感が魅力

2023年2月11日に結婚式を挙げた久下さん夫婦。偶然にも実母の命日に重なったのだそう。

――久下さんとパラスポーツの出会いについて教えてください。

久下さん(以下敬称略) NHK高知放送局に在籍していた2011年、当時車いすバスケ選手だった池透暢(いけ ゆきのぶ)さん(現在は車いすラグビー日本代表キャプテン)に取材する機会があり、初めてパラスポーツに出会いました。車いすに座ったまま、通常のバスケットボールと同じ高さのゴールにシュートを打てることに衝撃を受けましたし、車いすをくるくるとすばやく操作して走るかっこよさにも感動しました。

池選手のように片足を欠損して左腕が不自由でありながら、こんなに激しいスポーツをする人がいると知り「なんだこの世界は?! 」と驚き、魅了されました。そこからパラスポーツの魅力を発信したいという思いで、パラアスリートの方々への取材やパラスポーツ記事の執筆などをするようになりました。

――夫の羽賀選手がプレイする車いすラグビーも、とてもスピーディで激しいスポーツですね。

久下 車いすラグビーはパラ競技のなかで唯一、直接接触をするコンタクトが許されている競技です。高速で激しく接触するので「格闘技」とも呼ばれるほど。常にけがの危険と隣り合わせのスポーツです。私も車いすラグビーの体験会で車いすでのタックルを受けたことがありますが、手加減してもらったタックルですら、体の芯にひびいてめまいが起きそうなほどの衝撃でした。

スピード感ある試合展開も魅力です。オフェンス(攻撃)側はボールを持ってから12秒以内にセンターラインを越えなければならない、さらにボールを持ってから40秒以内にトライをしなければならないというルールがあり、すばやい動きも求められます。12秒以内にセンターラインを越えさせないようにディフェンス(守備)側はプレッシャーをかけることになります。その攻防がものすごくてハラハラドキドキします。

――羽賀選手はチームでどのような役割ですか?

久下 車いすラグビーは選手の障害の程度によって各選手に持ち点が設定されます。0.5から3.5まで7段階のポイントが設定され、障害が軽いほど点数が高く、重いほど点数が低くなります。そして1チーム4人の持ち点の合計が8.0以下になるように編成されます。夫のポイントは2.0で、コートを走り回って守備も攻撃もどちらもする役割です。

夫の優しさと器の大きさにひかれた

2022年世界選手権で銅メダル獲得後に、ハネムーンでケアンズへ。

――羽賀選手とのなれそめを教えてください。

久下 私は2015年ごろにフリーアナウンサーになって上京してから、車いすバスケから車いすラグビーに転向した池選手への取材のために練習を見に行きました。そこに夫がいたことが出会いのきっかけです。
当時、選手たちの合宿後の食事に何度か呼んでいただける機会があったんです。その食事会のあとに、夫が何回か私を車で送ってくれて、徐々に親しくなりました。

――どんなところにひかれましたか?

久下 とても優しい人で、一緒にいると気をつかわず楽にいられました。夫は無口なタイプで、とても聞き上手。仕事のことや日常のことなど、よく夫に電話をしていろいろと話を聞いてもらっていました。なぜか夫にはすごく話しやすくて。おたがいに昔からの仲よしのような感じがあったと思います。それに私も周囲の人も、夫が怒っているところを見たことがありません。夫の落ち着きとか優しさ、器の大きさみたいなところにひかれたんだと思います。

――2019年9月から交際を始めたそうです。車いすのパートナーとの生活に不安はありましたか?

久下 友人としての段階では、食事に行ったり、車に乗ったりといった、生活の一部しか知らない状態でした。おつき合いすることになったときには、今後生活をともにすることになったら、自分が「やっぱり無理かも」と感じてしまわないかという不安はありました。でも、なんとかなりました(笑)

――羽賀選手の障害について教えてください。日常生活ではどんなサポートが必要ですか?

久下 夫は専門学生のときに首の骨を折る交通事故にあい、両手両足にまひがあり、体幹も使えない状態です。腕は動くけれど、指をグーのように握ることはできません。ボールは持てますが、お箸は持てないので食事にはスプーンやフォークを使います。そのほか、高いところのものは取れなかったり、外出時に数段の段差があるところでは前に進めなかったりするので、そういうときは私がものを取ったり、車いすを押したりします。
でも夫は自分のことはひと通り自分でできるので、家の中ではほとんど何のサポートもしていません。

夫の日常生活の行動のサポートで大変なことはほとんどないんですが、頸髄損傷したために自律神経障害があることは、少し生活に影響しています。汗をかきにくく、私と体感温度が違うんです。暑さにも寒さにも弱い夫と、エアコンのリモコンの奪い合いになることは日常的にあります(笑)

実母との突然の別れで、赤ちゃんへの思いが強く

妊娠中「赤ちゃんに、早く会いたくてしかたなかった」と久下さん。

――結婚後、夫婦で子どもをもつことにどんな思いがありましたか?

久下 2021年9月に夫と結婚し、いつかは子どもがほしいなと思いつつも、なかなか自分が親になるイメージがわかずにいました。そんなとき、実母が突然交通事故で亡くなったんです。2022年2月のことでした。入籍して5カ月、結婚式の準備をしている時期で、母と一緒にドレスを見に行こうね、と約束をしていたところでした。

あまりにも突然のつらいできごとでしたが、父が喪主を務め、母の姉家族、私たち夫婦、親せきたちが支え合いながら母を見送ることができました。そのときに、家族のきずなってすごいな、と思ったんです。父と母が結婚して、私が生まれて家族になったからこそ、こうやってピンチのときに助け合って乗り越えられるんだな、と。母も孫を楽しみにしていましたし、私もこんな家族を作りたい、子どもを持ちたいと強く思うようになりました。

――パリパラリンピック前の2024年7月に妊娠を公表し、夫婦で「生まれてくる子どもに金メダルをかける」を目標にしたそうです。羽賀選手を現地で応援したのでしょうか?

久下 夫の試合の期間、ちょうど私は妊娠26週だったのですが、1週間ほどパリに滞在して応援することができました。妊娠中に飛行機に乗って海外へ行くことはかなり悩みました。主治医にも相談しながら、体調管理面のことや、現地で何かあったときにかかれる産婦人科を探しておく、など対策をして、夫を、日本代表を応援しにいくことにしました。

悲願の金メダルをおなかの赤ちゃんへ

結婚時の写真と同じ構図で撮った1枚。メダルは銅から金になり、家族は2人から3人になりました。

――実際に現地で見て、いかがでしたか?

久下 私は東京2020(2021年開催)と北京2022パラリンピックに取材に行ったんですが、どっちも無観客での試合だったんです。パラリンピックを観客ありの状態で見たのはパリが初めてでした。自分の声が聞こえなくなるほどの地鳴りのような歓声を体験できて本当に感動しましたし、その中で夫が車いすラグビー日本代表として金メダルを取れたことは、半年ほどたった今でもまだ信じられないくらいです。

――羽賀選手にどんな言葉をかけましたか?

久下 試合終了後は、毎回選手と家族が会える時間が設定されていたので、アメリカに勝利して金メダルが決まったあとにも会って話すことができました。でも何を話したか自分ではあんまり覚えていないんです。夫に聞いたら「ずっと泣いてたよ」って。すごくうれしい気持ちと、ほっとした気持ちで、あの瞬間を思い出すと、今も涙が出そうです。

夫は車いすラグビーを20年続けていて、パラリンピックは3回目の出場でした。リオも東京も銅メダルで、2022年世界選手権も銅メダル。いつも準決勝で負けて悔しい思いをしてきたし、2024年に入ったころに夫がスランプに陥ったのも間近で見ていました。長い道のりをへて、やっとつかんだ金メダルでした。夫は、金メダルを私のおなかにいる赤ちゃんに当ててくれました。私たち家族にとって、忘れられない年になったと思います。

――今後パラスポーツの発展に向けて、久下さん自身はどんなことをしていきたいと考えていますか?

久下 東京パラリンピックで、パラスポーツがかなり注目されてから、以前よりもパラスポーツが一般の方にも知られるようになったと感じています。
「日本一パラを語れる女子アナ」を名乗っている以上、今後もパラアスリートにインタビューをしたり、現場を取材して発信を続けたいと思っています。

とくに、子ども向けのパラスポーツ体験会などに行くと、子どもたちがパラスポーツに純粋な興味を持ってくれると感じます。障害のない人がパラリンピアンになることはかなわないけれど、興味をもった子どもたちが、いずれ私のようにパラスポーツを伝える人になってくれたらいいな、と。パラスポーツのファンとともに、その魅力を伝える仲間を増やしたいということは、私の夢のひとつです。

お話・写真提供/久下真以子さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

妊娠がわかってから「生まれてくる子どもに金メダルをかける」という目標を、夫婦で一緒にかなえた久下さんと羽賀選手。感動もひとしおだったのではないでしょうか。
後編では、妊娠・出産の経過や車いすパパの子育てなどについて聞いています。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

久下真以子さん(くげまいこ)

PROFILE
1985年生まれ。大阪府出身。同志社大学文学部卒。セント・フォース所属。08年に四国放送アナウンサー、10年からはNHK高知、13年からNHK札幌キャスターとして活躍し、フリーアナウンサーに。「日本一パラスポーツを語れる女子アナ」をキャッチコピーにパラスポーツの魅力を発信。2024年11月に第1子男児を出産。

久下真以子さんのInstagrum

●記事の内容は2025年2月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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