「片づけられず部屋中が段ボールで埋まったことも」感じていた生きづらさ。娘の発達障害を調べると、自身にも思いあたることばかり【発達障害体験談】
最近大人の発達障害についても話題になっていますが、ライターの綾瀬ゆうこさん(40歳)は、10歳と8歳の女の子を育てる発達障害当事者ママです。10歳の長女にはASDとADHDの特性もあります。綾瀬さん自身は小さいときから生きづらさを感じてきたそうですが、その原因が発達障害にあることがはっきりしたのは2022年のことでした。「『困った』『やってしまった』がなくなる 発達障害ママの子育てハック」の著書がある綾瀬さんに、発達障害だとわからないまま過ごした子ども時代からママになるまでのこと、感じていた違和感について聞きました。
給食を食べられず、午後の授業中も給食をつついていた小学生時代
――綾瀬さん自身は子どものころはどんな子でしたか。
綾瀬さん(以下敬称略) 小学生のときは給食をみんなと同じようには食べられなかったり、授業中に背筋を伸ばして椅子に座っていることができなかったりしたことを覚えています。
――綾瀬さんが小学生のころ、「給食は全部食べ終えるまでいのこり」というような状況でしたか。
綾瀬 そうです。食べられないものが多いのは発達障害の特性の一つで、私は野菜がとにかく苦手。トマト、玉ねぎ、じゃがいも、ピーマン、きゅうり以外の野菜は食べられないんです。それは、当時から現在に至るまで変わりません。当然ながら給食の時間中に食べきれず、ほかの子は遊んでいる昼休みも1人で給食を前に座ったまま。午後の授業も、教科書の横に給食のトレイを置いていて、先生の話を聞きながらつついていました。帰る時間になって「もういいから給食室に戻してきなさい」という担任の先生の言葉でやっと解放される、という日々が続きました。
――授業中に椅子に座っているのも苦手だったというのは・・・?
綾瀬 両手でほおづえをついて頭を支えていないと、授業中に座っていられませんでした。今だからこそわかりますが、体幹が弱いのも発達障害の特徴です。手でほおづえをついた姿勢で毎日授業を受けていても注意されなかったので、先生には「ちょっと変わっている子」と認定されていたのかもしれません。授業参観に来た母親には、「行儀が悪い!」と、きつくしかられましたが・・・。
――当時は、学校の先生たちも発達障害についてはあまり理解していなかったのでしょうか。
綾瀬 そうだと思います。学校生活をスムーズに送るためのサポートは、受けたことはありませんでした。
――家族のフォローはありましたか。
綾瀬 両親は私が3歳のときに離婚し、母は仕事が忙しかったので、ほとんど祖父母に育てられたのですが、今思うと、祖父、母、妹の1人には発達障害の傾向があったように思います。
祖父はルーティンにしていることを譲れないし、“超”がつく潔癖症。そのため意に沿わないことがあると、大声でどなりました。祖母は普通の人でしたが、そんな祖父への対応に追われ、いつも疲れている感じでした。
母は子どもの気持ちがわからないようでしたし、衝動的に怒ることがよくありました。2人の妹のうちの1人は、衝動性が強く、すぐにたたいたり、かみついたりしてきました。
家族それぞれが生きづらいと感じていたと思います。もしかしたら、私よりも大変な思いをしていたかもしれません。そのため、私のことをフォローする余裕はだれにもありませんでした。もちろん、私が家族をフォローする余裕もありませんでした。
それに、発達障害という障害があることを、その当時の私の家族はだれも知りませんでした。私も含めてです。
段ボールがどうしても片づけられず、一部屋が段ボールで埋まったことも
――学生時代、勉強に関してはどうでしたか。
綾瀬 それほど困ったことはなかったです。集中力はあるので、とくに好きな科目は、授業の内容をその場で覚えられました。数学は嫌いで勉強するのも嫌だったので、テストで悪い点を取ることも。でも、先生にバカにされるのが悔しくて、次の試験ではガガッと勉強していい点を取って見返す、みたいなことをしていました。
――衝動性があり、突然旅行に出ることがあったとか。
綾瀬 大学生のころ突然夜中に思いついて、関西地方に住む友人の家に車で遊びに行ったことがあります。翌日バイトがあることはわかっているのに、行きたくなると止められなくて。バイト先にはバイト時間の直前に「具合が悪くなって行けません」って連絡しました。申し訳ない話です。こんなことしちゃいけないって理解しているのに、衝動を抑えられないんです。
――一般企業に勤めていたころ、苦労したことはありますか。
綾瀬 金融機関で働いていたとき、「4枚複写の書類を取りに行って、差し込み印刷をする」という一連の作業がとても苦手でした。4枚ずつセットで保管されている書類を4枚ちゃんと持ってくることも、向きを間違えずに差し込み印刷することも、私にはとても困難でした。苦手でやりたくないからこの作業だけをどんどんためこんでしまい、周囲の人に迷惑をかけていました。なぜこんな単純な作業に手間取るのか、周囲の人には理解できなかったと思います。
反対に、商品説明の電話をするのは得意で、私の説明のしかたがお手本として社内に紹介されたこともあります。できることとできないことの差が極端なのも、発達障害の特性なんですよね。
――現在は2人の子どもを育てるシングルマザーです。家事で苦手なことはありますか。
綾瀬 洗濯物を限界までため込んでしまい、子どもが明日着る洋服に困る・・・ということがよくあります。整理整頓も苦手なので、片方が行方不明の靴下が山になっています。
段ボールをたたんで捨てるという作業がどうしてもできなくて、3LDKの1部屋が段ボールで埋まってしまったことも。自分ではどうしても処分できなくて、仕事仲間に時給を支払って片づけてもらいました。段ボールがたまるのが嫌で、ネットで買い物をするのやめました。
娘の発達障害を理解するために調べていたら自分も思い当たることばかり・・・
――子どものころから生きづらさを常に感じつつも、それが発達障害に由来するものだと知らなかったのですね。
綾瀬 「発達障害」という言葉すら知らないまま大人になりました。母には「だらしない子」だと思われていたし、私自身も「自分はダメな人間だ」と思っていました。発達障害を知るきっかけとなったのは長女の誕生です。
長女を出産したのは29歳のとき。「間違った育児はしたくない」という思いが強く、国内外の育児書を何冊も読みました。10カ月ごろまでは母子健康手帳や育児書の目安に従って成長していたので安心していたのですが、徐々に「笑顔が少ない」など心配なことが出てきて、1歳以降は強いこだわりや、言葉の遅れが顕著に。インターネットで検索したり、育児書で調べたりして、私自身で「自閉傾向」という一つの答えにたどりついていました。
そして3歳児健診で「発達障害の傾向があるかもしれないから、病院で検査を受けるように」といわれたんです。検査の結果、ADHD(注意欠陥・多動症/※1)とASD(自閉スペクトラム症/※2)の疑いがあるとわかりました。
――子どものことを調べる中で、自身も発達障害なのでは・・・と考えるようになったのでしょうか。
綾瀬 娘の特性を理解しようと調べれば調べるほど、ADHDの特徴は私自身も思い当たることばかり。ADHDなんだろうなと考えるようになりましたが、大人の私が検査を受けるという発想にはなりませんでした。
私は母親になってからも、「子どもの習い事の日付を間違えて当日ドタキャンする」「学校に提出する書類を何度も忘れる」「ママ友に余計なことを言って場を凍らせる」など、いろいろな失敗を何度も繰り返しています。それらが発達障害に由来しているのなら、私を含め発達障害の傾向があるママの子育てが少しでも楽になる情報が詰まった本がほしいと思い、出版社に企画を持ち込みました。
そして、監修をお願いしていた森しほ先生のクリニックで検査を受けたところ、予想通り私自身にADHDの特性があることが判明。2022年のことです。
――自身にADHDの特性があることを踏まえて子育てをするうえで、これだけは守っているということを教えてください。
綾瀬 怒りをコントロールする力が弱いのも発達障害の特性としてあるので、感情的にしからないことを自分に課しています。怒りを爆発させたくなったときは、マツコ・デラックスさんに登場してもらっています。もちろん頭の中にです。たとえば子どもがお茶をこぼしてイラッとしたとき、マツコさんなら「わざとじゃないんだからしかたないじゃない。ふきゃいいのよ」って言ってくれそうですよね。そのシーンを想像すると、心がすっと落ち着くんです。
――発達障害の特性が仕事にいかせることもあるとか・・・。
綾瀬 一度エンジンがかかるとものすごく集中できるので、得意なジャンルなら1時間で6000文字程度の原稿を書けるし、15分で10本程度の企画を考えることもできます。
発達障害の特性はやっかいで、本人もまわりも何かと苦労します。でも100%ネガティブなものでもないんです。だから、毎日冷や汗をかくようなことをやらかしつつも、自分を否定しないように心がけています。
※1 注意力不足、落ち着きのなさ、衝動的な言動を抑制することが難しいなどの特徴がある発達障害。
※2 対人関係が苦手、こだわりが強いなどの特徴がある発達障害。
お話・写真提供/綾瀬ゆうこさん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
綾瀬さんは生きづらさの理由がわからないまま大人になり、ママになりました。今はADHDの特性があることを自覚しつつ、2人の子育ても仕事も全力で取り組んでいるそうです。
綾瀬ゆうこ(あやせゆうこ)
ライター。一般企業での事務職を経て現職。金融系書籍の執筆協力や各種インタビュー記事、ウェブコラムの執筆などを手がける。2人の女の子を育てるシングルマザー。長女の子育てを機に、自身にADHDの傾向があることを知る。長女はASDとADHDの特性を持つ。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『「困った」「やってしまった」がなくなる 発達障害ママの子育てハック』
「幼稚園への提出物をすぐ忘れてしまう」「ママ友の中で浮いている」など、子育てにまつわるさまざまな悩みが、ママの発達障害に起因していることも。発達障害当事者の著者が、女性の発達障害に詳しい森先生とともに見つけた解決法を紹介。綾瀬ゆうこ著・森しほ監修/1540円(飛鳥新社)
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。