2023年4月に改正された母子健康手帳。新しく変わった3つのポイントとそこに込められたメッセージとは【厚生労働省担当者に聞く】
2023年4月から母子健康手帳が新しくなります。改正されるのは、11年ぶりです。どこがどんなふうに変わったのでしょうか? 新しくなったポイントを、今回の様式変更を担当した厚生労働省子ども家庭局母子保健課の吉川裕貴さんに聞きました。
(改正ポイント1)子育て世代包括支援センターなどへの相談を促す記載を追加
今回の改正では、妊娠・出産・育児に不安を感じる場合は、子育て世代包括支援センターなどに相談するように促す記載が追加されました。
「妊娠・出産・育児に関して、悩んだり不安になったりしている人は少なくないと思います。そういった方々に適切な支援が届いていない場合があることが課題でした。そこで、『何か困ったことがあったら、子育て世代包括支援センターに相談してください』と、母子健康手帳の中でも働きかけを行うようにしました。また、産後ケアや子育て世代包括支援センターなどの利用記録を記入するページも設けました。これらは、今回の改正の大きなポイントです」(吉川さん)
記録を残すことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
「妊産婦さんの支援やサポートには、さまざまな分野の専門家がかかわりますので、支援の記録を残すことで情報が共有され、より一人一人に適した支援を行えるようになると考えています。
たとえば、新たにサポートを担当する人がこれまでの記録を見て、『前回は○○を行っているから、今回はこのような支援を行ってみよう』などと考え、サポートを行えるようになれば、支援やサポートの質が高まっていくのではないかと期待しています。
また、記録することで、妊産婦さん自身が体や心の変化に気づくことも、大切だと考えています」(吉川さん)
母子健康手帳は、妊娠中はママ自身の健康を記録する手帳して利用するけれど、出産後は子どもの成長や健康の記録をつけるものと考えがちです。
「母子健康手帳と言いながら、『妊婦子ども手帳』になっているのではないかと、『母子健康手帳、母子保健情報等に関する検討会』でも指摘されました。母子健康手帳は出産後のママの健康維持にも役立つものでなければいけないので、そのサポートにつながる欄を設けました。
また、『自治体が相談に乗ってくれると聞くけれど、どこに相談すればいいのかわからない』という意見もあったので、改正後は、子育て世代包括支援センターなど相談窓口の連絡先を、各自治体が記載してから母子健康手帳を渡すように見直しを行いました」(吉川さん)
(改正ポイント2)パパや家族が記載する欄が増加
子どもの成長発達を記載するページには、「医療機関、子育て世代包括支援センター等で参考にするので、ていねいに記入しましょう」という注釈がつきました。この注釈を追加した理由を教えてください。
「子どもの成長発達の目安の記録については、『なぜ記載しなければいけないのかわからず、不安になる』という声がありました。でも、健診や診察の場ではこの記載がとても重要な情報となり、わが子の健やかな成長のための支援につながっていくものでもあります。そのことを知ってほしいと思い、この一文を添えました。また、続けて『気になることがあれば、医師や保健師、助産師などに相談しましょう』と書いているのは、『お子さんのことで少しでも不安を感じたときは、一人で抱え込まないでください。近くに頼れる専門家がいますよ』と伝えたかったからです」(吉川さん)
「父親や周囲の方の記録」という、ママ以外の家族が自由に記録できるページが増えました。ママ以外の人が母子健康手帳に記録を残すことで、どのようなことが期待できますか。
「妊娠中に記録する欄として『妊婦自身の記録』という欄がありましたが、ここは主にママが記録するケースが多いかなと思います。そこで、パパや同居している家族にも、お子さんとのエピソードや、その時期に感じたことなどを記録してほしいと考え、自由に書き込めるページを設けました。
書くためには子どものことをよく見ないといけないし、よく見ると新たな気付きがあるはず。そんな機会が増えると、子育てが楽しくなるのではないでしょうか」(吉川さん)
子どもが小学校に入ると、母子健康手帳を開くことは少なくなるイメージでしたが、小学校1年生~18歳までの健康状態の記録欄が追加されました。
「妊娠・新生児期・乳幼児・思春期まで、継続して健康の記録ができる手帳でありたいと考え、身長、体重、視力、むし歯、特記事項について、18歳まで記入できるようにしました。中学生、高校生になったお子さんが自分の成長記録として確認したり、大人になってから子ども時代の健康記録として使ったりすることもあるかもしれません。お子さんの成長に寄り添う手帳でありたいと考えています」(吉川さん)
(改正ポイント3)母子健康手帳のデジタル化を推進
母子健康手帳のデジタル化の推進も、今回の改定改正の大きなポイントになっているそうです。
「この10年の社会情勢でとくに大きく変わったのは、デジタル化の進展でしょう。2020年度以降、マイナポータルを通じて母子健康手帳に記録される情報の一部は、デジタルでの閲覧ができるようになっていましたが、さらに、2023年度以降は、母子健康手帳にある育児などの情報は、主にウェブサイトで電子的に行うことになります」(吉川さん)
新しい様式の母子健康手帳は、厚生労働省のウェブサイト「母子健康手帳情報支援サイト」にアクセスできる二次元コードなどがつくことが想定されています。
「今回の改正では、母子健康手帳の使い勝手を高めるために、紙で掲載する情報を絞り込み、ページ数を減らしました。掲載できなかった情報はウェブ上で閲覧してもらえるようにしたのです。このサイトはだれでもアクセスできますので、最新の育児情報をおばあちゃん・おじいちゃんなどの家族とも共有できます」(吉川さん)
お話・監修/吉川裕貴さん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
「母子健康手帳はその時々の社会情勢や育児環境に適した情報を提供し、母子の健康を守りたいという、関係者の思いが詰まっています。今回改正に携わったことで、そのことを強く感じました」と吉川さん。約80年の歴史がある母子健康手帳は、ママと子どもの健康を守るとても大切なもの。そして子どもの成長発達の記録をつけることは、ママ・パパの子どもへの思いをつづることでもあるでしょう。
●記事の内容は2023年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。