1本の電話が救った親子の命。365日・24時間のSОSに応えるサービスを立ち上げた2児の父に聞く、育児の今
子育てをしていると、「これくらいでだれかを頼っていいのだろうか」と迷う瞬間があります。ですが実際には、その迷いの先に、取り返しのつかない状況が潜んでいることも少なくありません。「育児119」は、「今すぐ助けてほしい」に応えるため、365日・24時間体制で相談を受け付ける育児支援サービスです。今回は、実際の相談事例やデータをもとに、子育ての現場で何が起きているのか、そして「頼ること」の大切さを、運営者の石黒和希さん(30歳)に聞きました。全2回のインタビューの後編です。
「これは緊急度が高い」1本の電話から始まった出来事
「育児119」は電話やLINEで育児の困りごとを聞き、アドバイスをしたり「頼ってさん」という人材を自宅に派遣する24時間体制のサービスです。以下は、「育児119」が実際に対応したサポートの内容をXに投稿したものです。
『あと一歩遅れていたら、取り返しのつかない夜になっていたかもしれない。
時計が 20:30 を指したころ、スマホのバイブが胸の奥をざわつかせました。
耳をあてた瞬間。震える息の合間に、張り裂けそうな赤ちゃんの泣き声が流れ込んできて、その音だけで、状況のすべてを悟りました。
何も見えていないのに、胸の中で何かが音を立てて崩れていくような感覚。
急いで頼ってさんを手配し、21:20、玄関に辿り着きました。
扉の向こうは、静寂とは程遠い、心がちぎれそうな空気。
支援が終わる頃、泣き疲れて眠る赤ちゃんの横で、お母さんはかすかに笑って、小さな声で言いました。
「来ていただいて、本当にありがとうございました」
その一言に込められた重さを、私たちは忘れません。』(原文ママ)
――この電話を受けたときの状況を教えてください
石黒さん(以下敬称略) 実は、この電話は私が受けました。電話口のお母さんは泣いていて、声も震えていて、赤ちゃんの泣き声も響いていました。すぐに「ただ事ではないな…」と思いました。電話をかけること自体が、相当な勇気だったと思います。
私がまず伝えたのは、「頼ってくださってありがとうございます」というひと言でした。すると、声のトーンが少しだけ落ち着いたのがわかって。今の状況を聞き取りながら、「必ずそちらに向かえるスタッフ(頼ってさん)を手配しますから、少しだけ待ってください」と伝えました。
すぐに連絡を回すと、15分ほどで対応できる「頼ってさん」が見つかり、電話から約1時間後にはご自宅に到着できました。玄関の外からでも赤ちゃんの泣き声が聞こえるほどだったそうです。
その後、お母さんにはまずおふろに入ってもらい、少し子どもから離れる時間をつくりました。普段は深夜帰宅のお父さんも、その日は早めに戻られて、「妻のために迅速に対応してくださって本当にありがとうございます」と夫婦そろって感謝の言葉をいただいたと報告を受けました。
――振り返って、どんなことを感じましたか?
石黒 もし、あのときに電話をかけてこなかったら、それをこちらが受けられなかったら…と考えると、今でも胸がしめつけられます。本当にギリギリのタイミングだったと思います。「頼るハードルを下げること」の重要性を、改めて強く感じた出来事でした。
なぜ、ここまで追い込まれてしまうのか
緊急度の高い依頼や相談は、昨日も、一昨日も、今日も・・・。毎日のように入ってきます。
――こうした相談の背景には、何があると思いますか?
石黒 共働きや核家族化が進んでいることに加えて、コロナ禍の影響も大きかったと感じています。以前は、近所同士で子どもを預かりあったり、家族以外の大人が自然にかかわったりする環境がありましたが、今はそれが難しくなっています。
出産後、数日で退院し、すぐに育児が始まる。とくに1人目の場合、何もかもが手探りです。SNSで他人と比べてしまい、「自分はうまくできていないのでは」と感じてしまう方も多い。社会から切り離されたような感覚の中で、1人で頑張り続けてしまう状況があると思います。
さらに、日本では「人に頼ること」や「お金をかけて余白をつくること」への心理的ハードルが、まだまだ高い。結果として、限界まで我慢してしまい、余裕を失い、自己嫌悪に陥る。そんな悪循環が起きているのではないでしょうか。
数字が示す「本当は頼りたかった」という気持ち
現在は、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・茨城県・福岡県で利用可能、利用者数もサービス開始から1年でどんどん増えています。
――実際には、どのくらいの相談が寄せられているのでしょうか?
石黒 2025年1月に本格始動してから、累計で1500件以上の相談がありました。直近では月200〜300件ペースで、1日あたり7〜8件ほどです。広告費はいっさいかけていませんが、SNSやメディアを通じて少しずつ広がっています。
相談内容で一番多いのは、「同じ部屋でいっしょに子どもを見てほしい」というものです。何か特別なことをしてほしいわけではなく、「大人がもう1人いるだけで助かる」という声が多いですね。
次に多いのが、「少しだけ1人の時間がほしい」という相談。仮眠を取りたい、美容院や病院に行きたい、といった理由です。そして3つ目が、「ただ話を聞いてほしい」。アドバイスはいらないから、気持ちを吐き出したい、という方も少なくありません。
特徴的なのは、利用者の9割以上が「外部サービスを初めて使った」という点です。1度利用すると、約75%の方がリピーターになります。最初の一歩のハードルがいかに高いか、そして1度利用すると「頼ってよかった」と感じる方が多いことがわかります。
チームで子育てをする、という考え方
「育児119」を全国に広げて、だれもが利用できる選択肢にすることが人生のミッション」と石黒さんは言います。
――たまひよは「チーム育児」を掲げていますが、石黒さん自身はチームで育児をすることをどのようにとらえていますか?
石黒 私自身、もともとは頼るのが苦手でした。でも、育児にだれかの手を借りることで、時間と気持ちに余白が生まれ、結果的に子どもにいい接し方ができることを実感しています。また、親だけでなく、いろいろな大人とかかわることは、子どもの成長にとってもプラスになると思っています。
少子化対策というと、給付金などの話題が出がちですが、「安心して産み育てられる環境」がなければ、本質的な解決にはならないと思うんです。「1人で抱えなくていい」という空気が、地域や社会に根づいていくことが大切だと感じています。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
石黒 日々、子育てしている皆さんは本当に最善を尽くしていると思います。うまくいかなかったと感じる日があっても、そのときの自分なりの最善だった、ということをまず認めてあげてほしいです。
今すぐ何かしらのサポートを受けなくてはならない、というわけではありません。ただ、「頼っていい」ということは忘れないでほしいです。「育児119」が皆さんの心のお守りのような存在になれるよう、これからもSОSに寄りそえるしくみをつくっていきたいと思います!
お話・写真・画像提供/石黒和希さん 取材・文/木下祐紀子、たまひよONLINE編集部
子育てのしんどさは、だれにでも訪れます。1人で抱え込まず、困ったときに頼るという選択肢があること。その安心が、親の心に少しの余白を生み、家族の日常を支えてくれるのではないでしょうか。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
石黒和希さん(いしぐろかずき)
PROFILE
株式会社なつのそら代表。Instagramにて「育児のウラ側」を、本音で発信し、フォロワーは11.4万人以上!2児の父親として、育児の大変さ・孤独感をリアルに経験。
「子育てに悩む親御様を救いたい」という思いから最短1時間で駆けつけ可能な育児サポート『育児119』を立ち上げる。「頼る」をもっと当たり前に。LINEで簡単に依頼できる新しい形の子育て支援を広めている。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。


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