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小児がんや重い病気の子どもの精神面を支えるファシリティドッグ・アニー。「君の瞳には魔法の力がある」アニーに支えられた子どもの言葉

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ハンドラーの森田優子さんとファシリティドッグ・アニー。そして神奈川県立こども医療センター医師横須賀とも子さん

「ファシリティドッグ」という名前を聞いたことがありますか? 「ファシリティドッグ」は、盲導犬や介助犬、災害救助犬と同じように働く犬です。医療チームの一員として、特定の病院にハンドラー(犬とペアを組む臨床経験のある看護師)と一緒に常勤しています。病院での「ファシリティドッグ」の役割は、小児がんや重い病気の子どもたちが治療を前向きに捉え、自尊心を保てるよう、子どもたちとその家族の生活の質の向上を目指すこと。

日本初のハンドラーとして、ファシリティドッグ・アニーと共に、病気の子どもと家族を日々サポートする森田優子さん、そして森田さんとアニーが勤務する神奈川県立こども医療センターの血液・腫瘍科の医師、横須賀とも子さんに、ファシリティドッグ・アニーの役割、そして子どもたちとの心の触れ合いについて聞きました。

犬が苦手な子にもアニーには特別な存在

ファシリティドッグのアニーは病院スタッフの一員です

――― ファシリティドッグの役割について教えてください。

森田優子さん(以下森田、敬称略):「ファシリティドックだからこれをしなくてはならない」ということが決まっているわけではなく、あくまでもその病院が何をファシリティドッグに望むかによって役割は変わってきます。

私は看護師としての臨床経験があるハンドラーですが、今後、病院の希望によっては、理学療法士や作業療法士がハンドラーになる可能性もあると思います。

現在、勤務している神奈川県立こども医療センターでは、ドクターと看護師さん、そして私(必要に応じて他職種も)で、「この子のこういう場面にアニーがいたらいいよね」と相談しています。それをもとに、医療スタッフが調整して私に連絡をくれます。それがなければ、ただの触れ合いだけで終わってしまいますから。

――― 犬が苦手な子もいるのではないですか?

森田:もちろん、犬が苦手な子どもはいます。でもほかの子がアニーを触っているところを見ながら何日か過ぎると、たいていの子は自分からアニーを触りにくるようになりますね。最初は「犬が苦手だからアニーが来るときはカーテン閉めてください」と言っていた子が、そのうちに平気になって、おやつをあげたり、一緒にボール遊びをしたりするようになります。その様子に感激したお母さんが写真を撮っていました。

横須賀とも子さん(以下横須賀、敬称略):最近は、カーテンを閉めてひとりでゲームをしている子も増えています。でも、アニーが病室に入っていくと、カーテンを開けて出てくる子もけっこういますね。それをきっかけに他の子と話をしたり、プレイルームに遊びにいったり、少しずつ気持ちが外に向いていくようです。

ワンちゃんじゃないよ。アニーだよ。

アニーに何を見せているのかな? 

――― 今のようにファシリティドッグについての認知が広がり、役割が確立するまでは時間がかかったのではないですか?

横須賀:森田さんとアニーがこの病院に配属になったのは、私が赴任する1年前、もう10年も前のことです。ファシリティドッグがいる病院は、当時、ここ(神奈川県立こども医療センター)と静岡県立こども病院だけでしたし、ファシリティドッグの役割を理解している医師や看護師も少なかったでしょうから、森田さんはものすごく苦労されたと思いますよ。

――― 実際に、子どもたちにとってアニーはどんな存在なのでしょうか?

これからカテーテルを入れます。でもアニーがそばにいてくれるから大丈夫

森田:私とアニーは、基本、この病院に常勤しています。子どもたちにとって、毎日、繰り返し会うことによって、アニーとの間に、絆や信頼関係が培われ、「ただの犬」から「アニー」に変化していきます。

新しく入院してきた子が、アニーを見て「ワンちゃんだ」と言うと、長く入院している子が「ワンちゃんじゃないよ、アニーだよ」と教えている場面に出合うことがあります。「ただの犬」ではない「アニー」が一緒だから、痛い処置やつらい検査もがんばろうと思ってくれるのだと思います。

横須賀:入院中の小児がんの子どもたちは、繰り返し痛い検査やつらい治療を受けなくてはなりません。そんなとき、そばにいてくれたり、一緒にリハビリをやってくれたり、アニーの役割は本当に多岐に渡ります。重い病気と闘う長期入院中の子どもたちを精神面でサポートしてくれる存在だと思います。

森田:いつもはドクターや看護師さんから守られている子どもたちにとって、アニーは守ってあげたいと思える存在なんだと思います。

入院中の子どもたちは、検査したり、治療したり、基本的に受け身であることが多いんですね。でもアニーに対しては、何かをしてあげたいと思ったり、一緒に遊んだり、餌をあげたり、主体的に関わろうとしています。そんなときの子どもたちはとてもいい表情をしているんですよ。いかにアニーが彼らの精神的な支えになっているかを感じます。

「君の瞳には魔法の力がある」。アニーに支えられ処置を受けた子どもの言葉

処置するときもアニーがそばにいてくれるから大丈夫

――― 病状が進んだお子さんに対しても同じようにアニーは寄り添っているのですか?

横須賀:どんなに医療が発展しても、残念ながら病気が治らない子どももいます。病気が進行すると、身体が痛かったり、できないことが増えてきたりして、子どもも自分の置かれている状況を薄々感じるようになります。そんなときにこそ、アニーの存在は子どもたちの支えになっていると思います。

アニーはもちろんですが、特にお母さんたちには森田さんの存在も大きいと思います。子どもに付き添う時間がだんだん長くなるなか、毎日のようにアニーと一緒に来てくれる森田さんに心を許すようになります。

私たち医師や看護師さんに見せるのとはまた違った一面を、森田さんには見せられるんだなと感じることがあります。それはきっと、どんな状況になっても変わらずそばにいてくれる森田さんを信頼しているからかもしれません。

森田:子どもに寄り添うアニーを撫でながら、抱えているものがあふれてきて、泣いているお母さんもいらっしゃいますね。

――― 森田さんがこれまでの活動で、心に残っているご両親やお子さんとのエピソードがあれば教えてください。

アニーと森田さんは子どもだけでなく、その家族も支えています

森田:数えきれないほど、エピソードはありますが……。

終末期を迎えたお子さんの横に、アニーが添い寝したことがあります。そのお子さんが亡くなったあと、親御さんがお手紙をくださいました。「もしあのときアニーが来てくれなかったら、きっと泣きながら最期を見送っていました。でも、アニーが来てくれたあの温かい空気感のなかで、みんな笑顔で見送ることができました」。

処置室で骨髄穿刺をしている子どもとアニーがちょうど見つめ合える位置になったことがあります。そのときに、その子が「君の瞳には魔法の力がある」と言ったんです。アニーの瞳を見ているうちに、魔法にかかったように恐怖心が薄れたからでしょうか。私が思っている以上に、この子はアニーを必要としていたのですよね。

写真提供/森田優子 取材協力/神奈川県立こども医療センター、認定 特定非営利活動法人 シャイン・オン・キッズ 取材・文・写真/米谷美恵、たまひよONLINE編集部

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月の情報で、現在と異なる場合があります。

森田優子さんプロフィール

ファシリティドッグ・ハンドラー。現在、神奈川県立こども医療センターにパートナーであるアニーと勤務。2004年、静岡県立大学看護学部看護学科卒業後、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)看護部入職。2009年、『シャイン・オン!キッズ』のファシリティドッグ・ハンドラーに就任。2010年、ファシリティドッグベイリーとともに日本初のファシリティドッグ・チームとして静岡県立こども病院で活動を開始。2012年、ベイリーとともに神奈川県立こども医療センターに転任。2017年、ベイリーの後任犬であるアニーを迎え、活動を継続中。

シャイン・オン!キッズ

神奈川県立こども医療センター

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