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てんかんは怖い病気じゃない! 誤解や偏見から子どもを守るために知っておくべき「子どものてんかん」のこと

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「てんかん」という病気は子どもの時期に最も発症しやすいのをご存じですか? 決して珍しくはない病気にもかかわらず、周囲の大人たちがてんかんについて知らないゆえに、子どもたちが不自由な思いをさせられることが少なくありません。
子どものてんかんの専門医で、大阪市立総合医療センター小児脳神経内科医長を務める九鬼一郎先生に、子どものてんかんの現状と親が知っておくべきこと、そして、そこから見える問題などについて聞きました。

特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

てんかんは100人に1人がなる、世界で最も一般的な疾患のひとつ

「てんかんというと『全身がけいれんし、泡を吹いて倒れる』というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?ニュースなどで取り上げられるのも、『てんかん発作で車の事故』など衝撃的なものばかりで、『てんかんは危険な病気』と思っている方も少なくありません。
でもそれは、てんかんのごく一例です。『てんかんの辞書』があるとしたら、その中のほんの1ページ程度でしかありません」

そう説明してくれるのは、子どものてんかんの専門医で、大阪市立総合医療センター小児脳神経内科医長を務める九鬼一郎先生。
「てんかんは、実は新生児期から老年期までどの年齢にも幅広く見られ、100人に1人くらいに発症するとても身近な病気です。なかでも生後〜3歳までに起こりやすく、てんかんの2/3は子どもの時期に発症すると言われています」(九鬼先生)

100人に1人ということは、学校なら学年に1人か2人はいるということ。世界保健機関(WHO)も「世界中で約 5000 万人がてんかんに罹患しており、世界的に最も一般的な神経疾患の一つ」と報告しています。
でも、てんかんがそれほど多いという実感は、ほとんどの人が持っていないのではないでしょうか?

「てんかんの患者さんやその家族が自分から『てんかんをもってる』『家族がてんかんの治療をしている』という話をすることはほとんどありません。なぜなら、そう言いにくい、言えない雰囲気が、社会全体にあるからです」(九鬼先生)

冒頭のようなイメージから、「てんかんは怖くて危険な病気」という思い込みや誤解を持っている人は少なくなく、それが偏見にもつながっていると九鬼先生は指摘します。

「そうした誤解をなくすには、まずはてんかんを知ってもらうことが大切だと感じています。怖いことばかりを書いた1ページでなく、残りの99ページを知ってもらえば、てんかんは1つの体質として上手に付き合うことができる病気であることが理解いただけると思います」(九鬼先生)

子どものてんかんは7〜8割が発作を抑制でき、その多くが成長と共に自然に治る

人の脳には多くの神経細胞があり、微弱な電流が流れています。それによって、ものを考えたりいろいろなものを見聞きしたり、体を動かしたりする指令が出ています。てんかんは、この電流が突然大量に流れてしまい、神経細胞の過剰な興奮と、その後の一時的な脳の機能低下を繰り返す病気です。

原因はさまざまですが、子どものてんかんの場合、さまざまな検査をしても明らかな脳の異常がみつからない場合が多いと言われています。

「子どものてんかんには数十もの種類があり、『成長とともに治るてんかん』『発作を抑えるのに薬の治療を続けることが必要なてんかん』『薬でのコントロールができない難治性てんかん』などに分かれます。
てんかん発作についてもさまざまな種類があり、一瞬ピクっとするものやシャックリみたいなもの、ただ10秒くらいボーッとするだけなど、一見てんかんとは思えない発作もあります。そのため発見が遅れることが少なくなく、それが治療に影響する場合も。
気になる様子を繰り返ししている時は、まずは受診して問診、診察、必要に応じて検査をすることが大切です」(九鬼先生)

しかし、決して怖がる必要はないと九鬼先生は言います。

「子どものてんかんは治る可能性が高い病気です。7〜8割が発作を抑制でき、その多くは成長とともに自然と治ることが期待できます。正確な診断と適切な治療によって、発作を起こさずに日常生活や園・学校生活を送ることが十分できます。
残りの2-3割の患者さんは、てんかん発作を抑える薬を内服しても発作を完全には抑制できません。そのような患者さんとその保護者の方には、生活上より多くの困難さがあるため、より多くのサポートや周囲の理解、日常的な支援、心理的な支援が必要なことは言うまでもありません」(九鬼先生)

ところが現実には、冒頭のようなイメージがあまりにも先行し、てんかんの子どもたちが普通の生活を送れなかったり、必要なサポートが理解を得られないケースが多いのが実情です。九鬼先生も患者さんからそうした相談を受けることが、とても多いと言います。

「てんかんは怖い」という思い込みから生活を制限された5歳の男の子

「その子は睡眠中に、顔と腕がピクピク・ガクガクとする短いけいれんを起こして受診された、5歳の男の子でした。脳波検査をしたところ、自然終息性(自然に治る)のてんかん(以前は『良性ローランドてんかん』と呼ばれていた)で、お母さんにも『しばらく薬を飲む必要はありますが、ちゃんと治りますよ』と伝え、安心して帰られました」(九鬼先生)

ところが翌日、そのお母さんから切羽詰まった声で九鬼先生に電話が。
「幼稚園の先生に『てんかんだけど自然に治っていくので大丈夫と言われました』と伝えたら、あれこれ細かく聞かれ、診断書を持ってきてほしいと言われました。先生、息子は本当に大丈夫なんですか!?」と不安いっぱいの声で聞かれたそうです。

「実はこういうことがよくあるんです。その時も診断書に、自然に治る可能性が高いこと、園生活では発作が起こる可能性は低いこと、万一発作を起こしたら救急車を呼ぶ対処をお願いしたいことなどを書いて渡しました。
これでわかってもらえただろうと思ったのですが、その幼稚園ではそれ以降、その男の子にさまざまな生活の制限が始まってしまったんです」

走ったらいけない、1人で行動してはいけない、プールに入ってはいけない、高いところに登ってはいけないなど、制限は多岐にわたりました。さらには皆でお泊まりをする「宿泊学習」も、その子だけ泊まらず帰るように言われてしまったそうです。

「園の先生にも電話で直接病状を説明したのですが、『てんかんですから、何かあったらでは遅いので』と口癖のようにおっしゃるだけでした。
別の時には、お母さんから電話で『隣に園長先生がいるので直接話してもらえませんか』と言われて待ったのですが、けっきょく電話には出られませんでした。後でお母さんに聞いたところ、『お医者さんと話すと説得されてしまいそう』と、園長先生が電話に出るのをためらったそうです。
もちろん、多くの子どもを預かる先生方の立場やお気持ちもわかります。でも、このようなことが起こるのは、やはりてんかんの誤ったイメージが広まっているせいなのだと感じます」(九鬼先生)

結局、宿泊学習はその男の子だけ夕方に帰らされ、翌日の朝に再び参加したとのこと。こうした理不尽な扱いが子どもの心に傷として残ることは少なくなく、九鬼先生も大きな壁を感じると言います。

「『自然に治るてんかん』といくら説明しても、これだけ怖がられ、拒否されてしまう。こういうことがある度に、てんかんという言葉のインパクトの強さを感じます。
しかし、先にお話ししたように、てんかんは誰でもなり得る病気です。決して怖い病気ではなく、誰かに危害を加えるようなものでもありません。
逆にサポートを必要としているのはその子と家族だということを、ぜひ思い出していただきたいのです」(九鬼先生)

九鬼先生のところには、毎春、学校の先生から多くの問い合わせがあるそうです。

「てんかんを持つ子どもを担当することになった先生からのご相談です。みなさん『激しいけいれんが起きたら止まらないんじゃないか』『そのまま死んでしまうことはないのか』『何か特別な対応が必要なんじゃないか』と不安がられます。
でも、てんかん発作のおよそ8割は2〜3分以内で自然に治り、30分以上続くような発作(てんかん重積状態)はまれです。基本的に子どもの安全を確保して見守っていただければ大丈夫なのです。
そう伝えると、とてもホッとされ、子どもへの見方まで変わることがあります。より多くの方に子どものてんかんの現状や正しい知識を知っていただけば、社会全体の意識も変わっていくと思うのです」(九鬼先生)

子どもだからこそ予想を飛び越える回復を見せるケースも

九鬼先生はこれまでさまざまなてんかんの患者さんを治療してきて、子どもが持つ可能性や力に何度も驚かされてきたと言います。中でも、今でも強く印象に残っているある女の子がいるそうです。

「脳の左半球に広い病変があっててんかんを発症した、3歳の女の子でした。来院した時にはすでにほぼ寝たきりで、反応も見られない状態でした。しかし、詳しい検査をした結果、手術に適合していることがわかったのです。
その後、その子はてんかんの手術によって劇的に改善し、発作も出なくなりました。現在、10歳を過ぎましたが、薬も必要なく元気に生活しています」(九鬼先生)

少し前、定期受診の際にその子の家族から、彼女が参加したばかりの運動会のビデオを見せてもらったそうです。そこには障害物競走で元気に走っている、現在の女の子の姿が映っていました。

「脳を手術したことによる軽度のまひは残りましたが、走ることや縦笛を吹くことができるくらい元気でした。そういう子が障害物を乗り越えていく姿は、本当に感慨深いものがありました。
彼女の場合は脳が成長しきっていない年齢で手術をしたため、手術後も脳が成長し、脳の健康な部分が手術した部分の機能を補うようになったのです。子どものてんかんはこういうふうに、成長と共に予想を飛び越える回復を見せるケースも多いんです」(九鬼先生)

実際、九鬼先生の患者さんには、治療を終えて大学生活を謳歌している人や看護師として働いている人、社会に出て活躍している人など、多くの人がてんかんとうまく付き合いながら元気に生活を送っているそうです。

「てんかんは怖い、治らない病気というイメージも、思い込みであることを知ってほしいです。特に子どものてんかんの多くが、治療の一時期を過ぎれば薬をやめることができます。そのまま一生薬が必要なくなるケースも少なくありません」(九鬼先生)

ただし、そのためには適切な検査と診断が重要です。万一てんかんを発症した場合は、専門医を受診することが大切ですが、日本のてんかん専門医は小児と成人あわせて全国に700人ほど。患者数に比べて、圧倒的に足りていないのが現状です。

「もし近くに専門医がいなくても、あきらめないでください。現在は多くの病院やクリニックがオンライン診療を開始しており、てんかん専門の病院も対応しはじめています。今後はこういうツールを活用し、ぜひ専門的な治療を受けていただきたいです」(九鬼先生)

「ぜんそくなの」と同じように「てんかんなの」と言える社会に

てんかんは100人に1人がなるほど多い病気なのに、多くの誤解や偏見から、患者やその家族は孤立してしまいがちです。治療やサポートの情報も少なく、子どもがてんかんと診断されても、「誰に何を相談したらいいかもわからない」と混乱する親が少なくないと言います。

九鬼先生は親へのサポートの必要性を強く感じ、診療の傍ら、患者会のアドバイザーや、てんかんの勉強会の講師、てんかんの子をもつ家族向けの発作記録アプリ「nanacara(ナナカラ)」の開発などにも参加しています。

「病院で患者さんやそのご家族と話をしていると、その不安や悩みには医学的な知識では解決でない部分があるのを強く感じます。特にてんかんには、そういう側面がとても多くあります。そういう部分を患者家族会やてんかん診療に関連する企業と連携することで、少しでも埋めることができればと思っています」(九鬼先生)

2022年5月31日には、九鬼先生が協力しているWebサイト「WEPiLi (ウェピリ)」もリニューアルオープン。「WEPiLi 」は「With Epilepsy(てんかん) Life」の略語で、けいれん・てんかんを経験している家族の声を元につくられた、けいれん・てんかんの情報サイトです。
このサイトを通して、九鬼先生をはじめとしたてんかん専門医の先生に、てんかんに関する一般的な質問・相談ができるコーナーもあります。

「だれでも多かれ少なかれ、体質の悩みや病気をもっています。アレルギーだったり、高血圧だったり、胃腸が弱かったり。例えば痛風(つうふう)は、関節などに痛みのある発作が起きる病気で、100人に1人くらいの患者がいます。てんかんと似たところが多いですが、痛風の話がしづらいということは少ないのではないでしょうか。

てんかんもこれらと同じ病気や体質の1つであるということを、多くの人に知ってほしいです『私、痛風なの』『喘息もちなんだ』と言うのと同じように『私てんかんがあるの』と気軽に言えて、サポートし合える社会になっていければと思います」(九鬼先生)

けいれん・てんかんの患者さん&ご家族応援サイト「WEPiLi」公式ホームページ

監修・写真提供/九鬼一郎 文/かきの木のりみ 取材/かきの木のりみ、たまひよ編集部

九鬼先生のお話でまず驚いたのは、てんかんは100人に1人かかるほどポピュラーな病気であるということ。そして、子どものてんかんの7〜8割は発作を抑制でき、その多くが成長と共に自然にと治るというのも、あまりに知られていない情報だと思いました。
不安や恐れは「知る」ことで減らすことができます。九鬼先生が協力しているサイト「「WEPiLi」には、てんかんの症状から発作時の対応方法、日常生活のポイント、利用できる制度まで、実にさまざまな情報が紹介されています。てんかんでない方もぜひ、一度見てみてはいかがでしょうか?

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