「妊婦健診にある肝炎検査ってなんですか?」肝炎のスペシャリスト考藤(かんとう)先生教えて!
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インターネットで行ったアンケートでは、妊婦健診で肝炎の検査があることを知らない人は約55%※1。健診を受けていながらも何を検査されているのかを知らない妊婦さんが半数いることがわかりました。肝炎は国内最大級の感染症と言われています。自分の健康はもちろんのこと、家族の健康のためにもここでしっかり肝炎について覚えておきたいものです。
そこで今回、3回特集「プレママ・ママ、パパやパートナーのためのとても大切な肝炎のお話」をスタート。1回目は、肝炎の専門医である考藤達哉先生に、妊婦健診の項目である肝炎検査について、また肝炎について教えていただきました。
※12022年 6月実施のインターネットアンケート(回答者 妊婦さん n=193)
妊婦さんこそ注目!まずは簡単なクイズに挑戦!あなたは何問わかりますか?
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Q1.肝炎は出産時に母親から子どもに感染するリスク(母子感染)がある。
〇 or ×
Q2.肝炎はピアスや入れ墨で感染することがある。
〇 or ×
Q3.肝炎は会話や食事、トイレなどの日常生活では感染しない。
〇 or ×
Q4.体の不調や症状がとくになければ肝炎かどうか気にする必要はない。
〇 or ×
そもそも肝炎ってどんな病気?だれもがかかるの?
いかがでしたか? 肝炎を耳にしたことがある人も、具体的にどんな病気かまでは知らない人も多いはず。クイズの解答とともに、考藤先生に解説していただきます。
―まず、肝炎とはどういう病気なのでしょう?
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考藤先生(以下敬称略) 肝炎はA型、B型、C型、D型、E型などのウイルス感染のほか、アルコール、脂肪肝など、いくつかの原因があります。なかでも、問題になっているのがB型肝炎、C型肝炎です。感染症は一時的にかかっても、治ることが多いのですが、この2つのウイルス性肝炎は、ある一定の割合で、ずっとウイルスが残り慢性的な感染状態になる方がいます。“キャリア”といいますが、そのキャリアのなかから肝臓が悪くなる、たとえば肝硬変あるいは肝臓がんになる方が一定数います。将来的に肝臓の病気になるリスクが高いのです。すでに治療をしている方も含めてですが、日本ではB型肝炎、C型肝炎合わせて約200万人のキャリアがいるといわれており、肝臓がんの原因のおよそ7割以上はB型肝炎、C型肝炎が占めています。
―感染症ということですが、どういう感染経路があるのか、気をつけたいことをクイズの解答とあわせて教えてください。
Q1.肝炎は出産時に母親から子どもに感染するリスク(母子感染)がある。
答え 〇
考藤 B型、C型、両方とも、血液を介してウイルスが体に入り、一定の割合で感染が成立します。昔は予防接種の注射針を変えずに複数人に打ったり、注射器を共有したりしたことなどからの感染もありましたが、今はもちろんありません。現在の感染機会としては、B型肝炎はママから赤ちゃんに感染する、母子感染です。C型肝炎も母子感染が起こる可能性がありますが、その発生率はB型肝炎よりはるかに低いとされています。妊婦健診で肝炎検査を行うのはこれを防ぐ目的があります。ママが妊婦健診でB型肝炎のキャリアとわかると、生後すぐ赤ちゃんにはワクチンとガンマグロブリンという薬でウイルスが根づかないようにします。この対策が始まってから、B型肝炎の母子感染はほとんどなくなりました。C型肝炎のママから生まれた赤ちゃんには、ワクチンなどの処置は特に必要ありません。
Q2.肝炎はピアスやタトゥーで感染することがある。
答え 〇
Q3.肝炎は会話や食事、トイレなどの日常生活では感染しない。
答え 〇
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考藤 B型肝炎で多いのは母子感染ですが、ほかにもリスクはあります。B型肝炎、C型肝炎ウイルスが含まれている方の血液が体内に入ると、感染が成立する可能性は高くなります。B型肝炎、C型肝炎ともに性交渉で感染する可能性があります。夫婦のうちどちらかがB型肝炎またはC型肝炎の場合、感染を予防するためにはコンドームを装着するなどの対処が必要でしょう。その他のリスクを避ける方法としては、具体的には、かみそり、電動シェーバー、つめ切りなど、皮膚を深く切ってしまう恐れのあるものを共有するのは避けましょう。また、あまりないとは思いますが、歯ブラシの共有もやめましょう。タトゥーやボディーアート、ピアスなども不適切な管理では感染リスクがあります。衛生的で対策をしっかりしている施設を選びましょう。
それ以外の、日常生活で一緒に食事をしたり、おふろに入ったり、トイレを共有したりすることは、まったく問題ありません。
Q4.体の不調や症状がとくになければ肝炎かどうか気にする必要はない。
答え ×
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考藤 知らない間に肝炎ウイルスに感染していることもゼロではありません。肝臓は“沈黙の臓器“といわれていて、肝炎が進んで肝硬変、肝臓がん、といった重い状態になると自覚症状が現れますが、その手前の状態では、ほぼ自覚症状がありません。自分は元気だと思っていても、調べてみると実は肝炎にかかっていたということもなくはないのです。ですから、肝炎検査の機会があれば、必ずそれを受けていただきたいと思います。
知らない間に感染しているかもしれない⁉ どうすればわかるの?
―知らない間に感染しているかも、と聞くと不安です。妊婦さんは健診で肝炎検査を受けられますが、パートナーや家族は肝炎検査を受けられますか?
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考藤 妊婦健診以外に検査を受ける機会として、まず40代以上の方で市区町村が実施する肝炎ウイルス検査を受けていない方には、市区町村から検査の案内が届きます。その機会に無料、または少額の負担で検査を受けることができます。また、職場で健康診断の検査項目に肝炎ウイルス検査が入っている場合もあります。ただ、全職場では行われていないので、確認する必要があります。それ以外に、地域の保健所でも検査を提供しています。保健所における検査はすべて無料で、年齢制限はありません。ほかにも、手術歴があれば手術前に必ず病院で肝炎ウイルス検査が行われています。
―肝炎検査を受けずに、ワクチンを接種する選択をしてもいいでしょうか?
考藤 まず、B型肝炎はワクチンがありますが、C型肝炎にはありません。仕事柄、血液に触れる可能性のある医療従事者、警察官、消防士といった職業の方は、B型肝炎関連検査を受けて、キャリアでないこと、B型肝炎ウイルスに対する抗体(HBs抗体といいます)がないことを確認して、B型肝炎ワクチンをうつことが推奨されています。夫婦のうちどちらかがB型肝炎のキャリアで、片方がB型肝炎の抗体を持っていない場合は、感染を予防するためにB型肝炎ワクチンをうつことが推奨されます。
検査結果がわかったら? もし陽性だったらどうすればいいのでしょうか?
―妊婦健診の肝炎検査の結果はどうやってわかるのでしょうか?
考藤 妊娠初期に行われる血液検査の項目の中に、HBs抗原、HCV抗体という記載があります。HBs抗原がB型肝炎、HCV抗体がC型肝炎の感染を示すものです。-(マイナス)であれば陰性、+(プラス)であれば陽性で、キャリアであることを意味します。HCV抗体陽性の場合は、確認検査としてHCV RNA検査が必要となります。検査の結果が陽性か陰性か、主治医の先生から説明があるはずですが、ママ自身も自分の結果がどうだったのか、関心を持っていただきたいと思います。検査の結果が陰性と覚えていれば、その後、肝炎ウイルス検査を受けなくても済みますから、意識しておくといいでしょう。
―もし陽性、キャリアだとわかったら?
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考藤 先ほどもお話したように、妊婦健診で妊婦さんがB型肝炎のキャリアとわかると、赤ちゃんには生後すぐにワクチンとガンマグロブリンという薬で感染を防ぎます。一方で、C型肝炎のキャリアの場合は、赤ちゃんに対してワクチンで対処できないため、小児科で経過を見ることになります。ただC型肝炎の母子感染は非常に少ないので心配しすぎることはありません。
注意したいのは、お母さん自身の体です。症状が出ていないといっても、産後、肝臓専門医のいる病院で精密検査を受け、実際の状態を調べるべきです。肝炎に関する精密検査も、手続きは必要ですが初回は無料で受けられます。今は医学が進歩しましたので、B型、C型ともにウイルスを排除したり、増殖を抑える非常にいい治療薬が出ています。飲み薬だけで副作用も少なく、治療できるので、キャリアだとわかっても悲観することはありません。
家族の健康が守れる肝炎検査。ぜひ一度は受検を!
―いい治療薬があるというのは安心です。症状が重くなる前の早期発見、治療が大切なんですね。
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考藤 肝炎ウイルスに感染しているかどうかは肝炎検査を受けないとわかりません。ある調査では、肝炎ウイルス検査を受けたことがない人が国民の3~4割程度いることもわかっています※2。無料の検査を1度受ければ、感染の有無がわかりますし、もし仮に感染しているとわかっても、適切な治療で、それ以上重い病気に進むリスクがほぼなくなります。そのためには、肝炎ウイルス検査で早期発見する必要があります。赤ちゃんを育てるとき、周囲の大人が健康であることも非常に大切です。もしパートナーや家族に肝炎ウイルス検査を受けていない方がいたら、ぜひすすめてほしいと思います。
※2平成29年度 肝炎検査受検状況実態把握調査(国民調査 考藤班)
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