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計算ができないのは「努力不足」ではない。「算数障害」のわが子と歩んだ父が、絵本に込めた普通にこだわらない勇気

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絵本「すうじのないまち」を出版した水木志朗さん。

計算や数字の概念が苦手な「算数障害」。自身の子どもが算数障害と診断された水木志朗さんは、理解が進まない現状を変えるため、自ら出版社を立ち上げ、絵本『すうじのないまち』を出版しました。
水木さんに制作の舞台裏と、多様性を認め合う社会への思いを聞きました。
全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

算数障害を知ってもらう入り口になるような絵本づくりを決意

水木さんが出版社を立ち上げ出版した絵本「すうじのないまち」。

――水木さんは2025年、算数障害をテーマにした「すうじのないまち」という絵本を出版しました。なぜ算数障害を取り上げたのでしょうか?
 
水木さん(以下敬称略) 現在では成人している私の子どもは、今から8年ぐらい前の高校1年生のときにASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、算数障害と診断されました。
算数障害とは、知的能力に問題がないのに、認知能力のアンバランスさによって数字の理解や計算などが著しく苦手な学習障害の1種です。数の大小関係や順序をつかみにくい、暗算などの計算方法を習得しにくい、文章問題の意味を理解しにくいといった特徴があります。
私の子どもは、小さいころから数に関して苦手な部分がありました。数の順番や量が理解できていないところがあったようです。また、買い物で「〇割引き」となっているものがいくらになっているのかを計算するのも難しく感じていたようです。
けれど、苦手だということをうまく周囲に伝えられずにいました。学校に通えなくなった時期もあります。

もし身近にいる私たちが早い段階で、子どもの特性に気づいていたら、もっとサポートができていたかもしれません。でも、当時は発達障害や学習障害について、ほとんど知られていませんでした。

子どもが診断されたのをきっかけに、私も算数障害について勉強しようと思いました。ところが当時、この特性について書かれた書籍がほとんどなく、知識を得るのにとても苦労しました。
算数障害をたくさんの人に知ってもらうため、入り口となるようなわかりやすい本を作りたいと考えたんです。

――絵本という形で出版したのはなぜでしょうか?
 
水木 算数障害は、子ども自身だけでは気づけない部分も多々あります。まずは周囲にいる大人が察知し、適切なフォローをしてあげるのが大事だと思います。
とはいえ、算数障害についての知識がないと、大人も認識するのが難しいはずです。
だから私は、親子で読める絵本という形で出版したいと考えました。子どもでも理解しやすい内容であれば、特性のある子ども自身が「こういう困りごとは自分にもある」と共感できます。大人も「うちの子どもも似ている部分があるかもしれない」と理解できる場合もある気がします。

そして、たくさんの人にこうした困りごとがあることを知ってもらいたいとも思っています。社会のなかで理解する人が増えれば、気づいてもらえる子どもも増えるはずだからです。

既存の枠組みにとらわれない。「アノマーツ出版」の名前にこめた3つの思い

リモコンに数字が記載されていないことで、算数障害の子どもの世界を表現しています。

――「すうじのないまち」の出版のために水木さんは「アノマーツ出版」を立ち上げました。既存の出版社に絵本の企画を提案する形ではなかったのはどうしてでしょうか?
 
水木 仮に既存の出版社に絵本の企画を持ちこんでも、出版するのは難しいのではないかと感じたんです。
それに私にとって算数障害は、自分の家族の困りごとであり、身近なものでした。だから、思いをまっすぐに伝えたいという気持ちがありました。
とはいえ、出版社を立ち上げ、絵本を出版するまでには時間はかかりました。準備に2~3年はかかったと思います。

――アノマーツ出版という名前はどのように名づけたのでしょうか?

水木 「アノーマル」、「ノマド」、「アート」という3つの言葉をかけ合わせました。アノーマルというのは、大多数の人と少し違う存在という意味です。ノマドは遊牧民を指します。自分たちにとって居心地のいい場所を探して旅をする人という意味を込めました。アートは芸術。大多数の人と少し異なる部分があっても、自分たちのよりよい場所を探していこうという思いを込めています。

算数障害をわかりやすく、楽しく伝える工夫を凝らして

数字が空に飛んでいく描写は、絵本としての楽しさもあります。

――絵本を作る上で大変だったことはありますか?
 
水木 制作するうちに、算数障害を絵本で表現するのがなかなか難しいことに気づきました。
数の概念を理解するのが苦手という部分をどのように表現したらいいのか悩みました。それに、算数障害をテーマにしていると聞くと、読者は「難しそう」と身構えてしまうかもしれません。どうしたら楽しく、前向きに伝えられるかを考えました。

ストーリーや文章は、以前から面識のある児童文学作家の濱野京子さんにお願いしました。言葉で説明するのは難しい部分も、濱野さんはとてもわかりやすくお話にしてくれました。

絵を担当したユウコアリサさんは自身のお子さんが算数障害の当事者で、算数障害に理解があり、色彩豊かな素敵な絵を描いてもらいました。
そして、多くの絵本の編集を手がけている池田春子さんにもアドバイスしてもらいました。算数障害研究の第1人者である筑波大学名誉教授の熊谷恵子先生にも解説をお願いし、算数障害についてわかりやすく伝えられたのではないかと思います。

――絵本にはどんな反響がありましたか?

水木 自身も発達障害があり、算数障害も公表されているライターの姫野桂さんが、SNSでこの本を知ってくれたようで、読んでくれました。絵本の内容について共感したと感想を寄せてくれたのを見て、当事者の人にもわかりやすく感じてもらえたのかとうれしかったです。
また、発達障害だと公表されている細川貂々さんも絵本の帯にメッセージを寄せてくださいました。算数障害にも理解を示してくださり、小さな出版社を応援したいと言っていただきました。まだ名もない出版社としてはとても心強かったです。 
出版後は、朝日新聞や毎日新聞をはじめ、さまざまな取材の依頼もあり、関心を抱く人が多いのだと感じます。

眼鏡をかけるように、適切なサポートを。知ることで救われる子どもたち

――最近は発達障害や学習障害の子どもが増えていると感じる人がいます。水木さんはどのように思われますか?

水木 増えているというよりも、これまで見落とされていた子どもたちの存在が、気づかれやすくなったのではないかと思います。医療も進み、社会が少しずつ多様性を受け入れるようになってきたんだと感じます。これはとてもいいことだと思います。

――特性のある子どもたちを支援するために必要なことはどんなことだと思いますか?

水木 まずは知ってもらうことが大事だと感じます。子ども自身は困りごとがあってもそれを言葉にすることができず、何が大変なのか周囲に伝えられないことも少なくないと思います。

最近はさまざまな場所で、発達障害や学習障害が取り上げられようになってきました。それは理解を深めるための第1歩ではないかと思います。知っている人が増えれば偏見をなくすこともできると思うんです。

視力が落ちても、眼鏡が助けになるように、特性があっても適切なサポートと周囲の理解があれば、安心して生活することができます。そのためには、もっとたくさんの人に知ってもらいたいと考えています。

――今後はどんな活動を考えていますか?

水木 発達障害や不登校、多様性をテーマにした児童文学や絵本を出版していきたいです。親子で楽しく読めて、理解を深めていける本を作っていけたらと思っています。

お話・写真提供/水木志朗さん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

「目が悪くなったら眼鏡をかけるのと同じく、算数障害にも適切なサポートを」。水木さんの言葉には、個性を否定せず、環境を整える大切さが詰まっています。1冊の絵本が、生きづらさを抱える親子の世界を優しく変えるきっかけになるはずです。

水木志朗さん(みずきしろう)

PROFILE
デザイナー。アノマーツ出版代表。北海道生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン科卒業。氷河期世代。雑誌や書籍のデザイン事務所を退社後、いくつかのデザイン事務所に勤務。2009年にエディトリアルデザイナーとして独立。不登校、発達障害の子育て、両親の介護などを経験。一念発起し2025年にアノマーツ出版を設立。出版第1号が絵本『すうじのないまち』。

アノマーツ出版のサイト

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2026年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

『すうじのないまち』

“算数障害”をテーマに描かれた、おばあちゃんが話してくれた不思議なまちの少女との出会いの物語。 困り事のある子どもと社会を繋ぐ絵本。 濱野京子・文、ユウコ アリサ・絵 /1980円(アノマーツ出版)

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