「水つわり」「熱つわり」「肝つわり」、あなたはどれ?
妊娠初期に、つわりに悩まされる人は多いもの。吐いたり、気分が悪くなる人が多いですが、食べないと気持ちが悪くなる「食べづわり」や偏食、頭痛など、人によって症状はさまざまです。
この症状の違いってどこからくるの? そんな素朴な疑問に、東洋医学の観点から助産師さんが答えてくれました。
妊娠・出産に大切な「腎(じん)」「肝(かん)」「脾(ひ)」
ひと言で「つわり」といっても、症状はいろいろ。つわりの症状って、体質などのタイプと関係があるのでしょうか?
「東洋医学の考え方をもとに整理すると、『水つわり』『熱つわり』『肝つわり』に分けられます。これは、東洋医学で妊娠・出産に大切とされる3つの臓腑『腎』『肝』『脾』との関連性によって、つわりを大まかに3つのタイプに分類したものなんです」と、芥川バースクリニックの助産師・鳥越敦子さん。
「東洋医学は、陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)と臓腑(ぞうふ)・経絡(けいらく)説という理論で体系化され、人の体は『五臓六腑』という言葉で分類されています。
そのなかで、心(しん)、肝(かん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)を五臓といいます。
ちょっとわかりにくいのですが、これらの用語は、『心臓』『肝臓』『腎臓』など臓器そのものを指すのではなく、その臓器が兼ね備えている機能や役割も含め、 かつ、“気”の通り道である経絡とも関連した意味として用いるのだそうです」
「腎・肝・脾」には、どんな働きがあるの?
では、妊娠・出産に大きな役割を持つ3つの臓腑「腎・肝・脾」の役割を見てみましょう。ママの体や赤ちゃんの成長・発達に与える影響も知っておくと安心ですね。
「腎」:元気のもととなるエネルギーを作ります
妊娠期において、腎はおなかの赤ちゃんの成長や発達に関係しているといわれています。腎の働きが低下すると、腰痛、疲労、冷え症、メンタル面では不安感・恐怖感を抱くと考えられています。
「肝」:血を作る働きをします
妊娠中は赤ちゃんを育てるために多くの血を必要とするため、肝に負担がかかりやすいと考えられています。肝はストレスの影響を受けやすい臓腑であり、肝の働きが低下すると、目の疲れ、関節の動きが鈍くなるといった不調が現れやすいといわれます。また、各器官が円滑に機能するように働きかけます。乳汁の生成にも関与しています。
「脾」:飲食物の消化・吸収を司ります
おなかの赤ちゃんに十分に栄養が行きわたるように運搬する作用も担っています。冷たいものや油っこいものを多食すると、脾の働きが低下すると考えられています。
東洋医学では、つわりも“未病”として対処します
西洋医学の概念では、妊婦さんの健康状態を血液検査や尿検査などのデータに基づいて判断します。そのため、検査結果が正常なら「健康=つわり」、異常があれば「病気=妊娠悪阻」という二極化になります。すなわち、自分では「体調が悪いのにな…」とか「つらいな…」と感じていても、極論すれば、検査データに異常がなければ病気(異常)ではないのです。
一方で、東洋医学の概念では、「なんか変だな~」と自分自身が感じる状態、病気に至る前の段階を“未病”と捉え、この状態のうちに対処するそうです。
また、心身一如(心と体は分けず一体として見なす)の医学ともいわれており、感情の過不足が体の症状としてあらわれたり、反対に、体の機能がスムーズに働かないために感情が乱れてイライラしたり、くよくよ考え過ぎてしまうのだと捉えられています。
妊婦さんの元々の体質によって負担となる症状は様々ですが、3つの臓腑「腎」「肝」「脾」との関連性により、つわりを大まかに3つのタイプに分類したものが、「水つわり」「熱つわり」「肝つわり」です。
なお、この分類は正式な東洋医学の用語ではなく、東洋医学の考え方にも基づき、助産師・鳥越敦子さんが整理したものです。
それでは、タイプ別の特徴を見ていきましょう。あなたはどれにあてはまりそう?
「水つわり」「熱つわり」「肝つわり」の傾向と対策は?
だるい、食べられない・飲めない「水つわり」
「水つわり」は「腎」と「脾」に関連があるつわりです。
【どんな人がなりやすい?】
●体の冷えにより血流が悪くなり、水分の代謝がうまくいかず、むくみやすい人
●常に体が重だるく疲労感が抜けにくい人
●気圧・天候によって体調が悪くなりやすい人
●もともと虚弱体質の人
【症状の傾向は?】
体がだるい、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、背中が寒い、水気のあるものを受けつけず水でも吐いてしまう、のどは渇くが飲みたくない、食欲不振、体重減少などが挙げられます。
【対策は?】
「水つわり」を楽にするには、
*冷たいものは控え温かいものをとる
*しょうがなど、体を温める食材をとる
*シャワーではなく入浴を心がける(足浴・手浴はオススメです)
*外から冷やさないように靴下・腹巻き等を活用する
*正しい姿勢と呼吸法を活用し、体の中から代謝を高める
*体調のいい時にはウォーキング等で体を動かす習慣を作る
などがおすすめです。
しかし、症状の程度によっては、早い段階での内服あるいは点滴加療が有効なケースも多々あります。そのため、治療が必要なレベルになる前のセルフケアとして、自分の体の声に耳を傾け“未病”の時に手を打つことが大切です。
特に、ここで挙げた対策は、つわりの時期を乗り越えた後も出産・母乳育児に至るまでとても重要なポイントとなるので、体が本来持っている自然治癒能力を高める最善策として活用しましょう。継続は力なり!の気持ちで意識できると、女性のライフサイクルにとっていいこと尽くしになるかもしれません。
食べないと気持ちが悪くなる「熱つわり」
「熱つわり」は、胃腸をはじめ「脾」や「肝」にも影響が出るつわりです。
【どんな人がなりやすい?】
●胃腸が弱っている人
●暴飲暴食の傾向があった人
●生ものや冷たいものを食べすぎる傾向があった人
●刺激物(辛いものや脂っこいもの)が好きな人
●緊張が強く発散できずに、内に秘めるタイプの人
【症状の傾向は?】
消化器系の症状では、胃液が上がってきて口が酸っぱい、胸やけ、なんとなく喉や口が渇いて冷たいものを飲んだり食べたりすると楽になる、空腹感が強く出やすくお腹がすくと気持ちが悪くなる、便秘、げっぷが多くなる、などが挙げられます。
そうした症状が出るメカニズムとしては
*冷たいものの食べすぎによって、冷えた消化器官を温めようとする自然の摂理がはたらく ⇒ (熱)
*胸に秘めた想いを発散できずに食に走る結果、胃酸が増加し不快感が出る ⇒ (炎症)
このような症状を緩和させようと冷たいものを欲するため、さらに胃腸の機能が弱まる、といった流れです。この流れから悪循環が生じ、ひいては、「食べづわり」につながることも推測されます。
重要なポイントは、「熱を取ること」と「体を冷やすこと」とは全く別ものである、という認識をもつことです。
【対策は?】
*少量ずつ小分けの食事で様子をみる
*冷たいものをとりたい時には、口の中の熱を取るイメージで少量ずつ摂取し、一気飲みなどは極力避ける
*半身浴でリラックス
*腹式呼吸を活用し、自律神経を整える
*体調のいい時には、ウォーキング等で体を動かす習慣を作る
そして何よりも大切なのは、一人で抱え込んで我慢しすぎないことです。
二日酔いや船酔いのようにスッキリしない「肝つわり」
「肝つわり」は「肝」をはじめ「腎」や「脾」をも巻き込む可能性があるつわりです。
【どんな人がなりやすい?】
*肝臓が疲れている人
*忙しい妊婦さん
【症状の傾向は?】
非常に大切なことを意味する「肝心要(かんじんかなめ)」という言葉があるように、ストレスと関係が深いのが「肝」と言われています。妊娠前からの偏った食生活や蓄積した疲労、日頃の不摂生などから肝臓に疲れがたまり、カラダの毒素を分解・代謝するパワーが低下することで起こります。
また、「肝」は、全身の機能を調節し消化吸収や血流を正常に保つ手助けを担うだけではなく、自律神経とも深く関連しています。
そのため、消化器系に影響すれば、胸やけ・吐き気・嘔吐・食欲不振・下痢・胃痛など、自律神経系に影響すれば、めまい・頭痛・なんとなくイライラする・なんとなく落ち込む、などといった症状が出やすい傾向があります。
すごく具合が悪いわけではないけれども、二日酔いのような、船酔いのような、なんともスッキリしない…、そんな症状が多いようです。
ストレス過多といわれる忙しい現代社会で、穏やかにストレスフリーな生活を、というのは難しいことかもしれません。
そして妊娠初期はおなかも目立ちにくく、周りのサポートも受けられなかったりしますよね。ついつい無理をして、今までと同じように家事や仕事をバリバリとこなしてしまいがちです。
でも、妊娠初期は赤ちゃんにとってもママにとっても、とても大切な時期であることは忘れないで。
赤ちゃんは、“つわり”という信号で「ママ、あんまり無理をしないでね」というメッセージを送っているのかもしれません。
つわりは“生理的な症状”であり、妊娠初期の経過における正常な過程の一部ではあります。でも、妊婦さん自身が「何か変だな~」とか「つらいな~」と感じているなら、それは黄色信号です。
体の感覚という心の声を大切にして、早い段階で不調に気づくことができれば、病気(異常)に傾く前に対処していくことが可能になります。
自分自身のカラダに鈍感な妊婦さんはたくさんいます。先が見えないつわりの期間は、本当につらい日々であることも事実です。けれど、つわりが妊婦に与えられた最初の試練であるとすれば、それを最高のきっかけとして、まずは、自分のカラダに触れたり、感じたり、カラダの声を確認して、今まで眠っていた自分の感性を研ぎ澄ましてみましょう。
自分のカラダを知ることは、のちに自分で産むというお産の感覚を開花させるだけではなく、出産後には観察眼となり、同時に、育児力を磨くことにもつながります。ママと赤ちゃんの信頼関係の絆を、より一層強いものへと育んでくれるはずです。
つわりは自分の心と体を見直し、整える、絶好のチャンスでもあるのです。
(文・たまごクラブ編集部)
監修/芥川バースクリニック 助産師 鳥越敦子さん
参考文献:
「出産準備教室 東洋医学を取り入れた妊婦さんの体づくりとセルフケア」医歯薬出版株式会社
「[標準]中医基礎理論」東洋学術出版社
「[詳解]中医基礎理論」東洋学術出版社
※この記事は「たまひよONLINE」で過去に公開されたものです。