「すみません」と医師に言わない、「ごめんね」と子どもに言わない。ママ・パパに確かな情報を【小児救急看護認定看護師】
小児救急看護認定看護師の野村さちいさんは、2016年に一般社団法人「つながる ひろがる 子どもの救急」を設立。地元・愛知県岡崎市を中心に、年齢や職種など関係なく、あらゆる人とつながって、みんなで一緒に「子どもにとって最善の医療とは」を考え、学ぶ活動をしています。
野村さんにママ・パパたちに知っておいてほしい、小児科の上手なかかり方などを聞きました。全2回インタビューの後編です。
ポジティブな言葉かけで、治療を頑張れるように! 注射を悪者にしないで
野村さんは、小児看護歴24年。多くの子どもたちの看護をしながら、ママ・パパに知っておいてほしい情報を発信しています。
――ママ・パパに子どもの事故予防の啓発も行っていますが、どのようなことを伝えているのでしょうか。
野村さん(以下敬称略) ママ・パパが知りたい心肺蘇生法や気道異物除去法などのいざというときの対処法や、それ以上に伝えたい、事故が起こる前の対策について具体的に伝えます。対処法も必要ですが、事故が起きてからでは取り返しのつかないこともあります。
――子どもが事故にあってけがをすると、ママ・パパは自分を責めると聞きます。
野村 うちも長女がバウンサーから、寝返りをした拍子に床に落ちてしまったことがありました。「ちょっと寝かせるだけ」と思ってベルトをしていなかったんです。あわてて小児科に駆け込んだのですが、そのとき私は医師にとっさに「すみません! すみません!」と謝りました。「ちょっとの間だけ」と思って、ベルトを装着しなかったことを、本当に後悔しました。
すると医師から「謝るのは、私にではなく赤ちゃんにだよ」と言われました。娘は無事でしたが、あのときのことは忘れることができません。子どもの未来を私が変えてしまうかもしれないと、さらに注意するようになりました。
子どもの事故は防ぎ得たものが多いです。大事に至らなかったときこそ、次の大きな事故を防ぐチャンスととらえて対策をすることが大切です。
――小児科に子どもを連れてくるママ・パパのことで、気になることはありますか。
野村 待合室で、子どもに「今日は、注射しないから大丈夫だよ」と言い聞かせているママ・パパもいますが、診察して血液検査が必要なこともあります。予防接種のときに「先生、上手だから痛くないよ」と言うのも、子どもにとっては「うそつかれた!」と思うかもしれません。
その場しのぎで「注射はしない」「痛くない」といった言葉かけはせず、「痛いかなあ?」「聞いてみようか?」と子どもの問いかけに向き合ってみましょう。
――野村さんは、2人の子どもがいますが、自身はどのようにしていましたか。
野村 子どもたちはもう大学生ですが、幼いころは、注射や病院をテーマにした絵本をよく読み聞かせて、「病院や注射は嫌なもの」ではなく「元気になるために頑張るところ・頑張るもの」というイメージを抱くようにしていました。絵本の『ノンタンがんばるもん』を、よく読み聞かせていました。
また予防接種のときは「ごめんね」ではなく、「痛いけど頑張ろう!」「よく頑張ったね!」というポジティブな言葉かけをしていました。ポジティブな言葉かけは、ロタウイルスや小児用肺炎球菌など、生後2カ月の予防接種が始まる時期から、ぜひ実践してほしいと思います。
子どもの気になることを小児科で相談・質問するときには簡潔に
小児科医は診療するだけでなく、子どもの気になること・心配なことにも答えてくれます。野村さちいさんは「小児科を上手に活用してほしい」と言います。
――なかには「小児科で子どもの気になること・心配なことを聞きたいけど、聞きづらい」と感じるママ・パパもいるようです。
野村 ママ・パパが「気になること・心配なことを聞きづらい」と感じるのは、私たち医療従事者が忙しそうにしているところに原因があると思います。
でも子どもの気になることは医師や看護師にぜひ聞いてください。聞くときのコツは、「先生、2点質問していいですか?」と言って、簡潔に質問することです。
診察室に入ったら、すぐに診察できるように、子どもの衣類のボタンはあらかじめはずしておくなど準備も忘れずに。そうすると質問する時間も取りやすいと思います。
――かかりつけ医を変えるのは、できるだけやめたほうがいいのでしょうか。
野村 質問したことに答えてくれないなど、不信感が募る場合はかかりつけ医を変えてもいいと思いますが、頻繁に変えるのはやめましょう。
また受診しても、よくならないからといって、すぐに別の小児科に行くのもおすすめできません。医師は経過を診て、薬を変えたりするので、よくならないときは同じ医療機関を再び受診して、経過を伝えましょう。
かかりつけ医をもつことが大切と言われるのは、既往歴や発育・発達の様子などを継続して診ることが大切だからです。
SNSの情報だけを見て、自己判断するのはNG
子どもの病気に関する情報は、小児科医や看護師に聞くことが基本です。SNSだと情報がかたよりやすくなります。
――医師や看護師に質問できなかったときは、SNSで調べてもいいのでしょうか。
野村 SNSは一般的な情報であり、わが子に合った情報でないこともあります。
またSNSは、自分の知りたい情報だけを検索しがちです。たとえば予防接種だと副反応を心配するママ・パパが多いようですが、SNSで検索すると不安が増していきます。情報がかたよってしまうんです。しかし予防接種には、病気を防ぐ高い効果が実証されています。
たいぶ前の話になりますが、おたふくかぜになり難聴を患った子どもをもつママから「こんなことになるなら、おたふくかぜのことや予防接種のことをちゃんと知っておきたかった」と言われたことがあります。SNSだけの情報に頼って自己判断せずに、気になること・わからないことは、ぜひ小児科医や看護師に聞いてください。
――そのほか小児科を受診するときに、注意したほうがいいことを教えてください。
野村 子どもを小児科に連れて行く人がママ、パパ、祖父母など、日によって変わる場合は、必ず情報を共有するようにしてください。
医師が診察のときに困るのは、たとえば「夜、せきはひどくなりますか?」「昨日は、熱は何度ぐらいありましたか?」など質問したとき「ママ(パパ)に聞かないと、わかりません」と言われることです。目の前の子どもの症状を診るだけでは診断しづらいので、受診の際には子どもの様子・症状は共有しておいてください。健康観察のアプリなどを使って、情報共有するとスムーズだと思います。
子どもと小児科は切っても切り離せない関係です。小児科医、看護師、ママ・パパは1つのチームです。真ん中に子どもがいて、みんなで手をつないで、子どもを守っていきましょう。
お話/野村さちい先生 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
野村さちいさんは「知っていてよかった!」とほっとするママ・パパを増やしたいという思いから講座やセミナーだけではなく、インスタでも「子どもが頭を打ったときの対処法」「マイコプラズマ感染症」「熱性けいれん」などママ・パパに知っておいてほしい小児の医療情報を発信しています。
野村さちいさん(のむらさちい)
PROFILE
1998年に看護師取得。2013年に小児救急看護認定看護師を取得する。2016年、一般社団法人「つながる ひろがる 子どもの救急」を設立し、小児救急医療の現場からママ・パパに知っておいてほしい医療情報を発信。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『子どもの病気・救急 ぜったいこれ知ってて!』
小児救急看護認定看護師が、0~6歳の子どもをもつママ・パパに知っておいてほしい「モヤモヤを残さない受診方法」「緊急事の対処とおうちでの事故予防策」「子どもがかかりやすい病気の最新情報」などを紹介。野村さちい著/1540円(日東書院)