乳幼児の脳の発達には、鉄が不可欠。しかし日本の子どもの鉄の摂取量は、アメリカの半分以下【専門家】
鉄は貧血予防だけではなく、乳幼児の脳の発達に不可欠な栄養素です。しかし日本は、アメリカやオーストラリアよりも厚生労働省が日本人の食事摂取基準で定めている鉄の摂取推奨量が少ないうえ、実際の平均摂取量も少ないのが現状です。相模女子大学栄養科学部健康栄養学科教授 堤ちはる先生に、乳幼児期の鉄摂取の大切さについて2回にわたって聞きました。1回目は鉄という栄養素が乳幼児の成長に必要な理由について、そして2回目は鉄摂取の方法についてです。
脳に十分な酸素を送るには鉄が必要。鉄は脳の発達を促す大切な栄養素
鉄は貧血予防だけではなく、乳幼児期には脳の発達を促す大切な栄養素です。乳幼児期に鉄不足になると、認知機能などに影響が出ることが、いろいろな研究からわかっています。
――乳幼児期、なぜ鉄が必要なのか教えてください。
堤先生(以下敬称略)鉄不足と言うと、「顔色が悪い」「貧血」をイメージするママ・パパもいると思いますが、鉄は乳幼児期の脳の発達にも必要不可欠な栄養素です。
血液中の酸素を全身に運ぶヘモグロビンは、鉄を含むたんぱく質からできています。乳幼児期の脳の発達には、鉄が欠かせません。
――鉄が不足すると、脳の発達にはどのような影響が出るのでしょうか。
堤 鉄が不足して「鉄欠乏性貧血」になると、乳幼児の場合は脳と神経の形成不全によって、精神運動発達と認知機能の低下が見られることが明らかになっています。
デトロイト(アメリカ)など海外の研究では、鉄欠乏がある子どもに、認知機能の低下が見られました。生後9カ月で鉄欠乏がある子は、1歳6カ月の時点で、2歳で鉄欠乏がある子は、4歳の時点で知能発達の遅れが確認されています。
また1~2歳で鉄欠乏がある子どもたちにその後鉄剤を投与し、19歳で検査をしたところ、1~2歳で鉄欠乏がなかった子どもたちに比べて運動発達や認知機能が低かったということ研究結果もあります。適切な時期に鉄剤を投与しないと効果が小さいのです。
そのためママ・パパは、乳幼児期から意識して鉄を摂取させることが必要です。
日本は、アメリカやオーストラリアよりも鉄の推奨量が少ないうえ、摂取量も少ない
オーストラリア、アメリカなど海外では国レベルで鉄の摂取をうながしていて、子どもたちが実際に摂取している鉄の量は多いです。日本の子どもたちとかなり差があります。
――乳幼児期は、どのぐらいの鉄をとったほうがいいのでしょうか。
堤 日本の鉄の推奨量(※1)は1~2歳で4.5mg/日。しかし摂取量の中央値(※2)は3.5mg/日です。
3~5歳の鉄の推奨量は、5.5mg/日です。しかし摂取量の中央値は4.3mg/日と、1~2歳も、3~5歳のどちらとも推奨量を満たしていません。
また【図1】のとおり、オーストラリアは1~8歳の鉄の推奨量(※3)が9.0~10.0mg/日。アメリカの鉄の推奨量(※4)は7.0~10.0mg/日と、どちらも日本よりも鉄の推奨量が多いうえ、摂取量も日本より多いです。
アメリカの2~5歳の鉄の摂取量の平均値(※5)は11.1mg/日です。「中央値」と「平均値」の直接の比較はできませんが、日本の子どもの鉄の摂取量は、アメリカの半分以下と推定されます。
【図1】海外と比較した、子どもの鉄の推奨量、摂取量と貧血の割合
また、鉄の摂取量が少ない日本は、現在進行中の研究の途中経過の数値ではありますが、子どもの貧血の割合も高い可能性がわかってきました。オーストラリア、アメリカと比較すると2~3倍も高くなっています。
――アメリカ、オーストラリアは、なぜ子どもの鉄の推奨量が多いのでしょうか。
堤 先ほども話しましたが、乳幼児期の鉄の摂取は脳の発達の関連の重要性を意識した数値の設定になっているからだと思います。アメリカは、日本より子どもの鉄の推奨量が多く、貧血の割合が低いにもかかわらず、さらなる鉄の摂取量を推奨しています。国が推奨している量よりも実際の摂取量が多いことにも注目したいです。
鉄はとるのが難しい・・・。海外は、小麦などの添加物で鉄をとる傾向が
堤先生は、鉄はとるのが難しい栄養素だと言います。ママ・パパがかなり意識して摂取させる必要があります。
――なぜ日本の子どもは、鉄の摂取量が少ないのでしょうか。
堤 アメリカ、イギリス、カナダ、トルコなどは鉄が添加された小麦粉が販売されています。モロッコでは塩に、フィリピンではお米に鉄を添加しています。
鉄はもともととりにくい栄養素なので、海外では添加して効率よく鉄を摂取するという考え方です。しかし日本は、現在のところ、通常の食品に鉄を添加するという動きは出ていません。
――食材から鉄をとる場合、何をどのぐらい食べるといいのでしょうか?
堤 1~2歳の鉄の推奨量は4.5mg/日です。これはほうれん草だけで摂取しようとすると約3束。牛乳(1L)ならば22本に相当します。また【図2】のとおり、牛肉の肩赤身ならば190g、卵ならば約5個に相当します。しかし離乳完了期(12~18カ月ごろ)の子どもが、1日で、この量を食べるのは現実的ではないでしょう。
【図2】1~2歳が必要な1日分の鉄の量
また豚レバー、鶏レバーは鉄の含有量が多いのですが、味にクセがあるので食べにくさを感じる子どもも多いですし、ビタミンAをとり過ぎる心配もあります。ビタミンAは脂溶性のため、過剰に摂取すると体内に蓄積されて、過剰症を引き起こす可能性があるので、とり過ぎには注意が必要です。
このように鉄は、通常の食品からは確かに、摂取するのがなかなか難しい栄養素ではありますが、乳幼児の離乳食や食事に鉄入りのベビーフードや鉄が強化されたおやつなども市販されています。それらを上手に活用して、無理なく鉄が摂取できるといいですね。
お話・監修/堤ちはる先生、取材協力/明治 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
※1 日本人の食事摂取基準2020年版
※2 平成28年国民健康・栄養調査
※3 Nutrient Reference Values
※4 Dietary Reference Intakes Summary Tables
※5 What We Eat in America.NHANES 2017-2018
乳幼児は、脳がぐんぐん発達する時期です。脳の発達には食事や睡眠も影響します。毎日の離乳食や食事で、鉄を必要十分な量とることを意識してみましょう。堤ちはる先生へのインタビューの2回目は、乳幼児期に鉄を上手に摂取するためにおすすめの食材や調理方法などについて聞きます。