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血のつながらない、障害をもつ子のパパになる「会うたびに家族になりたい思いが深まった」と語る彼の決断と娘への思い

更新

2022年1月、金本晃佳さんは初婚で、ウエスト症候群という難病をもつ9歳の娘の父になりました。娘の萌々花(ももか)ちゃんは食事も移動にも介助が必要で、一生この病気と共に生きていくことが必要です。
迷いや戸惑いを感じつつも「3人での時間を重ねるにつれ、不安やちゅうちょは消えていき、家族になる気持ちが固まっていった」と言う彼に、決断に至った経緯や、今、父としてどのような思いを持っているのかなどを聞きました。

特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

障害をもつ子とコミュニケーションが取れるのだろうか?

「自分が難病をもつ子どもの父親になれるのか、というのは、結婚を決める時より、お付き合いをするかどうかの時の方がすごく悩みました。中途半端なことはできないと思いましたし、当時は僕自身も将来が見えない状況でしたから。自分で大丈夫なのか、本当にすごく悩みました」

そう語るのは2022年1月に、ウエスト症候群の9歳の女の子・萌々花(ももか)ちゃんとその母・香織さんと「家族」になった金本晃佳さん。
ウエスト症候群は生後3〜11カ月で発症する小児てんかんの1つで、別名「点頭(てんとう)てんかん」と呼ばれる難病。小児の難治てんかん(服薬で発作をコントロールすることが難しいてんかん)の中で最も患者数が多いとされ、日本には少なくとも約4000人の患者がいると推測されています。

萌々花ちゃんは生後6カ月の時にウエスト症候群を発症し、自力で立ったり歩いたりすることができません。食事も移動にも介助が必要で、一生この病気と共に生きていくことが必要です。

「それまで介助的なことをした経験もなく、どう接したら良いかすらわかりませんでした。そもそも、障害のある子どもとコミュニケーションがとれるのか、という不安も大きかったです」と振り返る金本さん。
「まずは友だちになる」ことを目指し、萌々花ちゃんへのアプローチを開始しました。

会社の解散、うつ状態。どん底の時期に支えとなったもの

金本さんと香織さんの出会いは15年以上前。もともとは同じIT系企業に勤める同僚で、たまに皆で集まって食事をする仲間でした。

その後、金本さんは30歳を前に「ITと医療を結ぶ仕事を始めたい」と考え、会社を興して独立。香織さんも病気をもつ子どもとその家族を支える活動をしたいと考え、会社を辞めて社団法人を設立。それぞれの活動を、友人として互いに応援し合っていました。

金本さんの会社は順調に仕事を広げ、社員も少しずつ増えていきました。しかしある時、外部の大きなトラブルの影響を受け、運営が困難な状態に。結果的に会社を畳まざるを得なくなり、金本さんはそのショックと数々のストレスから、うつのような症状に陥ってしまったそうです。

「その時の僕は、まともに受け答えすらできない状態でした。考えられないし、体も動かない。自分が何をやりたいのかすらよくわからなくなって、これからどうやって生きていこうかと、そればかり考えていました。たぶん今まででいちばん自分を見失っていた時期だと思います。そんな状態が1年半〜2年くらい続きました」(金本さん)

人間不信にも陥り、人と会うことを避けていた金本さん。そんな金本さんが唯一普通に話すことができたのが、昔からの友人であり、互いの活動を応援し合ってきた香織さんでした。

「彼女も社団法人を立ち上げて頑張っていたので、僕の状況や気持ちを話しやすく、理解もしてもらいやすかったんです。昔からの知り合いなので、僕が仕事に前向きで上手に自己表現していた時期も見ています。『本来の自分を知っている人』という安心感も大きかったです」(金本さん)

この頃は心身ともにぎりぎりの状態だったため、香織さんと会って話していても、かっこつけたり取りつくろったりする余裕はなかったと言う金本さん。素のままが丸ごと出ていたと振り返ります。

「そうやって建前なしでストレートに何でも話すことできたことで、少しずつ香織さんと共に歩んでいきたいという気持ちになっていったように思います」(金本さん)

うつ状態だった僕が、萌々花が笑ってくれた時だけは心から笑えた

自然と香織さんとの付き合いを考えるようになったと金本さん。しかし、冒頭の言葉どおり、迷いも大きかったそうです。

「実際、3人で会うたびに現実を目の当たりにしました。萌々花は人見知りが激しく、特に男性がめちゃくちゃ苦手です。ご飯も女性からしか食べないくらい。
身長が183センチあって声も太い僕は、最初はほぼ存在しないものという感じで無視されていました(笑)。その頃は毎日『本当に大丈夫なのか!?』と自問自答していました」(金本さん)

しかし、何度も話しかけ、認識してもらえるよう努力を重ねるうち、徐々に萌々花ちゃんの表情の変化がわかるようになっていったと言います。

「ずっと接していると、ちょっとした目の動きや表情で、何が言いたいかが分かるようになってきたんです。『これがしたいんだな』と推測して対応すると喜んでくれる、ということが連鎖的に起こるようになって、もう、めちゃくちゃうれしかったですね。
萌々花は病気の影響で表現がちょっと不自由なだけで、彼女なりに表現しているんですよね。それが少しずつわかり始め、コミュニケーションがとれるように。そうしたら僕もどんどん楽しくなって、『一緒に遊びたい』と自然に思えるようになったんです」(金本さん)

仲良しになってからは、萌々花ちゃんをできるだけ外に連れ出すようにしていたという金本さん。イルミネーションが好きな萌々花ちゃんのためにハウステンボスへ車で行った時は、萌々花ちゃんが目をキラキラ輝かせて喜んだそうです。

「萌々花は動物も好きで、動物園にもよく行くのですが、動物によってリアクションが全然違うんです。大好きなレッサーパンダを見ると大喜び。でも、興味がない動物には無反応で素通りなんです(笑)。
いろいろなところに連れて行くたびに反応がどんどん豊かになって、成長していることも感じられました。そういうこともすごくうれしかったです」(金本さん)

そうして3人での時間を重ねるにつれ、不安やちゅうちょは消え、家族になる気持ちが固まっていったと金本さんは振り返ります。

交際中、香織さんが仕事の打ち合わせがある時は、金本さんが付き添って萌々花ちゃんの面倒を見ていたとのこと。そうする中で自然と「僕もそろそろ動き始めないといけないな」と思うようになり、フリーランスとしてシステム開発の仕事をしながら就活も始めました。

「うつ状態だった僕が元気になれたきっかけは、間違いなく香織さんと萌々花です。当時の僕は笑うことすらできなかったんですが、萌々花が笑ったり反応してくれたりすると、心から笑える自分がいました。人から学ぶことがあるのを知りましたし、そこには障害があるとかないとか、大人とか子どもとかは関係ないとも知りました。その自分の感覚を信じていこうと思ったんです」(金本さん)

アプリ開発を通して、病気の子どもの未来の選択肢を広げていきたい

香織さんと交際を経て結婚した金本さん。「今は萌々花と相思相愛。 萌々花はもう究極の癒しです」と大きな笑顔を見せます。
「ありきたりですが、帰宅したときに『おかえり』と言ってくれる人がいることがうれしいです。萌々花もハグして『おかえり』を表現してくれるんですよ」(金本さん)

実は結婚については、金本さんの親族は強く反対しました。金本さんはそれを押し切り、結婚したのだそうです。

「初婚で障害のある子の親になるという自分を、心配してくれる気持ちもよくわかるんです。でも、香織さんと萌々花と家族になりたいという思いは、全く揺らぎませんでした。自分達が家族としてちゃんと幸せになる姿を、これから少しずつ周りの人にも見せていきたいと思っています」(金本さん)

今は、仕事でも萌々花ちゃん病気のサポートに関わる取り組みを進めている金本さん。てんかんの子どもを持つ家族向けの発作記録アプリ「nanacara(ナナカラ)」の開発・運営を行っています。

てんかん発作の適切な診断と治療には、発作や服薬の詳細なメモや動画などの記録が必要です。しかし、発作は前兆なく起きるので、発作に対応しながら記録を正確にとるのはとても困難。nanacaraはワンタップですぐに動画やタイマー、メモなどの詳細な発作記録ができ、負担を大幅に軽減してくれるツールです。

「てんかんと共に生きていくには、患者と家族だけでは難しく、医療従事者やケースワーカー、学校など、さまざまな機関や人との連携が必要です。そのためnanacaraは、開発に着手する前に2年以上も、そういう方々、延べ200名以上にヒアリングを重ねました。
治療だけではなく、人生にどういうストーリーがあったのかを丁寧に聞き、そこから必要なものを探って開発したアプリなんです」(金本さん)

そのコンセプト、思想に多くの共感が集まり、2020年のリリースから1年で1万6000ダウンロードを達成。
2021年にリリースした医師向けサービス「nanacara for Doctor(ナナカラ・フォー・ドクター)」も、てんかん専門医が所属する150の医療機関、250名を超える医師に利用されています。

「宣伝をほとんどせずに口コミと紹介だけでここまで来れたのは、すごいことですし、ニーズも感じています。今後は、アプリ内だけにとどまらず、さまざまな活動と連動してネットワークを広げていきたいと考えています。
てんかんと診断された時に必要な情報にすぐに手が届くよう、nanacaraが多くの関係をつなぐハブ的な存在になれたらいいなと思います」(金本さん)

そしてそれは、金本さんの娘・萌々花ちゃんの生活や未来をサポートすることにもつながります。

「萌々花は萌々花なりに、自分の人生を一生懸命生きています。でも、病気ゆえにできないことも多くあります。親として障害のある子が将来どうやって生きて行くか、自分がいなくなった後を心配する親御さんの気持ちが、少しずつ僕もわかってきた気がしています。
だからこそ、パパとしてはそれをできるだけサポートしてあげたい。萌々花が成長できる環境やきっかけを、たくさん作ってあげたい。未来の選択肢を広げられるような、子どもも親も生きやすい社会をつくるようなことに、今後も携わっていきたいと思っています」(金本さん)


監修/九鬼一郎先生 お話・写真提供/金本晃佳 文/かきの木のりみ 取材/かきの木のりみ、たまひよ編集部

結婚して萌々花ちゃんの父になったことについて、「自分の気持ちに正直に、自分の感覚を信じて進んだだけ」と笑う金本さん。血のつながり云々も軽々と飛び越え、幸せいっぱいの様子を見せてくれました。
萌々花ちゃんのウエスト症候群は、てんかんという病気の1つです。てんかんはあまり知られていませんが、実は100人に1人くらいが発症するとてもよくある病気で、その2〜3割は小児です。

次回は萌々花ちゃんの主治医で、大阪市立総合医療センター小児脳神経内科医長を務める九鬼一郎先生に、小児てんかんの現状と親が知っておくべきことなどを聞きます。

金本晃佳さん

PROFILE
ノックオンザドア株式会社 「nanacara」サービス統括
2004年よりヘルスケア・医療業界のシステム開発に従事し、医療系システム会社を設立。
その後、フリーランスでシステム開発などの活動をしていた時に、てんかんの子どもを持つ家族向けの発作記録アプリ「nanacara」の開発の仕事を手伝い、ノックオンザドア株式会社の社長にスカウトされて社員に。
2020年6月より「nanacara」サービス統括として、「nanacara」サービス全般の企画から運営、てんかん啓発活動のイベント企画・開催、広報、営業など幅広く担当。
プライベートでは2022年1月に結婚し、初婚にしていきなり難病「ウエスト症候群」をもつ9歳の娘の父になる。

Instagram:https://www.instagram.com/kanemotoakiyoshi/

てんかん発作の記録アプリ「nanacara」公式ホームページ

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