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生まれつきの病気を抱え、医療的ケアが必要なわが子。「娘のために何かできることはないか…」ある決意をした父の思い【体験談】

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リルハウス

埼玉県在住の福岡 崇さんは、長男(12歳)、長女(10歳)、ママの4人家族。

長女のKちゃんは、生まれつき気管が狭く、呼吸困難や窒息を引き起こす「先天性気管狭窄症(せんてんせいきかんきょうさくしょう)」という病気を抱えており、医療的ケアが必要です。

福岡さんは自身の経験から、医療的ケア児や重症心身障害児(以下重心児)など、医療依存度の高い子どもを安心して預けることができる重心型放課後等デイサービス「リルハウス」を開設。今回は、リルハウスを開設することになった経緯や活動への思いについて話を聞きました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

娘が利用できる放課後等デイサービスがないという現状を知り、自分でつくることを決意

小学1年生ごろのKちゃん
小学1年生ごろのKちゃん

Kちゃんが生まれる前は、障害に関する知識がほとんどなく、身近に感じることもなかったという福岡さん。しかし、Kちゃんの誕生をきっかけに、障害について深く考えるようになり、自身が障害者のためにできることを模索するようになったそう。

「娘が小学生になり、まわりの障害のある友だちが放課後等デイサービス(障害のある小学生から高校生が利用できる通所支援サービス)に通い始める中、娘自身が『どうして私だけ行けないの?』と疑問を持ち始めたんです。

というのも、ほかの子たちは知的障害を持つ子がほとんどですが、娘の場合は医療的ケアが必要。放課後等デイサービスを選ぶのにも“施設に看護師がいること”などの条件があり、いろいろな施設に問い合わせても断られてしまいました。

そこで目の当たりにしたのが、医療的ケア児や重心児のケアを行っている施設が世の中に非常に少ないという現状。たとえば私の住む埼玉県では、ふつうの放課後等デイサービスが約800軒あるのに対し、重心児を対象にした施設は30〜40軒ほどと、かなり少ない。私の居住するエリアにしぼると1軒もありませんでした。

ちょうどそのころ、自分の中で『障害のある人のために、これから将来に向けて何かできることがないか』と考えていたところだったので、『そういった施設が少ないのであれば自分で立ち上げようかな』と思い立ったんです。

とはいえ私はまだ会社勤めをしていたので、仕事をしながら1年くらいかけて情報を得るなど、模索しながら準備を進めました」(福岡さん)

“まるで自宅に帰ってきたかのような安心感のある”デイサービスをめざして

福岡さんが開設したデイサービス「リルハウス」
福岡さんが開設したデイサービス「リルハウス」

福岡さんがデイサービスの開設を思い立ってから実際に会社の立ち上げに向けて動き出したのは、およそ1年後のこと。デイサービスを運営するためには法人格が必要なため、2023年に「株式会社すずなみ」を設立しました。

「会社を立ち上げてから物件や働いてくれるスタッフを探し、2024年10月にようやく重心型放課後等デイサービス『リルハウス』をさいたま市に開設することができました。

“リル”はフランス語で“笑顔”と言う意味。施設自体が一軒家なこともあり、まるで自宅に帰ってきたような安心感のある空間で、利用者や、その家族のみなさんが笑顔で過ごせる場所にしたいという思いを込めています。

一般的な放課後等デイサービスは、特定の支援プログラムに基づいて活動することが多いですが、当施設の利用者は重度の障害を持つ子どもが多いため、支援プログラムを定めつつも、1人ひとりに寄り添ったマンツーマンのケアを大切にしています。

まだ開設して数カ月ですが、実際に利用されているご家族からは『重度障害児を受け入れてくれる施設が少ないので、預かってくれて助かる』『安心してお願いできる』という声をいただいています。

とくに印象的だったのは、あるお母さまのエピソード。その方は仕事をしたかったものの、子どもを預ける場所がないためにしばらく就職が決まらない状況だったそうで…。当施設を利用することで仕事が決まったと喜んでいらっしゃいました。そういった声を聞くと、『リルハウスを立ち上げてよかった』と感じます。

娘もこの施設を利用していますが、スタッフと過ごす時間や、さまざまな刺激が楽しい様子。その姿を見ると私自身もうれしいです」(福岡さん)

“医療的ケア児や重心児向けの施設が少ない”という現状だけでも知ってほしい

リルハウスで過ごすKちゃん
リルハウスで過ごすKちゃん

リルハウスの開設から約半年。福岡さんは今の課題をこう話してくれました。

「課題としては、まだスタッフの多くが医療的ケアに関して経験が浅いこと。みんなで経験を積みながら、支援やケアのあり方について改善を重ねていきたいです。また、利用されているご家族から『リルハウスだからこそできる支援プログラムをやってほしい』という声もいただいているので、いずれ特別なプログラムを充実させていきたいと考えています」(福岡さん)

また、福岡さんには実際にリルハウスを開設して実感したことがあるそう。

「リルハウスを開設してあらためて実感したのは、医療的ケア児や重心児に対応できる施設がまだまだたりないということ。開設して数カ月しかたっていないにもかかわらず、多くのお問い合わせをいただきます。

しかし、リルハウスでは対応しきれない地域も多く、お問い合わせをいただいても断らざるを得ないのが現状。いずれはさいたま市の施設だけでなく、まだ重心児向けの施設が少ない地域で2つ目、3つ目の施設を展開したいと考えています。

さらにこうした施設では、専門的な看護師さんや理学療法士など、専門職の配置が必須ですが、そうした人材もまだまだ不足している。だからこそ、少しでもこの分野に興味を持って、『こういった施設で自分にも何かできることがあるかもしれない』と感じてくれる方が増えたら、とてもありがたいなと思っています。

これまでは、娘の育児に親身になってくださった方々に学びながら『障害を持つ人やその家族に何か少しでも力になりたい』という一心でリルハウスを立ち上げ、運営してきました。

今後は重心児向けの施設や、そこで働く人を増やすためにも、とにかく“医療的ケア児や重心児向けの施設がとにかく少ない”という現状を多くの人に知ってもらいたい。そのために、私にできることを模索していけたらと考えています」(福岡さん)

お話・写真提供/福岡 崇さん 取材・文/安田 萌、たまひよONLINE編集部

自身の経験から、重心型放課後等デイサービスを開設し、医療的ケア児や重心児の子どもがいる家庭の助けになればと活動を続ける福岡さん。

最後に、これからお子さんを育てるママやパパに伝えたいことを聞くと、「私自身、子どもが『五体満足』で生まれてくるということは奇跡なんだなと、あらためて強く感じています。子育てをしていると、さまざまな悩みや困難に直面することがあると思いますが、たとえ障害があったとしても、それは『かわいそう』とか『たいへん』とひとくくりにできるものではないと思うんです。子どもの障害の有無にかかわらず、その家庭ごとにさまざまな努力や工夫を重ねて、前向きに取り組んでいる。今悩みや不安の中にいるママ・パパにも、悩みすぎず、落ち込みすぎず、子育てに前向きな気持ちで取り組んでほしいと心から思います」と、話してくれました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

福岡 崇さん

PROFILE
2児の父で、長女のKちゃんは医療的ケア児。長女を育てる環境の中で、重心児や医療的ケア児を対象としている通所施設や医療依存度の高い子どもを安心して預けることができる場所とても少ないことを知り、全国でもまだまだ少ない、重心型放課後等デイサービス施設を立ち上げることを決意。2024年10月に重症心身障害児や医ケア児に特化したデイサービス「リルハウス」を開設し、代表を務める。

リルハウス

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年4月の情報で、現在と異なる場合があります。

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