不妊治療の「人工授精」とは? 専門医が解説 まずはベーシックな知識を
不妊治療をスタートさせてみよう!と決断したカップルに、まずは基礎的な不妊治療の説明をします。
前回の記事では「不妊治療の検査&タイミング法」についてご紹介しました。
今回はその次の基本的な治療「人工授精」について、東京医科大学 久慈直昭先生に解説していただきます。
「2人の初めての不妊治療 受診スタートガイド」 #3
※参考:「妊活たまごクラブ 不妊治療クリニック受診ガイド 2020-2021年版」
「人工授精」は自然妊娠に近くリスクの少ない治療
女性の年齢が高い場合は、早めに人工授精を行います。精子の運動率が低かったり、精子の数が少ない場合にも有効です。採取した精液を子宮に注入します。自然妊娠に近い形で体への負担が少ない方法です。
人工授精は、精液を採取し、専門の注射器で子宮の中に注入します。名前は「人工」ですが、実際は自然妊娠に近く、不妊治療では、まず試したい治療法です。
人工授精では、排卵誘発剤やホルモン剤を使いますが、これらの投与も、赤ちゃんに何か異常が現れたり、母体に負担がかかることもなく安全な治療といわれています。
ただし、排卵に合わせて男性が精子を採取するので、男性側が心理的に負担を感じる場合も。
1回目がいちばん妊娠率が高くなり、回数が進むと低くなるので2~3回で妊娠しない場合は次の方法に進んだほうがいいでしょう。
人工授精は基本的な治療法
人工授精と言うと、何かとても特別高度な治療に思えるかもしれませんが、採取した精液を人工的に子宮内に注入するという治療法。近年の不妊治療では、とても基本的な治療法です。
人工授精の流れ
【1】排卵日前後に、採取した精子を子宮へ
超音波検査で、排卵日を予測。その前後に病院で精液を採取します。自宅で採取する場合は、採取後2時間以内に病院へ。精子を洗浄・濃縮後、専用の注射器で子宮へ注入します。
【2】排卵の有無など子宮の状態を確認
予測した排卵日のあとに、超音波検査をして、排卵が正常に行われているかをチェックします。黄体ホルモンが正常に分泌され、受精しやすい子宮内の状態かどうかも調べます。
【3】妊娠判定の検査を行う
月経の予定日が過ぎたら、妊娠検査薬で妊娠の有無を調べます。超音波検査、尿検査、内診で判定します。1回ごとの成功率は5~10%といわれています。複数回の挑戦が一般的。
【Q&A】人工授精にかかる費用は?
人工授精手術料のほかに、超音波検査費用、排卵誘発剤の費用などがかかります。
これまでの検査結果や、不妊の原因、子宮の状態、保険適用の有無、男性側の精子の状態によっても、使う薬が異なるので一概にはいえません。
【Q&A】次に進むタイミングは?
人工授精を3~4回行い、妊娠しない場合は次の治療へと進みます。回数が進むごとに成功率が下がりますが、年齢が若い場合は6~7回で妊娠が成立する人もいます。ただし年齢が高い場合は、早めに次のステップへの移行するのがおすすめです。
排卵障害について
排卵障害とは、排卵にかかわるホルモンが正常に分泌していないため排卵が正しく行われない状態。排卵障害の原因には、病気が関係しているほか、無理なダイエットやストレス、先天的な原因の場合も。排卵障害の治療は、排卵誘発剤を処方するのが中心になります。
●卵巣機能障害
女性ホルモンの一つ、エストロゲンが増加しないのが原因。エストロゲンは月経の終わりころ、子宮内膜を厚くしたり、精子が通りやすいよう頸管粘液の分泌を促したりします。
●高プロラクチン血症
母乳分泌を促したりするホルモンのプロラクチンが血中に増え、受精卵が着床しづらくなる病気。異常値の場合は薬で治療が可能ですが、潜在性の場合は薬が効かないことも。
●多嚢胞性卵巣症候群
卵子が成熟せず排卵が起こらない病気。年齢を問わず、最近多くみられる病気です。ホルモン療法を行いますが、特効薬はなく、ほかに原因があるケースも多くみられます。
●無排卵月経
月経のような出血はありますが、排卵していない状態。ホルモンが分泌されず、卵胞が育ちません。ストレスや無理なダイエット、加齢や内分泌疾患など、原因はさまざまです。
■監修:東京医科大学 教授 久慈直昭先生
■東京医科大学 教授 久慈直昭先生
慶應義塾大学医学部卒。現在、東京医科大学にて、生殖医学、不妊症を専門とする。日本産科婦人科学会専門医、生殖医療専門医、臨床遺伝専門医。共著に『今すぐ知りたい!不妊治療Q&A』(医学書院)。
■イラスト/多田玲子
■取材・文/長谷川華