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小児救急の現場から【乳児ボツリヌス症】発症の様子は?症状は?治療は?

更新


2017年3月に6カ月の男の子が乳児ボツリヌス症で亡くなり、久しぶりに乳児ボツリヌス症の話題がネットや報道に多く取り上げられました。
「1才未満の赤ちゃんに、はちみつを与えてはいけない」ということは、1987年に厚生省(当時)が通知を出して以来、関係各所に広く知れ渡り、その後はちみつを原因とする乳児ボツリヌス症は減少したと言われます。しかし30年たった今では、その話題も風化し、子育て世代に伝えられていないことがわかりました。
ここでは、乳児ボツリヌス症とはどんな病気なのか、かかってしまうと、どんな症状から始まって、どんな治療を行うのかを正しく知ってもらうため、長年、小児救急医療の現場に携わる、北九州八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長である市川光太郎先生に、お話を伺いました。

ボツリヌス菌はどこにでもいる

「ボツリヌス菌」という名になじみがない人がいるかもしれませんが、実は、とても身近に広く存在しているのです。

「芽胞」という種のような形状で潜んでいる

「ボツリヌス菌は、実は土の中、川・海に広く存在している細菌です。多くは「芽胞(がほう)」という、植物でいうところの「種子」のような耐久性の高い形状をしています。そして、増殖に適した環境に運ばれると、発芽して増殖し、強力な毒素を作り出します。その毒素によって引き起こされるのが「ボツリヌス症」です。
ボツリヌス菌は、酸素のない場所を好むため、低酸素の環境に置かれると、増殖していきます。芽胞の状態のままであれば、菌がたくさん存在していても、病気を起こすことはありません」

赤ちゃんの腸の中は菌が増殖しやすい環境

「ボツリヌス菌に汚染されたものを食べても、健康な大人の腸の中は腸内細菌叢*が確立されていて、腸内細菌がボツリヌス菌の増殖を妨げてくれます。しかし1才未満の赤ちゃんでは腸内細菌叢が確立されていないため、ボツリヌス菌が体内に入ると、菌は発芽・増殖し、毒素を産生します。ただし、腸内細菌叢の確立には個人差があり、体調にも左右されます。
とくに抗生剤を使用している場合は、細菌叢が乱れやすいので、1才6カ月までの子は、ボツリヌス菌に注意をしておいたほうがいいでしょう」

*腸内細菌叢とは、腸の中に住みついている多種多様な細菌のまとまり。胎内では無菌だった赤ちゃんの腸には、出生後、ママを含む家族や環境から移行するいろいろな菌が住みつき、腸内細菌叢がつくられていきます。

●ボツリヌス菌で汚染されやすい食品
・はちみつ
・黒糖
・井戸水など
★オーガニックや無添加と表示されているものであっても、ボツリヌス菌の有無には関係ありません。

●ボツリヌス菌が発芽・増殖しやすい食品
・保存食品(主に自家製)
・発酵食品(主に自家製)
・真空パック食品(主に自家製)
★異常膨張や異臭がする場合は、大人も含めて食べないこと

「日本では、乳児ボツリヌス症を起こした例の、ほとんどがはちみつを感染源としています。はちみつ以外にも、井戸水という例も見られます」

小児救命救急の現場から 「乳児ボツリヌス症」8カ月の赤ちゃんの実例

長年、救急医療の現場に携わる市川先生に、実際に小児救命救急センターに運び込まれた乳児ボツリヌス症赤ちゃんのケースを教えていただきました。乳児ボツリヌス症がどのように発症し、赤ちゃんの様子がどうなるのか、そしてどんな治療を受けるのか、現場からのリポートを再現してご紹介します。

3日間便秘が続いたあと、泣き声が弱くなり首もぐらぐらに!

--「8カ月の女児ですが、脱力してグッタリしているとの救急要請です!」とホットラインから連絡があった。
「ほかの症状は?」と聞き返すと、
「なんとなく表情が乏しく泣き声が弱いです。熱は37.2度です」と返事が返ってきた。とにかく搬入OKを指示して、待つことにしたが、特別な疾患名が浮かばない。
「何だろうか?」と考えているうちに救急車が到着して、患児が救急室に運び込まれた。

--女児を診察台に座らせようとしたが、体がぐらついて座れないし、首もぐらぐらする感じがあった。
「昨日までは普通だったんです」と母親は泣き叫ぶように声を上げた。すぐに採血・点滴を行うとともに、頭部MRI検査を行うように研修医に指示して、母親から話を聞くことにした。

--「数日前からなんとなく元気がなく、泣き声が弱いなと思ったけれど、お姉ちゃんの運動会などに連れて行ったから疲れているのかなと思っていました。また、日ごろは1日に2~3回うんちが出るのですが、この3日間はうんちが出ていないです」。
もしかして、と思って
「はちみつか黒糖などを食べさせていませんか?」とたずねると、しばらく考えていたが、
「そう言えば、2週間前に祖母宅に遊びに行ったときに、はちみつを見つけてほしそうにしていたので、小さじ一杯をパンにつけて食べさせました」と答えた。

--ボツリヌス菌による感染症が最も疑わしいと説明するとともに、研修医に便培養とボツリヌス毒素検出用の便と血液の採取を追加するように指示し、人工呼吸器と酸素飽和度モニターを装着して、集中治療室で観察管理入院するように手配をお願いした。

--「土の中などに潜んでいるボツリヌス菌の芽胞はミツバチにも付着することがあり、はちみつにボツリヌス菌の芽胞が混入する場合があります。ただボツリヌス菌は、はちみつの中では増殖ができないので、増殖するのは、食べた後の腸内です。大人では、腸内細菌がボツリヌス菌の増殖を抑えてくれますが、1〜1才6カ月以下の乳児では、腸内細菌叢が未熟なためボツリヌス菌の増殖を抑えにくく、発症の可能性が高くなるのです。はちみつのボトルのラベルには、その注意書きがあるはずですよ」と言うと、母親はがっくりとうなだれてしまった。
「重症になると呼吸筋肉がまひして死亡することがあるので、入院してしっかり治療をしましょう」と言うと、「助けてください」と懇願された。

--5日後、国立環境研究所からボツリヌス毒素を検出したとの連絡があり、症名が確定した。入院中、呼吸の管理や点滴での栄養投与をしながら自然解毒を待つという対症療法を2週間続けた結果、女児の筋力が戻ってきて、おすわりやつかまり立ちができるようになり、声も大きくなり、顔の表情も出てきたので退院とした。

万が一、間違ってはちみつを食べさせた場合は、1カ月は要注意

「乳児ボツリヌス症の最大の予防は、“はちみつや黒糖、井戸水を与えないこと”です。実際に死亡するような重症例は1~3%と言われ、大多数は後遺症なく治ります。とはいえ、怖い感染症に違いありません。万が一、ボツリヌス菌に汚染されたものを食べさせてしまった場合は、すぐにかかりつけ医に相談してください。また以下のことも覚えておくと安心でしょう」(市川先生)

●乳児ボツリヌス症の症状
便秘から始まることが多く、その後、元気がなくなる、表情が乏しくなる、泣き声が弱くなる、筋力が弱くなるなどが現れます。

●潜伏期間
3、4日~1カ月ぐらい。万が一ボツリヌス菌に汚染された食品を食べさせた場合は、1カ月は注意深く様子をみる必要があります。

●治療後の注意点
治療をし、症状が治まっても1~2カ月間は便にボツリヌス菌が出続けるため、ほかの人にうつさないように注意が必要です。

自然界で最強と言われる毒素を作り出す「ボツリヌス菌」。身近に存在する細菌なだけに、赤ちゃんが口にする食品には、注意が必要ですね。
(取材・文/ひよこクラブ編集部)

■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。

【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

※この記事は「たまひよONLINE」で過去に公開されたものです。

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