「もうあなたの帰る場所はない」妻のひと言で人生が変わった。育児のSОSに立ち向かう2児の父
「育児は幸せなもの」そう思っていても、現実はきれいごとだけではすみません。だれにも頼れず、1人で抱え込んでしまう瞬間もあります。そんな声に応えるために生まれた「育児119」。「育児119」は、「今すぐ助けてほしい」に応えるため、365日・24時間体制で相談を受け付ける育児支援サービスです。立ち上げたのは、子育て業界とは無縁だった1人の会社員で2児の父、石黒和希さん(30歳)。石黒さんにサービス誕生の背景と、そこに込めた思いを聞きました。全2回のインタビューの前編です。
「母親失格…」SNSで届いた、想像以上に切実な声
石黒さんは長女が生まれた約7年前からリアルな育児を知ってほしいと「育児のウラ側」について、パパとしての目線でSNSで発信し始めました。すると徐々に育児についての相談がDMで届くようになり、相談される側になって初めて見えたことがあったと言います。
――365日・24時間体制で相談を受け付ける、育児支援サービスを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
石黒さん(以下敬称略) 最初は本当に、SNSで自分の育児のことを日記みたいに書いていただけでした。フォロワーを増やそうとか、事業につなげようなんて、まったく考えていなかったんです。ただ、当時はパパ育児が少しずつ注目され始めていた時期で、気づけばフォロワーがどんどん増えていきました。
すると、DMで育児相談が届くようになったんです。「育児がつらい」「母親失格だと思ってしまう」「もう限界で、消えてしまいたい」。多いときには1日に10件以上届くこともありました。共働きや核家族化が進む中で、これは個人の努力の問題ではなく、社会の課題なんじゃないかと感じるようになりました。
そんなとき、X(旧Twitter)で目にした「今助けてほしいに答えてくれるサービスがあったら」という投稿が、心に強く残りました。「これかもしれない」と、雷が落ちたような感覚でした。
子育てのリアルは、きれいごとだけじゃない
石黒さん自身、7歳の女の子と3歳の男の子の父親でもあります。
――「育児119」の立ち上げには、自身の子育て経験も影響していますか?
石黒 かなり影響していますね。深く印象に残っている自身の体験としては、子どもが1歳くらいのころ、フードコートで初めて家族で外食をしたんです。久しぶりの外食に浮かれて、僕は自分の好きなラーメンを頼みました。一方、妻は子どもと一緒に食べられるうどんを注文していて。
僕が夢中で食べていると、「私はこの残りで大丈夫」と、妻が汁を吸いきったようなうどんを食べていたんです。まわりを見渡すと、同じように自分の食事を後回しにしているママたちがたくさんいて。「あ、自分はパートナーとして、全然見えていなかったな」と気づかされました。
もうひとつ、長女の夜泣きも忘れられません。どんなにあやしても泣きやまないので、しかたなく、深夜3時に子どもを抱っこひもに入れて、夏の夜道を歩きました。明け方、ふと見上げた満月に「頑張れ」と言われているような気がして何とも言えない気持ちになりました。子育てはかわいいだけじゃない。つらさや「少し離れたい」という感情も、子どもを大切に思っているからこそ生まれるものなんだと、自身の体験によって強く感じました。これらの体験がサービスの立ち上げにも深く影響していると思っています。
実績ゼロ、理解ゼロ。それでも進むしかなかった
365日・24時間、「今、助けてほしい」に応えるサービス「育児119」を立ち上げるには大変な苦労もあったそうです。
――起業にあたって、どんな苦労がありましたか?
石黒 もう、苦労しかなかったです(笑)。「育児119」では、要望があった方のところにサポートにうかがうベビーシッターのことを「頼ってさん」と呼んでいますが、当初は実績もなく、現場で動いてくれる「頼ってさん」も17名からのスタート。子どもの命を預かる以上、安全の担保や研修制度、ルール作りには本当に神経を使いました。
行政や関係機関にも相談しましたが、「前例がない」「危なくないですか?」と、門前払いされることも少なくありませんでした。世の中にまだ存在しないしくみをつくることの難しさを、身をもって感じましたね。
なかでも一番悩んだのが、料金設定です。既存のベビーシッターサービスはすばらしい一方で、どうしても経済的に余裕のある家庭向けという印象があります。でも、私たちが助けたかったのは、「本当は人の手が必要なのに、料金であきらめている」家庭でした。
安くすれば事業として続かない。高くすれば助けたい人に届かない。民間主導なので補助もない。そのジレンマに、何度も立ち止まりました。最終的には、フォロワーを中心に12万人の声を聞き、「まずは使ってもらえる形をつくろう」と腹をくくりました。完璧じゃなくていい。たりないところは、使ってもらいながら直していこう。そう決めたんです。
「制服、捨てたよ」、家族がくれた覚悟のスイッチ
起業を迷う石黒さんの背中を押したのは、妻に話したときのある出来事でした。
――起業を決めたとき、家族やまわりの反応はいかがでしたか?
石黒 一番大きかったのは、妻の存在です。2人目の子どもがおなかにいるときに、「これをやりたい」と話しました。正直、「何で今なの?」と言われると思っていましたし、自分でもそう思っていました。
妻はその場では何も言わず、「1日考えさせて」とだけ言いました。当時、僕は制服のある会社に勤めていたのですが、翌朝、「制服、捨てたよ」と言われたときは、頭が真っ白になりました。あとから聞いたら、実際は押し入れの奥に隠していただけなんですけど(笑)。でも、それは「もう会社に戻れない状況をつくったよ」「覚悟を決めてやりなさい」という、最大のエールだったんです。
――周囲で反対した人はいなかったんですか?
石黒 もちろん、厳しい声というかアドバイスもありました。SNSのフォロワーの中に某有名コンサル会社の方がいて、その人に話を聞いてもらったんです。そしたら、即答で「やめたほうがいい」と言われました。
「なんで世の中に今、ないと思う?なんで大手がこれやらないと思う? リスクがあって、もうからないからだよ、やめときな」と。終わったあとに、くやしくてくやしくて…。涙が出ました。でも、冷静になると、そのくやしさがバネになって「絶対やってやる」という気持ちになったんです。追い風もあったし、向かい風もありましたけど、それがあっての今だなってすべてに感謝しています。
その後、SNSで「育児119」の立ち上げを報告すると、7万「いいね!」がつき、1500件のコメントと2000件のDMが一気に届きました。「こんなサービスを待っていました」「私も同じことを考えていました」「何か力になりたい」。保育士さん、看護師さん、エンジニアさんまで名乗り出てくれて。1人では絶対にできなかった。でも、旗を立てたら仲間が集まってくれた。その感覚は、今も忘れられません。
お話・写真提供/石黒和希さん 取材・文/木下祐紀子、たまひよONLINE編集部
子育ては、1人で抱え込まなくていい。助けを求めてもいい。その選択肢が当たり前にある社会をつくるために石黒さんは今日も動き続けています。
インタビュー後編では、実際に「育児119」に寄せられる切実な相談内容や、子育て中のママ・パパの現状について聞きます。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
石黒和希さん(いしぐろかずき)
PROFILE
株式会社なつのそら代表。Instagramにて「育児のウラ側」を、本音で発信し、フォロワーは11.4万人以上!2児の父親として、育児の大変さ・孤独感をリアルに経験。「子育てに悩む親御さまを救いたい」という思いから最短1時間で駆けつけ可能な育児サポート『育児119』を立ち上げる。「頼る」をもっと当たり前に。LINEで簡単に依頼できる新しい形の子育て支援を広めている。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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