毎日の食事は、親子関係を深める第一歩。子どもの様子を観察して、子どもに合わせたサポートを【子どものこころ専門医】
児童精神科医で『ケーキの切れない非行少年たち』の著者で知られる宮口幸治先生。宮口先生は、子どものこころ専門医として、家庭環境における子どもの心への影響などを研究しています。その中で大切なことの1つは、乳幼児期からの食事であると言います。宮口先生に、親子の関係を深める食事について聞きました。全2回インタビューの1回目です。
食事は毎日、何度ものこと。乳幼児期から、食事での親子のかかわり方を考える
宮口先生は、児童精神科医の立場から、食事は毎日のことで、食の場が与える子ども心への影響は大きいと言います。
――2024年4月に著書『こころが育つ! 子どもの食事』を発刊した経緯を教えてください。
宮口先生(以下敬称略) 最初は出版社の担当者から「加害者になる子どもと被害者になる子ども」というテーマについて書いてほしいと依頼がありました。しかし、打ち合わせをするなかで加害者、被害者という前に、そもそも子どもにとって大切な本質は何かという話題になりました。
私は児童精神科医ですが、心理学的な視点からも食の場が与える子どもの心への影響は計り知れないと考えています。
――食の場が与える子どもの心への影響について具体的に教えてください。
宮口 食べるという営みは、生まれてから死ぬまで続くものです。おっぱい・ミルクを飲むというところからスタートして、離乳食を与えると進んでいきます。
授乳したり、離乳食を食べさせたり、家族で食事をしていると、ママ・パパから子どもに言葉をかけることも多いでしょう。しかし、言葉のかけ方や食事中の雰囲気がよくないと、子どもの心に影響を与えることもあります。食事は、毎日のことです。食事の時間の親子のかかわり方を大切にしてほしいと思います。
そして「あれ、わが家は大丈夫?」と感じた方は少し振り返ってみてください。
子どもの気持ちをキャッチして対策を考えられる親に
食事中の親子のかかわりは、親子関係を築く土台につながります。
――食事の時間の親子のかかわり方について教えてください。
宮口 食事に限らず、子どもが何か困っているとき、子どもの気持ちをキャッチして、ママ・パパがどうしたらいいか考えていくのは、良好な親子関係を築くための基本です。
食事は毎日のことですし、こぼしたり、残したり、遊び食べをするなど、どうしたらいいか考える場面が多くあります。毎日の食事こそ、子どもの気持ちをキャッチして、解決の道を探る練習の場だととらえてみてください。
これができるようになると、いい親子関係につながります。子どもは、ママ・パパに「自分を見てほしい!」「自分の話を聞いてほしい!」と思っています。ママ・パパに自分の気持ちをキャッチしてもらえず、頭ごなしにしかられてばかりいては、子どもはだんだん家庭に自分の居場所がなくなってしまいます。
――ほかに食事中、ママ・パパが気をつけたほうがいいことはありますか。
宮口 自分が親にされて嫌だったことをしないことです。けして難しく考える必要はありません。親が厳しくて「食事中におしゃべりは禁止」「残してはいけない」と言われて嫌だった思い出があるママ・パパもいるのではないでしょうか。これは食事に限りません。勉強にしても自分が言われたり、されたりして嫌だったことを、わが子にはしないということです。
また食事中、ママ・パパが携帯電話やスマートフォンを見続けたりするのも、子どもにとっていい見本ではないでしょう。
食事中、しかることが多くなってしまっている場合は、なぜしかってばかりいるのかを考えて
食事中、つい注意をしたり、しかってばかりというママ・パパもいるかもしれません。しかし子どもの気持ちに目を向けると状況が変わります。
――食事中は注意したり、しかることが多いママ・パパもいるようです。
宮口 食事の時間は、本来は楽しいはずなのに「こぼさないの!」「早く食べなさい!」「野菜も食べなさい!」など、どうしても注意をすることが多くなっているママ・パパもいます。
心当たりがあるママ・パパは、なぜそのようにしかることが多いのかをいったん冷静になって思い出してみてください。
子どもの側からすると
「今、食べようと思っていたのに・・・」
「わざとこぼしたわけじゃないのに・・・」
「今は、おなかがすいていないよ。無理に食べたくないよ」
というように思っているかもしれません。
またママ・パパ自身「気持ちに余裕がないから、ついしかってしまうのかもしれない」「一生懸命作ったから、食べてほしいという思いが強くて、しかってしまうのかもしれない」と、食事中、なぜしかってばかりいるのかを考えてみてください。
実際にあった話ですが、仕事から帰ってきたママが、5歳のわが子にちゃんとした手料理を食べさせたくて、帰宅後1時間かけて夕食を作っていました。子どもは空腹なので、少しおやつを食べて待っていました。
1時間後、ママが頑張って作った夕食が何品もテーブルに並んだのですが、子どもはおやつを食べているので完食できません。食事の途中で飽きて、遊び出してしまいました。
せっかく作った料理を食べないわが子にママは怒りがわいてきて、思わず子どもに手を上げてしまいました。
もしママが、おなががすいているという子どもの気持ちにもっと目を向けていたら、防げたことではないでしょうか。
食事の時間は、本来は幸せな時間のはずです。「おいしかった」「ママ・パパと話しながら、ごはんを食べて楽しかった」というプラスの経験は、子どもの心の成長にはとくに大切です。
楽しかった食事の思い出は、その子が大人になったときに、同じことを自分の子どもにしてあげたいという気持ちにもつながります。
お話・監修/宮口幸治先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
ママ・パパは、自分の子ども時代に家族との食事でどのような思い出がありますか。「父親が作るチャーハンがおいしかった」「〇〇を隠し味に入れる、母のカレーが大好きだった」など、心がほっこり温かくなるような思い出があるママ・パパも多いのではないでしょうか。
宮口先生は、「ママ・パパにしかられてばかりいた」という苦い思い出ではなく、子どもが大人になったとき快い記憶として残る食事の思い出を作ってあげてほしいと言います。
宮口幸治(みやぐちこうじ)先生
PROFILE
医学博士。子どものこころ専門医。立命館大学総合心理学部・大学院人間科学研究科教授。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務。2016年より現職。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』『歪んだ幸せを求める人たち』(ともに新潮新書)ほか。
『こころが育つ! 子どもの食事』
●記事の内容は2024年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。