子どもができにくい?と思ったら~不妊治療入門ガイド~【医師監修】
赤ちゃんが欲しいけれど、なかなか授からない……。
もしかして不妊?と思ったら、自己流で頑張るのではなく、まずは専門家に相談することが大切です。
医療機関や治療開始年齢、不妊の原因によっても治療方法は異なりますが、基本的な不妊治療の流れについて、藤原敏博先生に聞きました。
まずは、不妊治療入門ガイドをチェック!
基本的な不妊治療の流れや検査内容、また男性の不妊治療について、藤原敏博先生にお聞きしました。
1人で悩まずに受診を。専門家にゆだねましょう
どんな分野であっても、医療機関に行くのは精神的なハードルが高いと思います。とくに不妊治療は、病気やケガと違い、どこかが痛いなどの自覚症状がないので、なおさら行くきっかけを逃してしまいがちです。
しかし、不妊治療は時間との闘いです。女性の場合は、妊娠する確率が年齢とともに下がっていきます。20代〜30代前半であれば、治療が半年~1年遅れたとしても、それほど大差はありませんが、30代後半~40才をすぎると、あと1年、せめて半年でも早く不妊治療をスタートすれば、もう少しチャンスがあったのにという場合も多いのです。
時間は元に戻せません。少しでも「もしかして」と思ったら、相談だけでもいいので受診することをおすすめします。受診の結果、問題がなければ安心材料になりますし、問題があれば治療を受けることで、妊娠につなげていくことができます。
また、不妊治療は「出口のないトンネル」と表現されることもあるように、治療をしても100%授かれるわけではありません。治療を開始するにあたって、パートナーと「いつまで」「どこまで」「いくらまで」を話し合い、お互いの価値観をすり合わせることが大切です。
クリニックには体の相談だけでなく、心の相談もするつもりで、1人で悩むのではなく、まずは受診してみることをおすすめします。
誰かに聞きたかった! 最初の受診前に知りたいQ&A
初めての受診は、知らないことだらけ。かといって不妊治療はデリケートな話なので、まわりの人にはなかなか聞きづらいもの。そこで、気になる受診前のQ&Aについてまとめました。
【Q.1】病院主催の説明会には初診前に参加すべき?
【A.1】説明会では不妊治療の流れ、体外受精について、仕事との両立、受精卵(胚)の凍結など、いろいろな情報を得ることができます。WEB説明会や動画配信など、気軽に参加できるものもありますので、参加してみるとよいでしょう。
【Q.2】診察は、どうやって予約をすればいいですか?
【A.2】初めて診察を受ける場合は、病院のホームページの予約サイトなどを通じて予約をするのが一般的です。病院によって予約方法も異なりますので、まずはサイトで確認をし、わからないことは問い合わせをしてみましょう。
【Q.3】生理何日目、もしくは終了何日目に受診すればよいですか?
【A.3】初診は、生理周期の何日目でも大丈夫ですが、生理中に診察するとスムーズにできる検査もあります。生理2~3日目であれば、基礎的な血液検査もその日に一緒に行うこともできます。
【Q.4】夫婦で受診したほうがいいですか?
【A.4】できるだけ夫婦で受診することが望ましいです。どうしても都合がつかなければ、女性だけでも大丈夫です。ただし保険適用で治療を行う場合は、事前に必ず夫婦一緒に受診し、診療内容について十分な説明を受け、さらに感染症などの検査を受ける必要があります。
【Q.5】入籍していないと、治療できませんか?
【A.5】婚姻関係がある夫婦が原則ですが、未入籍の場合でも、事実婚であれば治療を行うことができます。2人での来院と、病院によっては意思確認書類の提出や、「戸籍謄本」「住民票」で同居の有無を確認する場合もあります。
【Q.6】子どもを連れていってもかまいませんか?
【A.6】2人目不妊の治療の場合、病院やクリニックにもよりますが、他の患者さんに配慮をし、子連れでの受診をお断りしているところもあります。反対に託児室を用意している病院もありますので、事前に確認をしましょう。
【Q.7】タイミング法のみでも受診できますか?
【A.7】ほとんどの婦人科や不妊治療クリニックでは、タイミング法だけでの受診も可能です。しかし、例えば、高度生殖補助医療専門施設の場合は、体外受精をメインの治療としているので、病院の診療内容を事前に確認してください。
【Q.8】他院からの転院で、胚の受け入れはできますか?
【A.8】病院によって、他院からの凍結胚を受け入れしているところと、受け入れをしていないところがあります。また、受け入れ可能な病院によっても、移送に関する条件や手続きなどが異なるので、事前に相談しましょう。
受診時の持ち物
基礎体温表は、排卵日を正確に予測するには適していませんが、おおよその体の周期を見るのには有効です。アプリなどを利用して記録しておくとよいでしょう。初診時は、医師に少しでも多くの情報を渡すことが、適切なアドバイスを受けることにつながります。
■健康保険証
■基礎体温表
■紹介状(※手元にある場合)
■血液検査データ/1年以内(※手元にある場合)
なぜ?不妊の原因。1年以上授からない場合は、不妊症の可能性も…?
妊娠を望みながらも、1年以上授からない場合は、不妊症の可能性があります。不妊には、男女ともに何がしかの理由が考えられます。今後の治療方針を決める上でも、まずは原因を知ることが大切です。
男女ともに最初に行うのが各種検査です。問診や基本的な検査を受け、不妊の原因を探ります。検査の結果にもよりますが、検査と並行しながらタイミング法で自然妊娠を試すことも。身体的にとくに問題がなくても、精神的・身体的ストレスで月経不順が起こっているなど、複合的な要因が考えられます。以前は、女性側ばかりがクローズアップされていましたが、現在、不妊の原因は男女で半々と言われています。
不妊の原因
【女性因子】
●内分泌因子
・無排卵
・卵胞発育不全、黄体機能不全
・甲状腺疾患、副腎皮質疾患
●卵管因子
・卵管通過障害(クラミジア、淋菌等)
・卵管周囲癒着(中耳炎、子宮内膜症、クラミジア等)
・卵管留水症・留膿症
●頸管因子
・頸管粘液分泌不全
・頸管狭窄、頸管炎
●子宮因子
・子宮奇形
・子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ
・子宮内腔癒着症(アッシャーマン症候群)
・子宮内膜増殖不全
●免疫因子
・抗精子抗体
【男性因子】
・無精子症、精子減少症、精子無力症
・性交障害、射精障害
【その他】
・子宮内膜症
・膣閉鎖、膣欠損症、高度膣炎
・原因不明不妊
不妊の原因になるさまざまな因子とは?
原因になる因子により治療を開始。排卵障害があれば排卵誘発剤を使います。卵管に問題があれば腹腔鏡手術をし、改善ができなければ体外受精に進みます。
子宮に問題がある場合は子宮鏡手術や腹腔鏡手術をします。
いずれの場合も難治療の際には体外受精・顕微授精へと進みます。男性不妊の場合は人工授精、体外受精・顕微授精へと進みます。
何から始める? 不妊治療のステップ
不妊治療には、大きく3つのステップがあります。
1つ目は「タイミング法」、2つ目は「人工授精」、3つ目は体外受精(または顕微授精)です。
それぞれ、どんなことを行うのかを説明します。不妊治療の妊娠率は、一般的にタイミング法で約5%、人工授精で約8%、体外受精で約30%程度と言われています。
年齢や状況によって妊娠率は異なり、ステップ1から順番に行うこともあれば、不妊の原因になる因子や、年齢によっては、次のステップに早めに進んだり、ステップ2、ステップ3から開始することもあります。
不妊治療は大きく3つのステップに分かれる
検査
女性が受けるのは、血液・ホルモン検査、超音波検査、AMH検査、クラミジア検査、子宮卵管造影検査、フーナーテスト、腹腔鏡検査、子宮鏡検査、染色体検査、MRI検査など。
さまざまな検査で不妊の原因を探ります。生理周期の時期に適した検査があるため、複数回通院します。
【Step1】タイミング法
超音波検査で卵胞の大きさを見て排卵日を予測。医師が指定したタイミングでセックスをします。その後排卵の有無のチェック。排卵誘発剤を使用する場合も。自分たちでタイミング法を試してから受診する人も多く、検査の結果次第で早めにステップ2に進みます。
【Step2】人工授精
排卵日・もしくは前日に採取して洗浄・濃縮した精液を子宮腔内に注入します。自然妊娠に近い形なので、体への負担も比較的軽め。このステップ2も保険適用になりました(2022年4月以降)。6回で妊娠率が頭打ちになるため、年齢により2~3回、最大6回で次に進みます。
【Step3】体外受精または顕微授精
体外受精は、精子と卵子を採取して、培養液の中で受精させて培養し、子宮内に戻します。顕微授精は、体外受精の方法の1つで、卵子に直接精子を注入する方法です。現時点では、不妊治療の最後の砦です。年齢が高い女性の場合は、早めに体外受精を行います。
実は問診も大事
初診時に行う問診は不妊の原因を探るための重要なステップ。ここで医師とじっくり話をする必要があります。例えば「生理不順」も、初潮以来であれば、多嚢胞性卵巣症候群という排卵しにくい病気の可能性が高く、ある時期からは、ストレスや過度なダイエットが原因の場合も。原因によって治療方法も異なりますから、自分の状況をよく知ってもらうことが重要です。
年齢によって変わるステップ
男女それぞれどんな検査があるの?
不妊治療を開始する上で、まず行うのが検査です。
女性が受ける検査と男性が受ける検査があり、女性は、生理周期に適した検査を数回に分けて実施します。原因がわかれば、すぐに治療に取り組みます。
女性が受ける基本の検査
血液・ホルモン検査
血液を採取し、血液中のホルモンが正常に分泌されているかを調べる基礎的な検査。尿検査で行うことも。通常は月経期と黄体期に1回ずつ行い、ホルモンの分泌状態から、卵巣の問題や排卵障害の原因を探ったりします。
〈ホルモン検査の種類〉
人間の体の動きに影響を与えるホルモンは、正常な妊娠を行うためにも重要な働きをしています。妊娠に必要なホルモンを検査するのは以下になります。
●プロラクチン検査…乳腺刺激ホルモン。妊娠・出産時に高くなるホルモンです。この値が高いと、生理不順や無月経など不妊の原因に。
●エストラジオール検査…卵胞ホルモンで、エストロゲンの一種。子宮内膜を厚くさせたり、頸管粘液を増やす働きがあります。
●黄体化ホルモン(LH)検査…卵胞の成長、排卵にかかわるホルモン。排卵障害や多嚢胞性卵巣症候群がわかります。
●プロゲステロン検査…子宮内膜の状態を整え、高温期に着床を助けるホルモンです。排卵の有無の確認に使われることもあります。
●卵胞刺激ホルモン(FSH)検査…卵胞の成長や卵巣の働きにかかわります。卵巣を刺激してエストロゲンの分泌を促します。検査は低温期に行います。
●テストステロン検査…男性ホルモンの一つですが、女性にもあります。血中内の濃度を調べ、この値が高いと卵巣腫瘍や排卵障害の疑いがあります。
クラミジア検査
子宮内膜や卵管に炎症や癒着などを引き起こし、不妊の原因になる場合もあるのがクラミジア感染症。必ずしも自覚症状はありません。検査はどのタイミングでも可能で、パートナーと一緒に受診をします。抗生物質で治療を。
超音波検査
卵胞期・排卵期・黄体期に実施。超音波を発するプローブという器具を腹部や腟内にあて、子宮筋腫、卵巣腫瘍、卵胞の発育、排卵の有無、子宮内膜の厚さなどを調べます。排卵時期を予測したり、着床障害の原因もわかります。
子宮卵管造影検査
受精卵や精子の通り道である卵管が詰まっていないか、原則低温期に調べます。腟内から細い管で造影剤(ヨード)を入れ、レントゲンで子宮の形や卵管閉塞などを調べます。X線被爆やヨードアレルギーなど、多少デメリットも。
AMH検査
採血をして、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の状態を調べ、卵巣内にどれだけの卵子が残っているかを調べます。ただし卵子の数と卵子の質は関連性がなく、AMH値が非常に低くても妊娠する場合もあります。卵巣年齢検査とも。
フーナーテスト
排卵期に医師の指示によるタイミングで性交をし、24時間以内に病院で腟内粘液と頸管粘液を採取し、精子の数や運動状態を調べます。時間指定での性交にとくに男性側の精神的ストレスもかかるので、検査を行わない医師も。
女性が受ける精密検査
腹腔鏡検査
子宮内膜症、卵管や卵巣の癒着、機能性不妊などと診断された場合に行います。腹部に小さな穴を何カ所か開け、腹腔鏡と呼ばれる内視鏡を入れ、卵管・卵巣・子宮の状態を調べます。異常があれば、その場で患部の治療をすることも。
MRI検査
磁気を利用して、体全体を詳しく検査します。不妊治療では、主に子宮筋腫の位置や大きさを調べます。また、卵巣嚢腫や卵巣チョコレート嚢胞の有無や、サイズの特定のためにも行います。
子宮鏡検査
子宮に内視鏡を入れ、子宮内膜や卵管の入り口にトラブルがないかを調べます。卵胞期に検査をし、ポリープ、子宮筋腫、子宮の奇形などを調べます。ポリープや筋腫が見つかれば切除します。小さければその場で切除することも。
染色体検査
採血による検査。年齢により染色体異常の割合は増加し、染色体に異常があると、排卵が正常に起きなかったり、流産を繰り返したり、染色体異常が赤ちゃんに引き継がれることも(ダウン症など)。
デリケートな問題なので、カウンセリングを受けた上で受けるかどうかの判断をする必要があります。
男性が受ける基本の検査
問診・触診・精液検査
初診は婦人科、問題があれば泌尿器科へ。睾丸の発育状況、性器の奇形、精索静脈瘤などを視診・触診し、精液検査を行います。数日間禁欲後、自宅か病院でマスターベーションをし、精液を2時間以内に病院に提出します。
★精子の動きを検査します
精液検査では精液の量や精子の数、運動率、奇形率などを調べます。また酸性度が高いと感染症の疑いがあります。白血球や赤血球が多いと、慢性病の可能性も。精子の運動率は一度の検査で判断できず、複数回行うことも。
男性が受ける精密検査
血液・ホルモン検査
採血をし、血液からホルモンの分泌状態を調べます。精巣の異常・陰嚢水腫など、精子をつくる能力があるかどうかがわかります。また糖尿病や肝臓病など、妊娠に影響を与える内科的疾患の有無も確認します。
超音波検査
精索静脈瘤の疑いがあるときなどは、専門医の手による超音波検査を行うことがあります。他にも精液の通り道が詰まっていないかを調べることもあります。手術をする場合は、対応可能な医療機関の数も少なくなります。
どんな治療をするの?~人工授精、体外受精、顕微授精~
医療機関や治療開始年齢、不妊の原因によっても治療方法は異なりますが、基本的な不妊治療の流れについてご説明します。
【治療開始前に知っておきたい】卵巣刺激
自然周期では、1度に排卵される卵子の数は1個。そこで卵子を複数採取するために、卵巣を刺激して、複数個の卵胞発育を促進します。服薬や注射によって行われます。
人工授精は、自然周期で採卵を行うこともありますが、卵巣刺激をして採卵をすることも。また、体外受精では卵巣刺激を行うのが一般的です。排卵誘発剤を使うことで、複数個の卵胞を上手に発育させてから採卵し、授精をします。卵巣刺激の方法は、施設によってもさまざまです。
経口剤を使用する低刺激法や、注射薬がメインとなる高刺激法など、それぞれに特徴があり、一概にどれがベストであるかは難しい問題ですが、効率重視の場合は高刺激法を用います。
<いろいろある>排卵の誘発法
自然排卵の場合は1サイクルで1個しか排卵されません。そこで、できるだけ多くの健康な卵子を採取するために、排卵誘発剤(飲み薬か注射)を使って卵巣に刺激を与え、人工的に排卵周期をつくります。卵巣刺激の方法として、現在はPPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)が主流になってきています。
●低刺激法
日本では海外に比べ低刺激法を行う施設が多く、強い刺激で効果が得られない場合や、卵子を採取する数をセーブしたい場合に行います。飲み薬の単独使用か、注射を加えます。
●自然周期法
排卵誘発剤を使わず採取する方法。体への負担は少なく、他の方法を試したあとに行う場合も。採卵1回あたりの妊娠率は他の方法よりも低くなります。
●高刺激法
強い刺激を与える方法。一般的なロング法、効き目の強い薬を使うアンタゴニスト法に加えて、ここ1~2年でPPOSという方法が、いっきに普及しました。PPOSは、黄体ホルモン剤(プログスチンなどの飲み薬)で排卵をコントロールしながら、卵巣を刺激していきます。
【いよいよ不妊治療スタート】人工授精(AIH/IUI)
タイミング法を何度か試しても妊娠しない場合、検査により人工授精のほうが妊娠の可能性が高いことが判明した場合はステップアップします。「人工」授精ですが、自然妊娠に近いものです。
軽度の男性不妊(精子の運動率や濃度が低い場合、性交障害など)の場合、また、原因がわからない不妊の場合も人工授精を試します。女性の年齢が高い場合、卵管が使えない場合、精子の状態が極端に悪い場合は、人工授精をせずに体外受精に進みます。
★基本的な治療法です
「人工授精」と聞くと、何かとても高度な治療に思えるかもしれません。しかし、採取した精液を人工的に子宮内に注入するという治療法なので、女性への体の負担も少なく、自然妊娠とあまり変わりません。近年の不妊治療では、とても基本的な治療法です。
人工授精の流れ
【1】3〜4日前: 排卵日の予測と人工授精(AIH)の決定 | 女性のみクリニックを受診。超音波検査で、卵胞の大きさや子宮内膜の厚さを測定し、排卵日を予測します。血液検査で、ホルモン値を測定する場合もあります。 |
【2】当日: 人工授精(AIH) | 排卵日に合わせて、人工授精をします。男性の精液を採取し、精子を洗浄・濃縮後、専用の注射器で子宮内へ注入します。 |
【3】数日にわたって: 黄体ホルモンの補充など | 排卵がない場合は、HCG注射や点鼻薬スプレーで、排卵を誘導する場合や、着床率を高めるために黄体ホルモンを補充する場合もあります。 |
<Q&A>人工授精の費用は?
人工授精手数料のほかに、超音波検査費用、排卵誘発剤の費用などがかかります。
検査結果や不妊の原因、子宮の状態、保険適用の有無、男性側の精子の状態によっても使う薬が異なるので一概にはいえませんが、1日あたり2万5000円~でしたが、保険でその3割負担となります。
不妊の原因に多い排卵障害とは?
排卵障害とは、排卵にかかわるホルモンが正常に分泌していないため排卵が正しく行われない状態です。排卵障害の原因には、病気が関係しているほか、無理なダイエットやストレス、先天的な原因の場合も。治療は、上記の排卵誘発剤を処方するのが中心になります。
●卵巣機能障害
卵巣に障害があると、女性ホルモンの一つ、エストロゲンが増加しません。エストロゲンは月経の終わりに子宮内膜を厚くしたり精子が通りやすいよう頸管粘液の分泌を促します。
●多嚢胞性卵巣症候群
卵胞が成熟せず排卵が起こらない病気。年齢を問わず、昔から多くみられる病気です。根本的な治療法はありませんが、排卵誘発剤の使用といったホルモン療法で対応ができます。
●高プロラクチン血症
母乳分泌を促したりするホルモンのプロラクチンが血中に増えると排卵がスムーズに起こりません。受精卵が着床しづらく、異常値の場合は薬で治療しますが薬が効かないことも。
●無排卵月経
月経のような出血はありますが、排卵していない状態。ホルモンが分泌されず、卵胞が育ちません。ストレスや無理なダイエット、加齢や内分泌疾患など、原因はさまざまです。
【流れを知っておこう】体外受精(IVF)または顕微授精(ICSI)
これまでの方法で妊娠が難しい場合は、卵子と精子を培養液内で受精して、体内に戻します。
不妊の原因によっては、最初から体外受精を行う場合も。
体外受精は、女性の年齢が高い場合や、卵管が詰まっていたり、精子の動きが悪い場合に行います。
培養液の中で、卵子1個あたりに約5万~10万個の精子を振りかけて入れ、精子は自力で卵子に到達します。採卵、受精後、翌日には顕微鏡で受精卵(胚)の確認ができます。採卵後約1週間培養器の中で胚は培養され、良質の胚を選び子宮内に戻します。ちなみに、胚を培養したまま胚移植する「新鮮胚移植」よりも、胚培養のあとに胚凍結、胚融解というプロセスを経る「凍結融解胚移植」のほうが主流となっています。
移植に使わなかった胚は、凍結したまま次回の妊娠時に使用する場合もあります。
【体外受精の流れ・1】卵巣刺激
自然周期での排卵を待つこともありますが、質のよい卵子を複数育てるために、排卵誘発剤を使うのが一般的です。近年は、生理が始まってすぐ飲み薬を使い続けるPPOSが主流です。
【体外受精の流れ・2】採卵
医師が経腟超音波検査で卵胞の状態を確認し、十分に育ったら専用の針を腟から卵巣に注入して卵胞液と卵子を吸引します。男性は、精液を採取し運動性のよい精子を選別します。
採卵の流れ
●生理3日目
採卵周期(卵巣刺激)開始。採血とエコーで検査をします。刺激方法の種類によって、内服薬、注射薬が処方されます。
●生理6~8日目
採血とエコーで、卵胞の発育をチェック。
●生理9~12日目
排卵日を決定。
●採卵36時間前
HCG注射または点鼻薬をし、卵子を成熟させます。
●採卵当日
一例として8時半来院、9時採卵。多くの場合麻酔を行います。採卵後は2時間安静にし、その後受精や凍結についての相談をします。
●採卵翌日受精の連絡が来ます。
●採卵後7日目
今回の採卵、胚についての結果報告をします。胚は凍結をし、次周期以降に移植をします。
【体外受精の流れ・3】受精
体外受精の場合は、培養液を入れたシャーレに卵子を入れます。1個の卵子に約5万~10万個の精子を振りかけます。顕微授精の場合は、1個の精子を卵子の細胞質の中に注入します。
【体外受精の流れ・4】胚培養
約3~12時間、受精を待ちます。受精すると受精卵(胚)の細胞分裂が始まります。2~6日かけて4~8分割胚または胚盤胞の状態になるまで培養液の中で培養し、原則凍結保存をします。
【体外受精の流れ・5】胚移植
凍結した胚を融解し、子宮に移植します。新鮮な胚を移植することもありますが、採卵直後は、子宮内膜の状態が劣化しているため、状態の回復を待ち凍結融解胚移植をするのが主流です。
胚移植までの流れ
●生理2〜3日目:移植周期 Start【採血】【エコー】
(1)ホルモン補充周期
ホルモン剤を用いて内膜を厚くする方法。
移植日をコントロールすることができるため、仕事をしている方に適しています、また、ホルモン補充は、胎盤が形成される妊娠後8〜10週まで続ける必要があります。
(2)自然周期
自然の月経周期で行うため、原則ホルモン補充は必要ありません。排卵日を確定するために数回来院する必要があります。
●生理12日目頃:移植日決定【採血】【エコー】
胚盤胞でSEET法(※1)を行う方はSEET日も決定。
●移植2〜3日前:SEET法
内診室にて、培養液を子宮に注入します。
●移植当日:移植
採卵室にて行います。
●移植後8~11日目:妊娠判定
判定は移植した胚のステージによって異なります。
※1 SEET法
受精卵(胚)が胚盤胞に成長する際に分泌される伝達物質が、子宮の着床準備にかかわっています。そこで胚培養をし、胚盤胞を育てて凍結し、このときに受精卵(胚)から分泌されたエキスも同時に凍結します。胚移植は、エキスを先に子宮内に注入しその数日後に胚盤胞を子宮に届けることで着床率を上げるとされています。
【体外受精の流れ6】妊娠判定
胚を移植後8~11日で妊娠が成立したかどうかを判定します。血液検査や超音波検査などで調べます。妊娠しなかった場合は、再び体外受精や顕微授精をするか検討をします。
【体外受精をもっと知るための】卵子と胚の成長
採取した卵子の状態、受精卵(胚)は、どのように成長していくのでしょうか。
体外受精のリスクを含めて紹介します。
採卵した日の卵子
第1極体(核)が出た卵を成熟卵といい、体外受精や顕微授精に使用できます。
第1極体が出ていない卵は未成熟卵といい、体外受精や顕微授精に使用できません。
体外受精または顕微授精→受精確認
採卵の翌日に受精確認を。卵子と精子からの前核(PN)が2つ確認できたものを正常受精といい、前核が確認できないものや、前核が2つ以外のものは原則用いません。
未受精卵は前核が確認できないもの。異常受精は前核が2つ以外のもの。
培養→受精後の胚の成長→移植
受精後、胚は2日目には4細胞、3日目には8細胞に分裂し、どんどん細胞を増やしていきます。4日目には細胞同士がくっつき桑実胚になり、5日目には赤ちゃんになる部分と胎盤になる部分が形成される胚盤胞になります。ここまで発育できるのは40~50%です。胚凍結は通常、3日目か5日目に行われます。融解後は2日程で孵化(ハッチング)をし移植、着床を確認します。
体外受精・顕微授精についてのQ&A
不妊治療の最終手段でもある体外受精と顕微授精。
経済的、身体的に負担が大きいので、リスクなどもよく知っておきましょう。
【Q】顕微授精との違いは?
【A】体外受精の方法の1つで、顕微鏡で確認しながら卵子に直接精子を注入する方法です。精子の数が少なかったり運動率が低い場合や、無精子症や射出障害で精子が採取できない場合などに有効な方法です。現時点では、不妊治療の最終段階です。
【Q】費用は?
【A】体外受精は、これまでは1回20万~40万円が目安で、排卵誘発剤、胚凍結の費用などが別途かかりましたが、2022年4月から保険適用で3割負担となりました。年間10万円を超える医療費は確定申告をすると還付金がある場合があるので、積極的に利用しましょう。
【Q】人工授精から体外受精に進むタイミングは?
【A】体外受精でないと妊娠は難しいと判断された場合は、最初から体外受精を行いますが、リスクがゼロではないので医師によってタイミングの判断は異なります。女性の年齢が高い場合、人工授精を2~3回行ったあとに切り替えるのが一般的。
【Q】受精卵の凍結とは?
【A】現在は、卵子から胚盤胞まで凍結することが可能です。理論上は半永久的に保存が可能で、融解後の胚の生存率は約95%です。胚移植に用いなかった良好の受精卵(胚)も、原則凍結保存します。凍結胚で妊娠をしても、先天異常のリスクが高まることはありません。
【Q】治療をやめるタイミングは?
【A】40歳以上で、体外受精を3~4回行っても、いい胚盤胞ができない場合は考え時です。治療を続けて妊娠できる確率は0%ではありませんが、その低い確率の中に自分が該当するかはわかりません。不妊治療は体力面・経済面だけでなく、精神面でも負担がかかります。「やめる」のではなく、「やすむ」という選択肢も含め、パートナーと相談しましょう。
【Q】さらに進んだ治療法は?
【A】胚を培養器から取り出さずに良好胚盤胞か見分けるシステム「タイムラプス」と、着床前染色体異数性検査の「PGT-A」が近年注目を集めています。PGT-Aは染色体の数が正常な胚盤胞を移植することで妊娠率の向上や流産率の低下が期待されますが、日本では臨床研究中です。
●SEET法
受精卵(胚)が胚盤胞に成長する際に分泌される伝達物質が、子宮の着床準備にかかわっています。そこで胚培養をし、胚盤胞を育てて凍結し、このときに受精卵(胚)から分泌されたエキスも同時に凍結します。胚移植は、エキスを先に子宮内に注入しその数日後に胚盤胞を子宮に届けることで着床率を上げるとされています。
●アシステッドハッチング法
ハッチングとは、孵化という意味で、孵化をアシストする治療法です。受精卵のまわりを囲んでいる透明帯という殻の一部を薄くしたり切れ目をつけます。凍結胚の場合は、透明帯が硬くなるともいわれています。殻が硬いと、なかなか透明帯から出ることができず、着床が難しくなるので、孵化しやすくする処理を行います。
体外受精のリスク
体外受精のさまざまなリスクについて説明します。自然妊娠でも同様に起こるリスクもあります。
OHSS
卵巣過剰刺激症候群。排卵誘発剤が原因で発症します。排卵誘発剤による刺激が強すぎると、卵巣が大きくなり腹水がたまり、吐き気や下痢などの症状がでます。リスクのある人には、低刺激法などを行います。
異所性(子宮外)妊娠
もともと全妊娠の0.5~1.5%に発生しますが、近年、異所性(子宮外)妊娠の確率が高くなっています。一方、胚盤胞まで育ててから移植する胚盤胞移植の場合は、初期胚移植よりも異所性妊娠の確率が低くなっています。
多胎妊娠
近年は、体内に戻す受精卵(胚)の数が2個までに制限されており、三つ子以上の妊娠は少なくなりました。多胎妊娠は流産、死産、低体重児のリスクが高くなります。
自然妊娠でも同様に起こるリスク
流産・死産のリスクは、体外受精も自然妊娠も変わらず15%前後。妊娠22週未満であれば流産、22週以降に子宮内で胎児が死亡をすると死産となります。また、受精卵の絨毛細胞だけが、果物のぶどうのような形で異常に増える胞状奇胎の発生率は、0.2%前後です。
それ以外のリスク
治療には卵巣刺激や、子宮内膜症の治療、高プロラクチン血症の治療など、さまざまな薬が使われる場合もあります。副作用によるめまい、のぼせ、ひどい場合は呼吸困難も。ほかには採卵時の出血や感染などの可能性もあります。
▼男性の不妊治療についての記事はこちら
▼【不妊治療】どう乗り越えた?振り返り体験談についての記事はこちら
監修/藤原敏博先生
監修/永尾光一先生
構成・文/長谷川華
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
参考/『妊活たまごクラブ 初めての不妊治療クリニック受診ガイド 2022-2023』