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小児救命救急センター24時【熱傷(ねっしょう)】

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息子の手が届かないテーブルの中央に置いていたはずが…

 昼下がりにホットラインから、カップめんで顔面〜肩〜腕をやけど(熱傷)している1才6カ月の男の子を搬入したいと連絡が入った。すぐに受け入れ可能と返事をして、救急室に急いだ。

 ほどなくして救急車が到着し、母親に抱かれた子どもが降りてきた。頰と腕を保冷剤で冷やしていた。右腕の外側が前腕から上腕にかけてやけどし、右側の頰も一部赤くなっていた。前腕には数カ所水ぶくれがあり、重症度判定で中等症に値するⅡ度熱傷を起こしていることがわかった。ただ、熱傷面積は広くなく、体の表面積の3%程度と判断した。頰は幸いなことに皮膚が赤くなる軽症程度のⅠ度熱傷ですみそうな印象であった。水疱(すいほう)は破らず、消毒をして、軟膏(なんこう)を塗ったガーゼで熱傷部をていねいに覆い、その上から包帯を巻くように指示し、母親に病状の説明を行った。すると、「カップめんを食べようとお湯を注ぎ、テーブルの端は子どもの手が届くので、届かないようにと中央に近いところに置いたのですが...」と、自分を責める口調で話し始めた。「まさかテーブルクロスは使っていませんよね?」と聞くと、「ええ、テーブル台から垂れ下がるクロスは危ないと聞いていたので。でも、テーブルの一部を覆うようなひし形のクロスは敷いていました。あっ!クロスの上にカップめんを置いたので、そのクロスに触ったのかも。それで倒れてやけどをしたんですね。あぁ〜...なんということを...」と、母親は口ごもってしまった。

 熱傷面は一部中等症程度の部分があるけれど、熱傷が深部までは到達しておらず、面積が少ないので、傷あとが残ることなく治ると思うと答えた。また、「すぐに冷やしたんですね?」の問いに、母親はしっかりうなずいて、「とにかく冷やさないと、と思って流水で冷やしながら救急隊に電話したんです。大丈夫でしょうか?」と不安そうに再度尋ねてきた

熱傷面積は少なく、程度も強くないため、入院は不要だが…


 「この数日を診ないと絶対的なことは言えませんが、おそらく大丈夫と思います。数日は毎日受診してもらい、傷の具合を見ながらガーゼのつけ替えをしていきましょう。熱傷面積が少ないし、程度が強くないので、入院は不要です」。母親は少し安堵(あんど)した表情を見せて、「いつも気をつけているつもりでしたが、まさかこんなことになるなんて…」と再び自分を責めるような言葉が口をついた。

 研修医に身長や体重などを測定し、慢性的なネグレクトなどが疑えないか、体も診ておくように耳打ちしてチェックを行った。とくに異常所見はないということだったので、「この時期の子どもたちは昨日までできなかったことが急にできるようになります。お母さんのまだ大丈夫という思い込みが事故につながりますから気をつけましょうね」と言いながら、翌日の受診予約をした。「本当に気をつけます」と母親は心から納得したような表情で言い、「お世話になりました」と帰っていった。


【熱傷とは?】
子どもの熱傷はポットの湯など高温の液体が原因となることが多く、ここなら倒されることがないから大丈夫などという思い込みから起こっている。あらゆる想定をし、子どもの近くに高温の液体を置かないこと。熱傷後は流水などでとにかく20分間は冷やすことが、応急処置の最善策だ。

■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。

【市川先生から…】
熱傷は痛みが強く、傷あとも残りやすい事故。乳幼児期は高温の液体をはじめ、ホットプレートなど熱源になるものには注意が必要だ。熱傷が軽そうに見えてもまずは流水で冷やし、タオルを巻いた保冷剤などで冷やしながら受診を。アロエを塗るなどの民間療法はおすすめしないので、乳幼児は時間外でも病院を受診して。

イラスト/にしださとこ

【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。

※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。

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