妊婦健診で「足が短いな・・・」と言われ、出産後に10万人に1人のまれな骨の病気が判明。治療法がなく完治する病気ではないと知り・・・【体験談】
是永菜絵さんには、小学校4年生の男の子と小学校1年生の女の子の2人の子どもがいます。長男の橙吾(とうご)くんは、2型コラーゲン異常症関連疾患の1つである、先天性脊椎骨端異形成症(せんてんせいせきついこったんいけいせいしょう)です。
脊椎骨端異形成症は、10万に1人といわれるまれな病気で、軟骨の成分である2型コラーゲンを作る遺伝子の変異によって低身長やO脚やX脚、背骨が曲がる脊柱弯曲、関節変形、口蓋裂などの症状が現れます。
是永さんに橙吾くんの病気がわかったときのことや症状、成長について聞きました。全2回インタビューの前編です。
妊娠9カ月になる前に、太ももの骨が短いことがわかる
おなかの赤ちゃん・橙吾くんの異変がわかったのは、妊娠9カ月になる少し前のことでした。
――橙吾くんの病気がわかったときのことを教えてください。
是永さん(以下敬称略) 妊婦健診のエコー検査で、以前、医師から「足が短いな・・・」と言われたことがあったのですが、そのときはあまり深く考えていませんでした。「ちょっとだけ平均より足が短いのかな? 個性なのかな?」と思った程度です。
産休に入って、妊娠9カ月になる前の妊婦健診で同じ医師から「大腿骨(太ももの骨)が短いから、大きい病院で念のため診てもらってください」と言われて、紹介状を渡されたんです。あまりに急なことでかなり動揺してしまい、待合室で泣きながら夫に電話をしたことを覚えています。
あとになってわかったのですが、妊婦健診をしてくれていた医師は、かなり慎重におなかの赤ちゃんの経過を診ていたようです。私は初めての妊娠でよくわからなかったのですが、同じ時期に妹も妊娠していて、妹に「そんなにていねいに、時間をかけてエコー検査で診てもらっていないよ」と言われて、慎重に経過を診ていたんだと思いました。大腿骨が短い赤ちゃんは、まれなんだそうです。
紹介された病院で「骨の病気だと思う」と言われる
是永さんは、すぐに紹介された病院を受診します。詳しい検査をしたところ、医師から「骨の病気だと思う」と言われます。
――紹介された病院を受診したときのことを教えてください。
是永 紹介された総合病院で、医師から「詳しいことは、赤ちゃんが生まれてから検査しないとわからないけれど、骨の病気だと思う」と言われました。医師は考えられる病名をいくつか挙げました。その中にのちに橙吾が診断された先天性脊椎骨端異形成症も入っていました。
私は不安でいっぱいでしたが、夫は「ちょっと小さいだけだろう。大丈夫だよ」と楽観的な感じでした。そのころは夫といろいろと意見が合わず、イライラしたり、悲しくなることが多かったです。
総合病院で出産することになり、出産も近いので、私はすぐに入院しました。
――出産のときのことを教えてください。
是永 大腿骨が短い赤ちゃんの症例はまれだそうで、医師も論文などでしか見たことがないと言っていました。
医師は最適な分娩法についてほかの病院の医師にも相談してくれました。医師からは「赤ちゃんの肺が未熟かもしれない。帝王切開で急に生まれると肺に負担がかかってしまいます。そのため自然分娩で産みましょう」と言われました。
しかし陣痛が始まっても微弱陣痛から進まず、陣痛促進剤を投与したり、子宮口を開くバルーンを挿入してもお産が進まなくて・・・。5日ほど様子を見たのですが、結局帝王切開になりました。
出生時の身長は40cm。体重は2860g。成長曲線で見ると、体重は標準ですが、身長は標準から大きくはずれています。
でも、生まれてきてくれたときは「生きてる!」とうれしくて、涙が止まりませんでした。橙吾はすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院しました。
生後3カ月のとき、遺伝子検査で先天性脊椎骨端異形成症と判明
橙吾くんが先天性脊椎骨端異形成症と診断されたのは、生後3カ月のときです。
――橙吾くんの名前の由来を教えてください。
是永 夫と出会ったのは、ボルダリングのジムです。そのため名前に登という漢字を入れたいと思いました。病気がわかったときは、将来、歩けるかわからなかったので「自分で木に登ったりできますように」という願いも込めました。また明るい印象の名前にしたくて、橙の漢字を選びました。
――橙吾くんが、先天性脊椎骨端異形成症と診断されたときのことを教えてください。
是永 生まれてすぐに大学病院で遺伝子検査ができることになったんです。生後3カ月のときに遺伝子検査の結果が出て、先天性脊椎骨端異形成症とわかりました。主な原因は、軟骨の成分である2型コラーゲンを作る遺伝子の変異によるものです。
医師からは遺伝子の変異について「辞書の中の1ページのうちの1文字が変化しているようなものです。橙吾くんの場合は、それが骨の成長などに関係している遺伝子です」と説明されました。また橙吾の遺伝子の変異は、突然変異によるものでした。
――インターネットなどで、この病気について調べたりしましたか。
是永 インターネットで検索したのですが、まれな病気で情報が少ないんです。でも治療法がなく、完治する病気ではないということはわかり、かなり落ち込みました。
医師からは「インターネットでいろいろ調べたくなるだろうけど、まれな病気だからインターネットの情報が橙吾くんに当てはまるかわからないし、成長しないとわからないことも多いから・・・。検索しなくていいからね」と言われて、検索して落ち込むのはやめようと思いました。
――NICUには、どのぐらい入院していましたか。
是永 NICUは3週間ぐらいで退院できたのですが、1カ月健診で体重があまり増えていないために、再び入院しました。
橙吾は、肺が未熟でゼコゼコするんです。口蓋裂(こうがいれつ)もあり上あごが割れているので、口蓋裂用の哺乳びんでミルクをあげていたのですが、ミルクの飲みがあまりよくないうえ、呼吸があらくエネルギーを消耗しやすいために、体重が増えないようでした。そのため鼻からチューブを挿入して、ミルクを注入することになりました。
入院期間は1カ月ぐらいでしたが、退院後は私がチューブから少量ずつミルクを与えました。でも与え終わるまで40分ぐらいかかるし、器具の消毒などをすると次の授乳まで2時間ぐらいしかなくて・・・。半年ぐらいは、チューブを通してミルクを与えていたのですが、橙吾が手を動かした拍子にチューブがはずれてしまうこともあり、夜中、病院に行って、チューブを挿入し直してもらったことが何度もあります。
思い返すと、この時期が体力的にも精神的にもいちばんつらかったです。私のきょうだいからは「手伝うからなんでも言って」と言われたのですが、気が張っていたのかその言葉に甘えられませんでした。
――退院してからはワンオペで、橙吾くんをみていたのでしょうか。
是永 夫は大工ですが、橙吾が生まれるころに独立したばかりでした。夫も「橙吾のために!家族を養うために!」と必死になって事業を軌道に乗せようとしている時期でした。
そのため育児は、ほぼワンオペでしたが、退院して落ち着くまでは週2回、訪問看護を頼みました。1回1時間半ぐらい看護師さんが来てくれるのですが、うちに来ると「お母さん寝てないでしょ? 少し休んで」と言ってくれるのでありがたかったです。
また橙吾のお世話のことや幼稚園、就学のことなど知りたい情報を教えてくれるので、すごく助かりました。
1歳のとき身長は58cm。1歳になり口蓋裂の手術を
橙吾くんの主な症状は低身長、口蓋裂、背骨が曲がる側弯症です。口蓋裂は1歳になり手術をしました。
――口蓋裂の手術について教えてください。
是永 1歳を過ぎて口蓋裂の手術をしたのですが、手術時間は2~3時間くらいと聞いていました。しかし体が小さくて酸素マスクがうまく合わなかったようで4時間以上かかりました。なかなか「終了しました」と連絡がなかったので、とても心配しながら待っていました。
1歳のときの身長は58cm。体重は5588gです。身長58cmというのは、生後2~4カ月ぐらいの赤ちゃんと同じぐらいです。
口蓋裂の手術は1回ですみましたが、その後も月に1回経過観察で受診が必要でした。
また先天性脊椎骨端異形成症を含む2型コラーゲン異常症は、合併症として網膜剥離(もうまくはくり)になる可能性もあるので、眼科も定期的に受診しました。すべて別の医療機関だったので、小さな橙吾を連れて行くのが大変でした。
――橙吾くんの発達について教えてください。
是永 医師からは「発達も3倍ぐらいゆっくりだよ」と言われていたのですが、首がすわったのは6カ月ごろ、歩き始めたのは2歳ごろです。
「腕や足が短くてバランスをとるのが難しいから、転んで頭を打たないように」と医師から言われたのですが、橙吾は頭を守る保護帽をかぶるのを嫌がるんです。あんよできたときは本当にうれしかったのですが、歩き方がヨチヨチしていて、ドキドキしながら見守りました。
言葉の発達は順調で、橙吾はおしゃべりが大好きです。将来を考えると、落ち込むこともあったのですが、橙吾の明るい性格と笑顔に、これまでどれだけ救われてきたかわかりません。
【澤井先生から】先天性脊椎骨端異形成症は、重症度には幅がある
先天性脊椎骨端異形成症(Spondyloepiphyseal dysplasia congenita: SEDC)は、2型コラーゲン異常症関連疾患の最も代表的な疾患です。原因は2型コラーゲン遺伝子の変化で発症し、重症度には幅があります。常染色体顕性(優性)遺伝ですが、多くは健常な両親から偶然に生まれます。主たる症状は骨成長障害で、骨の異常は脊椎(spondylo-)と腕や脚などの長管骨の骨端部(epiphyseal-)を中心に認められます。低身長、骨格異常、脊柱弯曲、視覚や聴覚の異常、とくに低身長は、体幹と首が短く、四肢長管骨の短縮、胸郭低形成による呼吸障害、口蓋裂や重度の近視、難聴もみられます。精神発達遅延や知的障害はありません。
お話・写真提供/是永菜絵さん 監修/澤井英明先生 協力/2型コラーゲン異常症患者・家族の会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
先天性脊椎骨端異形成症は、2型コラーゲン異常症関連疾患の1つです。2型コラーゲン異常症は、軟骨や目の硝子体、内耳などに症状が現れる骨の病気の総称で、患者数は全国で約1500人と推定されています。専門医が少なく、有効な治療法がないことなどが課題になっています。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
澤井英明先生(さわいひであき)
医学博士。兵庫医科大学大学院看護学研究科特命教授。1984 年高知医科大学医学部卒。同年兵庫医科大学産科婦人科学入局。2006年京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻遺伝カウンセラー・コーディネータユニット准教授。2010年兵庫医科大学産科婦人科准教授。2017年同病院遺伝子医療部教授を経て、2025年4月より現職。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。